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魔法は成功でもうっかりミス

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 次々と地面を凍らせていく光景を、透明な結界越しに見ている皆が口々に感想を漏らしていた。
 とりあえず、再び涙を流しながら歓声を上げているアマリーラさんには、触れないでおこう。
 リネルトさんの言うように、二度と同じ事は俺もごめんだね。
 モニカさんの反応は……以前と違って一瞬で凍るのではなく、地面が少しずつ凍てついて行っているからだろう……赤熱していた地面だから、さすがに以前と同じ現象とまではいかない。

 ともあれ、範囲が広いので薄く凍らせていっているし、後々溶かす作業も前より楽なはずだ。
 範囲が広いから、総じての手間はものすごいけど。
 フィネさんの感想はいいとして、頭の上から聞こえるエルサの言葉には俺も同意だ。
 もう使う事がないと思っていたからなぁ。

 範囲を極小に絞ればともかく、それはもう別の魔法だからね。
 それに、使ってしまうと影響が出過ぎるし、人や街が近くにある場所で使えない魔法だから……って、あ……。

「あ、やばいかも……」
「「「「えぇ!? 何がどうしたの「だわぁ!?」「「ですか!?」」」

 そういえばと思い当たって、ポツリと漏らした俺の言葉に皆が超反応……頭のエルサはわからないけど、モニカさん達は目を剥いて俺に顔を向けた。
 そんなに顔しなくても、と思うけど仕方ない。
 ちなみにアマリーラさんだけは、「我々にとってご褒美です!」なんて言っていた。
 我々と言ってもアマリーラさんしかいないと思うし、どこへ向かっているのかわからないので、スルーしておこう……何をもってご褒美なのかもわからないし。

「いやその……モニカさん達って、隔離結界を破ってここまで来たんでしょ?」
「え、えぇ。そうね……破ったというより、なんとか通れるくらいの穴を開けてだけど」
「……凍らせる魔法の影響、センテの人達にまで及ばないかなぁって……。穴が開いているって事は、そこから入り込むかも?」

 隔離結界がそのままだったら、完全に皆を覆い尽くしているので影響はないはず。
 赤い光も大丈夫だったくらいだからね。
 だけど、そこからモニカさん達が出てきたという事は穴が開いているというわけで……そして俺はその隔離結界の空いた穴に何も処置をせずに、凍てつかせる魔法を使った。

 魔法は空から冷気を降り注ぐようにしているから、ドーム状になっている隔離結界の上部は大丈夫だろうけど……魔力そのものは不定形。
 開けられた穴から内部に入り込む可能性が高い、と思う。

「それって……それじゃ、今頃あの中の人達皆が凍えて……いえ、凍ってしまっているかもって事なの!?」
「そこまでの事にはならないのだわ。精々が、穴から冷気が入って少し凍っているくらいなのだわ。穴のすぐ近くにいたら、ちょっと凍ってしまっているかもしれないけどだわ」

 焦るモニカさんに対し、エルサが俺の頭の上から落ち着いた声音で話す。
 フィネさんやリネルトさんも、取り乱しそうだったけどその声を聞いて耳を傾けた。
 って、そうなの? 大丈夫なの? なんて、魔法を使った俺自身も驚いてしまっていたりするのは、気にしないで欲しい。
 アマリーラさんはとにかく「リク様の魔法は素晴らしい」とか言っているだけだから、こちらも気にしない。

「洞穴の中に入った事があるのだわ? 私はリクと会うまで、何度も洞穴の中で過ごしていたのだわ。外を飛んでいると、人間が面倒な時があるのだわ」

 皆に問いかけるように話すエルサ。
 長い間、契約者がいなくて孤独に過ごしていたエルサは、洞穴の中で暮らしていた事もあるみたいだ。
 確かに大きな体で外を飛び回っていたら、人に見つかって騒ぎになったりするもんな……それが原因で攻撃されて、反撃として砦に対して体当たりして突っ込んだりしたというのは以前聞いた事がある。
 小さいままでも飛べるけど、エルサは大きくなって飛ぶのが好きだからなぁ。

「私は、入った事はないわね。そういう場所に行くような依頼もこれまでなかったし、ブハギムノングの鉱山の中は洞穴に近いかもしれないけど、それも私はいかなかったから」
「私やアマリーラ様はありますね。獣人の国では、そういった場所を好んで生活の場とするのもいますし」
「以前、騎士となる前に冒険者として自分を鍛えていた頃、依頼として入った事はあります。ですがその洞穴が一体……?」

 モニカさんは、俺と一緒に冒険者になるまでマックス達のやる『踊る獅子亭』を手伝っていたし、冒険者になってからも洞穴に入るような依頼は受けていない。
 そもそも、そんなに多くないっていうのもあるし、エルフの村に行った時も森にあったけど、中にまで入らなかったから。
 リネルトさんはあるみたいだね、獣人の中にも獣と似たような習性や感覚を持っている人なら、洞穴を好むと言うのもわかる気がする。
 フィネさんはさすがベテラン冒険者でもあるたけ、依頼として入った事があるのか……ここにいないソフィーも、もしかしたらそういう依頼を受けた事があるかもしれないね。

「まぁ、ブハギムノングの鉱山内は手が入っているから、洞穴と同じかは微妙だけど……そういう意味でなら、俺は入った事があると言えるかな」
「鉱山も洞穴も、私が言いたい事は大きく変わらないのだわ。外でどんなに強い風が吹き、雨が降っても、中にまではほとんど入って来ないのだわ」

 言われてみれば、洞穴……というか俺が入った事があるのは鉱山内だけど。
 その中はひんやりとはしていたけど、外からの風とかはあまり吹き込んでこなかったっけ。
 さすがに空気の流れくらいはあったけど。

「だからだわ、直接穴に吹き込むような事をしなければ、リクの魔法が隔離結界の穴から奥まで入り込む事はないのだわ。多少、穴の周辺が凍るのは仕方ないけどだわ」
「確かに……洞穴内は外からの影響を受けにくい場所ですねぇ。冷たい雪が風と共に吹き荒ぶ中でも、洞穴内はほとんど変わらずでした。とはいえ、多少寒くなったりはしますがぁ」
「出入口が広い程、中への影響は強くなるけどだわ、私達が開けた穴はワイバーンがなんとか通れるくらいなのだわ。しかもリクの魔法は見ている限り、空から冷気を振らせるような魔法だわ。だったら、結界の奥までは届かないのだわ。しかも、隔離結界は分厚いから特に外からの影響を受けにくいのだわ。他にも丸いのが幸いしたのだわー」

 ふむ、つまりあれか……穴に直接風や冷気を送り込まないのであれば、隔離結界の内部は心配しなくていいって事か。
 リネルトさんの言うように、気温が下がるくらいはするけど外の影響を受けにくいんだろう。
 あと、獣人の国は雪が降るのか……アテトリア王国だと一部地域以外は、雪を見る事ができないらしいけど。

 とりあえず、地面を這うように凍てついて行く魔法にしなくて良かった……まぁ今俺達を囲んでいる結界があるために、空から降らせるのが一番いいと思ったからなんだけど。
 それがなかったら、地面を凍てつかせる魔力が伝って結界内にも入って行った可能性が高い、危ない危ない――。


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