上 下
1,317 / 1,903

結界外の異変

しおりを挟む


「本当に、そうでしょうか?」
「どういう事ですか、モニカ殿?」
「いえ、安全なのは間違いないと思うんですけど……魔物が凍っていなくても、破られる事はありませんから。でもそれなら、どうして結界はまだ現状のままなのかなって、思うんです」

 マルクスさんの考えに疑問を呈し、考えを話す。
 結界の中が安全、これは間違いないはず。
 けど、魔物達が凍っただけで脅威が去ったのなら、結界がまだそのままというのが気になる。
 それはつまり、まだ私達を守っておかないといけない何かがある……という事に繋がらないかしら? あとそれ以外にも……。

「私も、モニカと同じ疑問を感じるのだわ。結界がそのままなのは、魔力が残っているからだろうけどだわ。でもリクなら、解決したらあのいつも暢気で何も考えていないような顔を晒しに、さっさと戻ってくるのだわ、多分」

 暢気、というのにはちょっと同意するけど、何も考えていないような顔ってのは、少し酷いわねエルサちゃん。
 リクさんとエルサちゃんの中の良さを知らなかったら、むしろ嫌っているんじゃないかと思えてしまうくらいの言い草よ?
 結界に対する私の疑問は、特に意味のない事だったみたいだけど……。

「結界が残っている事はともかくとして……」

 自分の疑問が見当違いだった事は、とりあえず放り出しておくのがいいわね。

「リクさんは今、魔法が使えないはずなのよ。それなのになぜ、魔物を凍らせるなんて事ができたのかが……」
「そうなのだわ、そこなのだわ。魔力弾、くらいなら使えるかもしれないのだけどだわ。でも魔物を凍らせるなんて魔法、使えるはずがないはずなのだわ」
「ふむ、エルサ様とモニカ殿がそう言うのなら、その通りなのでしょう。先程も魔法が使えないと聞きましたが、これを見る限りではとてもそうは思えませんな……いえ、疑っているわけではありません」

 マルクスさんはエルサちゃんや私達とも、行動を共にしていたから……正確には、陛下から命じられてリクさんに付いていたわけだけど。
 その頃の事があって、リクさんだけでなく私やエルサちゃんが、嘘を言ったりどうでもいい事を言って、場を混乱させるわけじゃないのはわかってくれているわ。
 だからこそ、魔法が使えないと思えないというのは、私達への疑いではなく、何かがあるという意味なんだろう。

「マルクスさん、次善の一手を使える人達を集める事ってできますか?」
「中断された先程の話の続きですね。ふむ……なんとかしてこの結界を破る、というわけですか……」

 さすがマルクスさん、大隊を任されるだけあって理解が早いわ。
 この場合は、リクさんを含めた私達への理解があるから、のような気がするけどね。

「もしリクさんに何か異変が起こっているのだとしたら、私達じゃ力不足かもしれませんけど……それでも何かしたいと思うんです」

 そうしていないと、悪い予感や確信に耐えられそうにないから。
 リクさんに何かがと思うだけで、いても立ってもいられない。
 それが私にとっても、何よりリクさんにとっても大事な事に繋がると信じて……。

「現在結界内に魔物がいなくなりましたので、兵士達の手は空いています。ただ王軍は私の一存で動かせますが、侯爵軍からはシュットラウル様にお伺いしないと。多くの人が必要そうですから……」

 結界内を見渡し、結界のを外を見て、さらに時折触れて確かめて考えながらそう言うマルクスさん。
 リクさんの結界は見た事が……いえ、本来目には見えないけれど、それでも私達より回数は少なくても近くで感じた事があるのはマルクスさんも同じ。
 結界を破ろうとするのに、数人程度では不可能で群を動かす必要がある事まで、すぐに察してくれたみたいね。
 どれだけの人が集まるかわからないけれど、人は多ければ多いほどいいわ……。

 まったく、ヒュドラーを始めとした強力な魔物を迎え撃つための軍と冒険者達なのに、味方のはずのリクさんの魔法を打ち破るために協力しなくちゃならないなんて。
 私達を守ろうとした結果、今の状況になっているというのはリクさんを近くで見てきたからわかるけど、一つの魔法から抜け出すのに、大量の魔物に対する人達が動くなんて、規格外にもほどがあるわよ。
 無事にリクさんが戻って来たら、色々言わなきゃ気が済まないわ……私だけじゃない、エルサちゃんやソフィー達、マルクスさんを含めた皆が頑張っているんだから。
 だから、どうか無事でいて……リクさん。

「とにかく、今すぐシュットラウル様に現状の報告も合わせて、伝令を……」

 適当な兵士を呼び寄せ、侯爵様への報告やお願いなどをする伝令を任せようとしているマルクスさん。
 ついでに数人、王軍に召集をかけるように手配している手際は、さすが大隊長の貫禄と言えるわ。

「その必要はないぞ、マルクス殿!」
「……シュットラウル様!? どうしてこちらに……?」
「侯爵様!?」

 突然響いた野太い声……何度も聞いた事のある声、リクさんがいない間、魔物達と戦う相談などをよくしていたから、覚えて当然ね。
 声のした方を見ると、そちらには見覚えのある大柄な男性の姿、マルクスさんや私も、他の皆も驚きながら予想通りの人の姿、シュットラウル侯爵様がそこにいた。

「私が呼んだのだ。全てを覆う壁ができてから、リネルトやワイバーンも飛ぶ意味がなくなったからな。リク様のお姿も見えないし……念のため報告や相談のために動いていた」
「アマリーラさん」

 腕を組んで何故か鼻息の荒いシュットラウル様の後ろ、大柄な体に隠れていた女性が私達の前に現れる。
 それは、小柄で耳と尻尾を付けた可愛らしい女の子……ではなく、実力では確実に私達以上のアマリーラさん。
 ……可愛らしい、というのは本当だけどね。
 何度か見たけど、小柄な体で大剣を父さんみたいに豪快に振り回す人物。

 ユノちゃんとロジーナちゃんもそうだけど、小柄なのに軽々と武器を振り回す女の子が多過ぎないかしら? アマリーラさんは、女の子というより女性という感じだけれど。
 私もそれなりに重量のある槍を持っているけど……アマリーラさん達を見ていて、何度も自信をなくしそうになったわ。
 ソフィーの方は、リネルトさんの身軽な戦い方が理想らしくて、そちらはそちらで自身を打ち砕かれそうになっていたみたいだけどね。

「モニカ殿、やはりこの壁はリク様の結界で間違いないのか?」

 結界に近付いて示しながら、確認するアマリーラさん。

「あ、はい。そうです。エルサちゃんもそうだって言っていましたし、魔法であればこんな事ができるのはリクさんしかいませんから」
「なのだわ」

 アマリーラさんの質問にエルサちゃんと一緒に頷く。
 例え結界と同じような事ができたとして、街全体を覆いながら強固さを保っていられるなんて、エルフが村単位で集まって魔力を集中させても無理な気がするわ。
 リクさん以外に、できる人がいないのは間違いない。
 私達の頷きを確認して、アマリーラさんがスッと自然とも思える動きで結界へと近付いた――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ  どこーーーー

ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど 安全が確保されてたらの話だよそれは 犬のお散歩してたはずなのに 何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。 何だか10歳になったっぽいし あらら 初めて書くので拙いですがよろしくお願いします あと、こうだったら良いなー だらけなので、ご都合主義でしかありません。。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~

中島健一
ファンタジー
[ルールその1]喜んだら最初に召喚されたところまで戻る [ルールその2]レベルとステータス、習得したスキル・魔法、アイテムは引き継いだ状態で戻る [ルールその3]一度経験した喜びをもう一度経験しても戻ることはない 17歳高校生の南野ハルは突然、異世界へと召喚されてしまった。 剣と魔法のファンタジーが広がる世界 そこで懸命に生きようとするも喜びを満たすことで、初めに召喚された場所に戻ってしまう…レベルとステータスはそのままに そんな中、敵対する勢力の魔の手がハルを襲う。力を持たなかったハルは次第に魔法やスキルを習得しレベルを上げ始める。初めは倒せなかった相手を前回の世界線で得た知識と魔法で倒していく。 すると世界は新たな顔を覗かせる。 この世界は何なのか、何故ステータスウィンドウがあるのか、何故自分は喜ぶと戻ってしまうのか、神ディータとは、或いは自分自身とは何者なのか。 これは主人公、南野ハルが自分自身を見つけ、どうすれば人は成長していくのか、どうすれば今の自分を越えることができるのかを学んでいく物語である。 なろうとカクヨムでも掲載してまぁす

処理中です...