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スピリット達の協力

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 ウォーさんを呼んだのは、小さな緑色の男性……何もないのに風に吹かているように、緑色の髪がなびいているのは不思議だわ。
 ウィンドと呼ばれた男性、ウィンドスピリットだったかしら、こちらも小さく……他のスピリットと比べて一際小さくなっていて、私の手にも乗りそうな大きさね。
 あ、ウィンドスピリットだから風を纏っているんだわ、だから髪が何もなくても常になびいているのね。
 次々と現れるスピリット達に、状況の理解が追い付かないため、多少思考が逸れながらも少しずつ把握していくよう努める。

「モニカさん、でしたか。召喚主様と親しい、一緒にいた人間ですね。私はウィンドスピリット。以後お見知りおきを」
「は、はい……そうですけど」

 ウィンドさんは、その小さな体を私の顔の前にふわりと浮かべ、恭しく礼をしながら自己紹介。
 ちょっと気取った感じなのは、そういう性格の人? なのだろう。

「今我々は召喚主様からの魔力が途絶え、思うように力が使えません。ですが、残った力を使ってあの結界を破る事に協力しましょう」
「結界へ攻撃するって事ですか?」
「はい、その通りです。ですが、我々の力だけでは完全に結界を破るのに現状では力が足りません。ですので、モニカさんには私達が攻撃を加えた直後、先程までと同じように槍を突き込んで欲しいのです」
「で、でも……魔力はまだ残っていますけど、さっきのような威力はさすがに……」

 私自身の魔力はまだ残っている、そしてクォンツァイタも色が薄くはなっているけれど、同じく残っている。
 けれど、先程は本当に全力を込めたつもり。
 残っている魔力じゃ、同じ威力はもう出せないわ……。

「ユノちゃんの方が、適任なんじゃ……」
「あの方は、人間の体を持ちながらすさまじい力をお持ちですが、今はもうほとんどその力も残っていないでしょう」

 人間の体、と言う事はユノちゃんの事は知っているのね。
 でも確かに、ヒュドラーの足止めからこっち、ユノちゃんはほとんど休んでいないわ。
 最善の一手は次善の一手とは比べ物にならない威力ではあるけれど、その分力を使うし疲労もする。
 エアラハールさん曰く、全ての条件がそろわないと使えない、との事だったから今のユノちゃんには厳しいのかもね。

「それに、威力が出せないのなら出せるようにすればいい。そこに収まっている魔力の塊……いえ、鉱石ですか。それを使えばいいのですよ」
「鉱石……」

 ウィンドさんが示す先には、先程結界に向かって駆け出した直後に、フィリーナから受け取った二つのクォンツァイタ。
 残り魔力が少なく、色も薄いけれど……これを使えば。
 って、使っても、次善の一手で存分に威力を出す程の魔力とは思えないわ。

「使うと言っても、魔力が足りないわ……」
「そこに詰まっている魔力は確かに小さい。ですが、それらが周囲の魔力を集めるのです」
「周囲の魔力を集める……もしかして、マルクスさんのように!?」
「マルクス、という名は存じませんが……我々が見ていたのは、剣を短剣で折った方の事ですね」

 間違いなく、マルクスさんの事だわ。
 あれは確か、人間の魔力は核だから、それを纏わせた剣を折る事で周囲に霧散させ、自然の魔力を集めさせて短剣、マインゴーシュで回収して威力を増した、だったわよね。

「でも、クォンツァイタに蓄積されている魔力で、そんな事ができるとは思えないわ」
「成る程、そういう事なのだわ……」

 懐から取り出した二つのクォンツァイタを見て、訝しむ私。
 エルサちゃんは私の頭にくっ付いたまま、何やら納得した様子。

「そちらのドラゴン様は、理解した様子。そちらに続きを任せます。私は急がねばなりませんので……」
「ウィンド、早くしな! じゃねぇと俺達の力でも意味がなくなる!」
「はいはい、わかっていますよ。では……」
「あ、ちょっと!」

 話すだけ話したウィンドさんは挨拶のつもりかしら、一度空中で身をひるがえして、呼んでいたウォーターさんやフレイちゃんの所へ飛んで行ってしまった。
 一体どうしろって言うの……?

「エルサちゃん、どうすればいいの?」
「言われた通り、クォンツァイタを使えばいいのだわ。そうだわ、二つあるのだから二つとも使えばいいのだわ」
「でも、使うと言ったって、このクォンツァイタには魔力が残り少ないのよ? それに、周囲の魔力なんて集められないわ」

 話すだけ話して言ってしまったウィンドさん達に、詳しい説明をしてもらうのは諦め、エルサちゃんに話し掛ける。
 気楽に使うと言われても、どう使えばいいのか……。

「そのクォンツァイタ……だけじゃないけどだわ。とにかく今あるクォンツァイタに魔力を蓄積させたのは、誰なのだわ?」
「え、それは……リクさん?」

 クォンツァイタは魔力を蓄積させてから、センテまで運ばれている。
 蓄積できる魔力量が多いうえに、数も多かったので、アルネ達だけではすぐに用意できないからと、リクさんが魔力を注ぎ込んだわ。
 アルネ達が魔力を注ぎ込んだクォンツァイタもあるけれど、それは研究に使われるらしいから、センテに運ばれたクォンツァイタのほとんどが、リクさんの魔力のはずよね。

「そうなのだわ。そしてリクは人間なのだわ。……時折、本当に人間か疑わしい事があるけどだわ」
「私も疑問に思う事はあるけれど……でも、リクさんは確かに人間よね」

 魔力量は絶対人間とは言えないのだけれど、それはともかく、見た目も含めてリクさんは人間のはず。
 人間、よね? エルフみたいに耳が大きくて尖っていたりしないし、獣人のような尻尾もない。
 私達と大きく変わらないはずだから、人間で間違いないはず……。

「人間の魔力は、自然の魔力などの周囲の魔力を集める性質を持っている、とはさっきユノが言ったのだわ」
「それは、私も知っている事だけれど……」
「つまり、人間であるリクが、どれだけ人間離れした魔力を持っていたとしてもだわ、その性質は変わらないのだわ」
「という事は……」
「クォンツァイタに蓄積されている魔力は、他の人間と変わらない魔力が込められているって事なのだわ」

 そうか……リクさんはその魔力量、そしてエルサちゃんというドラゴンとの契約で、他の人間が使えない魔法が使えるからあまり意識していなかったけれど、あくまで魔力自体は人間と同じものなのよね。
 だから、その性質である魔力を集める核としての能力は、リクさんの魔力にもあるって事。

「だったら、このフィリーナ達が使っていたクォンツァイタで、さっきのマルクスさんと同じような事が……?」

 マルクスさんは自分の魔力でやっていたけれど、クォンツァイタを壊してリクさんの魔力を霧散、周囲の魔力を集めさせて回収すれば、同じ事ができるはず。
 いいえ、残り少ないとはいってもクォンツァイタに蓄積されている魔力は、結構あるはず。
 マルクスさんが自身の魔力でやった次善の一手を応用したよりも、さらに大きな効果が見込めるかも?

「できるのだわ。ただ……」

 私の言葉を肯定するように、頭にくっ付いたエルサちゃんが頷く気配。
 けどその後すぐに、言いづらそうに小さく言葉を発した。
 違うわね……言いづらいというよりは半信半疑というか、迷っているような雰囲気を感じるわね――。


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