1,389 / 1,903
不思議な感触の何かも三人で
しおりを挟む「なんでもないよ……っ。足場結界っと……これで、不思議な感触の壁のすぐ近くまで行けるよ」
「……リクさん、本当に大丈夫なの? なんだか少し様子がおかしいけれど」
「結界を張るのに、こめかみを抑える必要はないのだわ。どうしたのだわ?」
不思議な感触のすぐそばまで足場結界を作り出し、何でもないと示すようにモニカさん達の方を向いて、笑う。
けど、モニカさんとエルサは、そんな俺の様子から不自然さを感じたようだ……フィネさんやリネルトさんも、少し訝し気にこちらを見ている。
まぁ、思わずこめかみを抑えていたし、見られていて当然だからね。
でも、その痛みやノイズみたいなものももう一切なくなっていて、動く事や話す事に支障はない。
「大丈夫。ちょっとだけ変な感じがしたけど、多分ずっと寝ていないからだと思う。俺自身は、あまり疲れた感じはないんだけど……体の方はちょっと疲れを感じているのかもね。寝不足とか」
「あ、そうよね。私達にとってはヒュドラーとかと戦っている時から、一日も経っていないけど。リクさんにとっては十日だったかしら? そんなに経っているみたいだものね」
「……怪しいけど、そういう事にしておくのだわ」
問題ない事を示すように、モニカさんに笑いかける。
モニカさんは納得したようだけど、頭にくっ付いているエルサは不承不承頷いたのが伝わってきた。
さすがに、平気な振りをしていてもエルサにはなんとなく、違和感のようなものが伝わってしまったのかもしれない。
今モニカさん達に言った寝不足というのは、半分本当で半分嘘だ。
俺の体はともかく、意識としては飲み込まれていたのでずっと起きていたという感覚はない。
それに、魔力が充実しているせいか、疲れもほとんど感じていない。
ただ、俺が感じないだけで体は確かに寝てはいなかったはずだから、そういう事もあるかもとね。
人間が、十日以上も寝ずに過ごせるかというのはともかく、体がずっと起きていればそういう事だってあるだろう……特に、イメージするのは頭の中なので、脳内が疲労をため込んでいる可能性とかもあるかもしれないし。
ノイズというと、ユノ命名のバーサーカーモードの時、敵を倒す事以外がノイズのように感じられていたから、それも何かしら関係していたりするのかも?
いや、こじつけだけど……バーサーカーモードには今回なっていないし。
なんにせよ、もうすぐ隔離結界の中に入れるんだから、その後はゆっくりと寝させてもらえば大丈夫だろう。
「それじゃ俺は無理しないように、離れて見ておくよ」
「えぇ、任せて」
「任せて下さいねぇ」
「はい!」
手を振って離れる俺に、それぞれ頷いて応えるモニカさん達。
三人がそれぞれ視線を合わせ、新しく俺が作った足場結界に乗って武器を構える。
あ、さすがに三人並ぶには穴の幅が狭いから、フィネさんとリネルトさんが前で、モニカさんが後ろにいるんだね。
武器を振るわなきゃいけないから、並んで詰まらないようにだろう。
「では……いざ!」
大きく斧を振りかぶるフィネさんは、氷を砕いていた投擲にも使う斧ではなく、ワイバーンの素材を使って作られた青い刃の両刃で少し大きめの斧。
ラブリュスっていうんだったっけ? 確か、もっと大型なのをリリーフラワーのおっとりアンリさんが持っていたっけ。
「行きますよぉ! せっ! はっ! たっ!」
短い呼気と共に、振りが大きいフィネさんの間断を縫うように、素早く何度も剣を繰り出すリネルトさんはあまり特徴のないショートソード。
とはいえ次善の一手を使っているのもあるけど、その切れ味は申し分なく……さっきは斬ろうと振るったら、途中で受け止められると言っていた様子は見られない。
振り下ろせば下まで、振り上げれば上まで抵抗らしい抵抗もなく、斬り裂けているようだ。
さすがに、横薙ぎにはフィネさんが横にいるためできていないけど。
「モニカさん!」
「えぇ! はぁっ!」
フィネさんが斧で大きく外側を斧でぶった斬り、リネルトさんが細かく切り刻む。
さらにフィネさんから声をかけられたモニカさんが、手を止めて隔離結界に体を張り着かせ、空間をあけた二人の間に入り、魔力を纏わせた槍で突きを放つ。
そういえば、モニカさんの槍がいつの間にか以前から使っている物になっているね……対ヒュドラーの作戦開始前、ワイバーンの素材を使った槍を受け取っていたはず。
レムレースと戦っていた時は持っていたと思うけど、どこかで落としたんだろうか? 壊れるなんて事はそうそうないと思うけど……。
「っ! 再生しているの!?」
「いえ、というよりは新しい壁が発生している、と言った方が正しいのかもしれません」
「細かい違いはわからないけどぉ、もっと一気にやらないといけないみたいですねぇ」
俺が余計な事を考えている間に、それぞれの武器で攻撃を終えた三人が不思議な感触の壁に触れて確認。
何やら、斬り裂いても貫いても、その後すぐに再生しているらしい。
いや、フィネさんの言う事が本当なら再生というよりも新規に発生している、という事みたいだ。
壁は目に見えないし、下がっている俺からするとどう違うのかわからないけど。
「ちょっと、試してみるわ。離れていてね……フレイム!」
モニカさんの指示で、フィネさんとリネルトさんが下がるとすぐに発動する魔法。
良くモニカさんが使っている、炎を出す魔法だ……急な事で驚いたけど、リーバーの吐き出す炎程の勢いはないので、俺達がいる結界内に大きな影響はなさそうだね。
「やっぱり駄目ね、表面が少し燃えたような反応をだったけど、すぐに新しくなっているわ」
「となると、リネルトさんの言っていたように、一気に奥まで貫き通す必要がありそうですね」
「貫くとなれば、やっぱりモニカさんですよねぇ?」
「まぁ、この中では確かにそうね。それじゃ、こういうのはどう……?」
不思議な感触の壁の前で、魔法も特に意味がなかったのを確認した後、三人が何やら相談を始めた。
エルサはただ見ているだけだし、というかウトウトしている気配が頭から伝わってくる……魔力をかなり使っていて疲れているからだろう、退屈だからというわけではない、のかもしれない。
とにかく、なんとなくハブられているような感じで寂しかったので、寝ているユノ達の様子を見つつ、リーバーやワイバーン達を相手にして寂しさを紛らわせる事にした。
……俺も仲間に加わりたかったとか、楽しそうでいいなぁとか、思っていない……くすん。
「貫けぇっ!!」
リーバー達を撫でていると、突然響いたモニカさんの叫び。
その声にビクッと体を竦ませてしまったのは、意識が飲み込まれていた時にモニカさんが色々と、筆舌に尽くしがたい言葉を叫んでいた影響かもしれない。
状況が状況だったから、聞こえていなかったので全部じゃないけど、印象深くて深く記憶に刻み込まれているからなぁ。
ともあれ、叫び声が聞こえたモニカさんに注目すると、大きく振りかぶって持っていた槍を投擲する場面だった――。
0
お気に入りに追加
2,153
あなたにおすすめの小説
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~
暇人太一
ファンタジー
大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。
白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。
勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。
転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。
それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。
魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。
小説家になろう様でも投稿始めました。
【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる