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ロジーナ救出

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「あと……ちょっと……掴んだ!」
「引っ張るのだわ! 絡まっているのを引き千切るくらいにだわ!」
「そうは言っても、私にそんな力は……!」

 ロジーナちゃんの右手を掴んだまではいいけど、まだ体の半分くらいに絡み付いている茎。
 人の指よりも太い茎が何本も絡まっているロジーナちゃんは、引っ張っても簡単に引き寄せられない。
 アマリーラさんくらいの怪力があれば、簡単に引き抜けるんだろうけど……。

「ぐ……く……」 
「ガァ! ガァ!」

 狭い空間の中、伸びて絡め捕ろうとする茎を翼や口、そして炎を吐き出して振り払うリーバー。
 このままじゃ、私達も一緒にいずれ絡め捕られて、ロジーナちゃんのように……。

「どっせい! なのー!」
「っ!?」
「ふわー、だわー!」
「ガァ!?」

 どうすれば、と思った瞬間……ユノちゃんの声が聞こえて急速に流れる景色。
 ロジーナちゃんを掴んだ手を離さないように握りしめる私の耳には、エルサちゃんやリーバーの声だけでなく、ブチブチと茎が引き千切られる音が聞こえた。

「ガ、ガァゥガァガァ!」
「痛かったのはわかったけど、抗議は後で聞くの! とにかく外に向かうの!」
「ガァ!」
「ユノ、ちゃん……?」
「ロジーナを離さないで、モニカ!」
「え、えぇ!」
「荒っぽいのだわー。仕方ないけどだわ……」

 何やら文句を言うように鳴くリーバー、それと共に植物内部の景色が流れる中に感じる浮遊感のようなもの。
 これ、後ろに引っ張られているのかしら?
 ユノちゃんの声と共に、後ろに下がるように細かく翼をはためかせるリーバー、それと共に呆気に取られて力が抜けそうになった手に、改めて力を入れ直す。
 ここでロジーナちゃんを離してしまったら、再び茎に絡め捕られてしまい、これまでの事が無駄になってしまうから。

 引き千切られた茎の一部が、まだ体にくっ付いているロジーナちゃんを引き寄せ、抱き抱えながら後ろを見てみる。
 ……どうやらユノちゃんがワイバーンを後ろ向きに内部へと入らせて、リーバーの尻尾を引っ張っているみたいね。
 リーバーの抗議は、突然尻尾を引っ張られた事で驚きと痛みを感じたからだったみたい。
 エルサちゃんが言うように、確かに荒っぽいけど……ユノちゃんが言っていた最後に私達を引っ張り出すって、こういう事だったのね。 

「っ! 抜けたの!」
「はぁ……なんとかなったわね」
「ガァガァ」

 後ろ向きなので、外から差し込む明りなども見えずいつ脱出できるかもわからない中、ロジーナちゃんだけは離さないようにしているうちに、突然周囲が明るくなった。
 植物の内部から飛び出したみたい。
 周囲から迫る茎などもなく、ようやく一安心と意気を吐き出し、リーバーも作戦成功と喜んでいる様子。

 尻尾を引っ張られていた事は、もう気にしていないみたい……ワイバーンって、リーバーを含めたリクさんが連れてきたのだけだと思うけど、結構楽観的なのかもしれないわね。
 そう考えていると、落ちないように抱き締めているロジーナちゃんの様子に気付いた。

「……」
「これ……息が!? ユノちゃん!」

 ちょっとだけ焦げている服の端や茎を取り払いながらも、口を開けるどころか呼吸をしている様子すら感じられないロジーナちゃんの様子に、焦ってユノちゃんを呼ぶ。
 ピクリとも動かないどころか、本来は息をする事で上下する胸やお腹の動きすらない。
 絡み付いていた植物の茎は、ロジーナちゃんの首にも付いていたから、もしかして……私達が助け出すのが遅かったの!?

「大丈夫なの。多分ちょっと力を吸い取られていただけなの」
「力をって……」

力を吸い取られる……とかよくわからないけど、とにかく声からは深刻な様子が感じられないユノちゃんの声。
 どういうことかわからず、どうしようもなくただロジーナちゃんを抱えている私。
 周囲には、私達の無事と様子を見に来たアマリーラさんやリネルトさん、フィネさんも集まっている。
 と……。

「……ぐっ、げほ! がは!」
「ロジーナちゃん!」

 突然、息を吹き返したように咳き込むロジーナちゃん。
 思わず声を掛ける私の内心で、本当にユノちゃんの言葉通り大丈夫だった事に安心感が広がった。
 いえ、生きているというのは確かみたいだけど、本当に大丈夫かまではまだわからないのだけどね。

「がはっ! ごほっ! はぁ……はぁ……! ひどい目に遭ったわ……って、なにこれ!? うわ!」 
「っとと、危ないわロジーナちゃん」

 何度か咳き込んでいたロジーナちゃんが、荒い呼吸を繰り返しつつ目を開ける。
 途端、立ち上がろうとしてリーバーノ背中から落ちそうになるロジーナちゃん。
 慌てて抱き締めるようにして体を掴んだ。

「この変な植物は多分、リクのせいなの」
「……いや、私は今のこの状況に驚いているんだけど……植物の方は知っているわ」

 ユノちゃんの声に答えるロジーナちゃんは、落ちないように抱き着いている私だけでなく、こちらを覗き込むように見ているアマリーラさんやリネルトさん、そしてフィネさんを見ていた。
 驚いたのは、よくわからない植物の事じゃなくて、私達の事だったのね。

「一体どうやってここに……」
「ワイバーンに乗って来たの」
「それは見ればわかるわよ。そうじゃなくて、私が言いたいのは、あの隔離結界を抜けて来たの?」
「隔離結界? あぁ、あの街全体を覆っていた?」
「えぇ。リクはそう言っていたわ」

 ロジーナちゃんの驚きは私達がワイバーンに乗っている事でもなく、ここにいる事そのものだったみたい。
 隔離結界……確かに、分厚い結界が街を覆って完全に外と隔絶されていたから、相応しい名前かもしれないわ。
 隔離、という事はやっぱリクさんは私達をあの赤い光から守るため、結界を使って閉じ込めたので間違いないようね。

「なんとかして抜けたの!」
「なんとかって……あんたがいたとはいっても、あれを人間の力で抜けるのは……いえ、今ここにいるのだから本当になんとかしたのね。とりあえずそう考えておくわ」
「そうなの」

 私達があの隔離結界を抜けるには、多くの人の協力と限界近い戦いのようなものがあったのだけれど……詳しく説明している場合でもないので、ユノちゃんの言う通りなんとかした、としか言いようがないわね。
 まぁ、戦いと言っても反撃のない結界をただ突き抜けるだけのものだったけど。

「とにかく、今は早くリクを助け出すのが先なの。ロジーナ、この植物はどうしてここに? どういう性質なのかとかどういう物なのかは、なんとなくわかるけどなの」

 わかるんだ……どれだけ斬っても伸びてくる、それだけでもおかしいのに背の高い木どころか、山よりも高く伸びる植物なんて、私達にはわからないんだけど。
 そこはまあ、ユノちゃん達だからって事で今は納得しておいた方がいいみたいね。
 理解はできないけど。

「これは、リクが作った……いえ、正確にはリクの力の影響ね。詳しい説明は省くし、とりあえずユノにわかるようにだけ言うけど、リクは門を開けたのよ」
「門を開けたのは知っているの。赤い光が魔物を全て駆逐したの。それなのにこの植物もあるっていうのは……まさか、なの?」


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