上 下
1,356 / 1,903

塞がれる道とリーバーの献身

しおりを挟む


「ぐぬ……あぁ、これがリクさんの力……」
「アマリーラさん! 恍惚とするのは止めて下さい! それただ単に捕まっているだけですから!」
「くぬっ! このっ!」
「もう、疲れるわね……さすがに全部は対処しきれないわよっ!」
「モニカがリクの所に行くまでの我慢なの! 捕まっても、少し力を吸われるだけなの! うきゃー!」
「ユノ! くっ……って、はぁ……駄目ね。さっきのでほとんど体が動かないわ。モニカ、必ずリクの所へ辿り着きなさいよ!!」

 後ろから聞こえる皆の声……アマリーラさんは伸びた茎に絡め捕られたのだろうか? 多分間違いないわね。
 植物を斬る音がほとんどなくなり、声だけが私をリクさんの所へと送り出すようになった。
 ワイバーンと一緒に皆も絡め捕られてしまったんだろう……ユノちゃんとロジーナちゃんは、無理してさっきの光を使ったみたいだし、まともに動けずってところかしら。
 ……ごめんなさい、皆……ありがとう。

「必ずリクさんの所へ……!」

 決意と共にそう言って、植物の中を突き進んだ。
 きっと、リクさんを助け出せばこの植物もなくなるはずだから……というか、そうじゃないとユノちゃん達もあれだけ無茶してないだろうからね。

「モニカ、危ない! のだわ!」
「っ! ありがとう、エルサちゃん!」

 突然、下から私の顔目掛けて伸びてきた茎……突き進む速度と相まって、反応が遅れて避けられないと思った瞬間、頭にくっ付いていたエルサちゃんが前足……手? ではたき落としてくれた。
 いつの間にか、少しだけ大きくなってくれていたみたい、ちょっとだけ重い。

「っ! あぶっ! リーバー!」
「ガァ、ガァー!」

 それからも、何度も私やリーバーへ向かって伸びて来る茎を避け、勢いのままリーバーが引き千切る。
 突入直後は振り切れるくらいだったのに、伸びて来る茎が増えたわね。

「後から突入したのが、皆捕まったみたいなのだわ。だから、こちらに集中するようになったみたいなのだわ」
「成る程ね……」

 他の皆が捕まり、攻撃を加えられるどころか力を吸い取り始めたから、とかかしら。
 無事なのが私しかいないため、こちらに集中しているってわけね。
 槍を使って振り払う手伝いをしたいけど、フィネさんに貸したし……そもそも効果速度が早すぎて、スレスレで伸びて来る茎を避けるくらいしかできそうにないわ。
 ……結局ユノちゃんの言う通り、槍を持たなくて正解だったみたいね。

「リーバー、炎なのだわ! このまま一気に突き進むのだわ!」
「ガァウ、ガァァァァ!!」

 エルサちゃんの言葉に反応して、口から炎を吐き出すリーバー。
 リーバーも全力を出すところだとわかってくれているのか、その炎はロジーナちゃん救出時よりも激しい。
 魔法も炎も効きにくいとはいえ、その勢いは伸びて来る蔦を焼け落とし、奥へと進む私達の道を開けてくれたわ。

「ありがとうリーバー! っ、見えた!」
「リク、リクなのだわ! 間違いないのだわ!」
「ガァ!」

 リーバーの吐き出した魔法の炎がなくなり、伸びて来る茎どころか壁のようになっている植物を、焼け焦げさせた先に地面が見えた。
 そこにたたずむのは一人の人間……エルサちゃんも認めているように、リクさんで間違いなかった。
 まだ距離があり、はっきりとは見えないけれどそれがリクさんだと断定できる。

 何故か……なんて疑問には思わない。
 だって、この戦いが始まってからずっと追い求めてきた人なのだから。
 でも変ね、リクさんはただそこに立っているだけに見えるわ……怪我をしているとか、動けないとかではないみたいなのに。
 もちろん、植物の茎に絡め捕られているというわけでもないのに、と思っていたら。

「ガァ!?」
「リーバー!?」

 リクさんの姿が見えて油断したつもりはないのだけれど、再び伸びてきた茎がリーバーの翼を掠めた。
 痛みから声を上げるリーバーに、驚きの声を上げる私。

「ガァ、ガァゥ」
「ほっ、良かったわ……」

 でもすぐに、なんでもない事のように声を出すリーバー……ほとんど瞬間的に再生されて血は流れなくなったみたい。
 痛みと驚きで声を上げただけで、深刻という程ではなかったみたいね。
 でもそうよね、忘れがちだけれどリーバー達、協力してくれるワイバーンは再生能力を持っているんだったわ。
 討伐対象として戦う際には、リクさんやユノちゃん達以外には厄介と思える能力だけれど、こうして味方になると頼もしい能力だわ。

「安心していられないのだわ。あれを見るのだわ!」
「あれは……塞がって行っている!?」
「みたいなのだわ」

 リーバーノ再生能力にホッとしたのも束の間、私の頭にくっ付いたまま少し大きくなっていたエルサちゃんが促した先を見る。
 そこには、佇むリクさんへの道を、ユノちゃん達が開けてくれた穴を塞ぐように、まるで意思を持っているかのように、植物の茎が盛り上がり、葉が重なっていく。
 私達をリクさんの所へ行かせないとでも言うかのようね……。

「リーバー急いで! 閉じられたら、開ける手段がもう私達には……!」
「ガァァ!!」

 ほとんど落下しているような状態から、リーバーが畳んでいる翼を動かし、さらに加速。
 息をするのも苦しいくらいの速度の中で、塞がれて行く道へと向かう……リクさんを目指して!

「……ダメ、間に合わない……!」

 リーバーにしがみつつ、声を絞り出した。
 迫る地上、そしてリクさん……だけど私達がそこへ辿り着くよりも、植物が道を塞ぐ方が早い!
 このままじゃ、激突するだけでリクさんの所へは……!

「グガァァァウ!!」

 大きく吠えたリーバーが、再び炎を吐き出す。
 これまで以上に、いえ、これまでとは比べ物にならない程の激しい炎が、塞がりつつあった植物へと向かう。

「リーバー!?」
「ガッ! ガァァゥ!!」

 焼け落ちず、炎を受け止めたその場所へリーバーがそのまま突っ込んだ。
 衝撃、減速と共に四方から伸びて来る茎に捕まる……そう思った瞬間、再び吠えたリーバーが植物を引き千切りながら抜け出した!
 ……けど、次の光景を見て私は絶望した。

「ほとんど塞がって……」

 なんとか抜けた茎や葉の壁だけど、それを抜けた先にはさらに分厚く葉が重なり、茎が絡んで強固な壁になっていたのが見えた。

「どうすれば……っ、リーバー!?」
「ガァ!」

 さっきよりも強固になっている壁を見れば、力を振り絞ったリーバーでも突破は不可能。
 私は武器を持っていないし、持っていたとしても貫く事はできそうにない……エルサちゃんは魔力がないし。
 諦めるしかないと思えるその状況で、壁に向かって加速したリーバーは、任せろとでも言うように鳴いた。

「ただ体当たりしても……!」

 リーバーが思いっ切り体当たりしたところで、分厚い葉と茎が絡み合った壁は抜けられそうにない。
 そのはずなのに、速度を落とさないまま急降下したリーバーは、突然体を傾けた。

「ガァ、ガァゥ!! ガッ!!」
「っっっ!! リーバー!!」
「これを狙っていたのだわぁぁぁぁ!?」

 顔からではなく、体を叩きつけるようにしたリーバー。
 その背中から、衝撃と共に投げ出される私とエルサちゃん。
 ほんの少しだけ……完全に閉じ切っていなかった壁の隙間に、私達を飛びこませた……。
 浮遊感と落下感。

 しがみ付いていたはずのリーバーから離れ、勢いよくその隙間に入って落ちる私の耳には、エルサちゃんの声だけでなく、リーバーの後は任せたと言うような声が聞こえた――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

処理中です...