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目標地点には植物が伸びている

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「活火山、火口……火山っていうのは聞いた事があるわ。確か、火を噴き出す恐ろしい山の事よね。私は見た事も近寄った事もないけれど……」

 確か、アテトリア王国の西の端にあるんだったかしら? 火を噴き出して近寄った人間、魔物問わず焼いてしまう恐ろしい山だとか。
 そんな山には近寄りたくないから、知らなかったけれど……今地上に広がっている光景と同じような事が、その活火山の火口とやらで起こっているのなら……。
 うん、絶対に近寄りたくないわね。

 もし冒険者の依頼で、そちらへ行く事があったとしても絶対に断ろう。
 リクさんが受けてきちゃうかもしれないけど、触れたら焼かれたり溶けたりするような所には、近寄りたくないわ。

「微妙に勘違いしている気配を感じるのだわ。とにかく、活火山の火口に見られる事のある光景……というかマグマだわ。それとほぼ同じなのだわ」
「マグマ……」

 深く深く、エルサちゃんの言うマグマを頭の中に刻み付けて、絶対に近寄っちゃいけないと覚えておく。
 あとでユノちゃんも交えて詳しく聞いた話なのだけれど、特に活火山だからといって近付いた者を全て焼くわけではないらしいわ。
 山が噴火……火山の中で爆発が起こって、火口から噴き出し、マグマが噴き出し流れ出し……その影響で人や魔物も関係なくすべて飲み込んで溶かしてしまう、という事らしいは。
 それからマグマは、石や岩、さらに鉱物や金属が混ざり合って溶け、とんでもない熱を持った物だとかなんとか。

 液体のように溶けて混ざり合ったそれらが、山から流れて冷えて固まり、それがまた山や地面を作るとか……詳しく聞いてもちんぷんかんぷんで、むしろマグマに対する恐怖が増しただけだったわ。
 はぁ、この世界にはまだまだ知らない事が多いわね。
 エルサちゃんやユノちゃんが、その存在の詳細を知れば当然ではあるのだけれど、知り過ぎているだけなのでしょうけれど。

「と、とにかく話を戻して……何もないわね、魔物だけじゃなく、木々も」
「近くに森があったのだわ。けどそこも何もなくなっているのだわ」
「そういえば確かに……」

 確か、リクさんがリーバー達のいた場所と言っていたかしら……センテの東南にあったはずの森も、空から見る限りなくなっている。
 さらに遠くへ目を移せば、微かに木々とかは見える事は見えるけど、そこまで行くのに馬を走らせても半日以上かかりそうだわ。

「倒した魔物を片付ける手間が省けたのだわ」
「いい事ばかりじゃないわよ? 魔物の素材とか、それすらもなくなっているんだから。特にヒュドラーと一緒に来ていた魔物達は、強力な魔物だったから……かなり高価な素材が、大量にとれていたわけだし」

 魔物と言えば素材。
 全ての魔物が素材になるわけじゃないけれど、発見される事自体が一大事なヒュドラーとか、その他にもAランク、Bランクの魔物達がひしめいていて、高価な素材で溢れているとも言えたのだからね。
 まぁ、素材よりも大事なのは当然自分達の命で、そんな事に構わず魔物を倒して行き残る事が最優先ではあるのだけれど

 でも素材だとかが気になってしまうのは、小さい頃から父さん達が冒険者だった頃の話を聞いて、自分も冒険者になったからかもしれないわね。
 ……冒険者パーティ、ニーズヘッグのお金についてもリクさんから管理を任されている、って影響もあるかもしれないけど。

「ん? 何か見えるわね?」
「んー……だわ?」

 あれだけいた魔物達の影すら見えない状況を話しながら、リーバーがリクさんのいるはずの場所へ向かって飛んでしばらく……。
 何もない、正確にはマグマみたいになった地面はあるのだけれど、それ以外に何もなかったはずの地上。
 そこに急に他とは違う様子が見られたわ。
 まだまだ遠くて、どう違うのかは見えないけれど……確実に違うのはわかる。

 だって、そこには青々と茂っている植物が空へ向かって、高く高く伸びているんだもの。
 あれ、そこらの森に生えている気よりも背が高いわよね。
 センテの近くにあんなのが生えているなんて聞いていないし、あるわけがない。
 というかあの植物、そこらの草原で生えている物と同じよね? しかも、空を飛んでいる私達と同じくらい……いえ、それ以上の高さまで伸びているし、一体どういう事?

「間違いなく、リクの仕業なのだわ。それ以外考えられないのだわ」
「そうよね……どうしたらあぁなるのかはわからないけど、突然木でもない植物をあんなに伸ばすなんて、リクさん以外できるとは思えないわ」

 いえ、そもそもリクさんならできる……とも思えないんだけれど。
 でもリクさんだから……で、できないと思う事もできてしまうのに納得してしまう自分がいるわ。
 これまでも、不可能と思われていたどころか、その可能性すら考えていなかった事をいくつかやってきている人だし。

「とにかく、あそこに向かうのだわ。きっとそこにリクがいるのだわ」
「そうね。場所というか、方向もフィリーナが言っていた方に進んでいたわけだし、他の所には変わった場所はない。あそこにリクさんがいるのは間違いなさそうね。リーバー、お願い!」
「ガァ~ウ!」

 異変がある事がつまりリクさんがいる証拠……まぁ、センテを覆った結界から地面の状態、相変わらず汗を噴き出させる熱気まで、全てが異変と言えば異変なのだけれど。
 異変しかないと逆に、それが平常のような気がするから不思議……とまではならないわね。
 とにかく、異変の中の異変、そこにきっとリクさんがいると信じ、リーバーにお願いして向かってもらう。
 後ろをついて来ていた皆も、先導するように飛ぶリーバーを追いかけるように飛び、リクさんがいるはずの植物がある場所へと向かったわ。


「これは……一体どういう……?」
「ガァ。ガァゥ! グルゥァァァァ!!」
「リーバー!?」
「……駄目なのだわ。リーバーの吐き出した炎の魔法でも、焼けないみたいなのだわ。正確には焼いた先から成長して伸びているみたいなのだわ」

 到着した、リクさんがいるはずの場所。
 そこには鮮やかな緑色の植物……特殊な植物というわけではなく、そこらの草原で見かけるなんの変哲もない物……ただ生えているだけで誰にも見向きもされないような植物が、私達の前に立ちはだかった。
 密集している植物は、風にも揺らぐ事はなく幾重にも重なって隙間がほとんどなく、あっても人の手すら通らない狭さ。
 さらに掻き分けて入ろうにも、一切動かす事はできなかったわ。

 そんな中、リーバーが口から魔法、というより炎を吐き出して邪魔な植物を焼こうとしたのだけれど……燃やした先から、再び植物が伸び……いえ、生長して再び行く手を阻む。
 エルサちゃんに確認して、触れても問題なさそうなので触ってみたけど、それは本当に感触も何もかもが植物であって草と変わらない。
 ただ、掻き分けようと動かそうとしても、絶対に動かないし揺れる事すらない。
 感触は柔らかい草その物なのに、まるで突き立った鉄の棒のように動かないなんて、意味がわからないわ。

 ちなみに、地上はエルサちゃんの言う、マグマみたいな赤い泥がポコポコと音を立てて満たされているため、空から皆で植物に向かっているわ。
 いくらリーバー達ワイバーンが熱や火に強いと言っても、あれはそれすら関係なく燃やして溶かしてしまうだろうからね――。


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