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リクへの疑惑もしくは嫌疑
しおりを挟む初めてレッタさんと会った時、あの時はロジーナの母親って言っていたけど……あれは演技だったとか。
というかさっきも、ロジーナはあの子とか言っていたし俺もレッタさんの話を思い出していたんだから、早く気付けと自分に対して反省を促す。
「む、無視しないで……な、なぜ貴女様がここに……!? リクと協力して……まさか仲間に!?」
レッタさん、自分の驚きの声がスルーされたからか、ちょっと悲しそうな声を出してもう一度ロジーナに向かって問いかけた。
初めて会った時に母娘を装っていたから、当然知り合いというかロジーナが破壊神だって事も知っている人のはずだ。
それなのに、俺と協力して乗り込んできたのを見たら、そりゃ驚くよね。
「私が危ないから、緊急的な措置よ。リクと仲間になったつもりは一切ないわ」
「緊急……?」
ロジーナの溜め息交じりの答えに、訝し気な声を出すレッタさん。
ユノと一緒にヒュドラーを足止めして、協力して倒して、ここに来る時も一緒に頑張ったのに……仲間じゃないとあっさり否定されるのは少し悲しい。
まぁ、元々ロジーナは俺が負の感情に支配された場合、人間になってしまった事で危険が及ぶと考えて渋々手伝ってくれているだけだから、仕方ないけどね。
「私、今人間だから。この姿も以前は仮初だったけれど、今はこの体が私なの」
「に、人間に……!?」
「前にリクと接触して誘導した時のように、ロジーナを名乗っているわ。この体であるうちは、その名で呼んで」
「で、ではロジーナ様……と……」
「えぇ、それでいいわ」
レッタさんが名を呼ぶと、したり顔で頷くロジーナ。
俺と会った時は、母娘を装っていて当然ながら母親っぽい雰囲気だったけど、こうして見ると主従関係のようだ。
レッタさんはロジーナの正体を知っていて従っているようだから、間違いではないんだろうけど。
ロジーナと一緒にここに来たのは正解みたいだね……これなら話が早そうだ。
「それでレッタ。あなたはここで何をしているの? 大体わかってはいるけれどね」
「それは……ロジーナ様の気配が、センテの街の方に感じられまして。何かを仕掛けているのだろうと……ですので私も後押しのため、魔物達を利用したのです。例の目的のために」
「やっぱりね……」
「最初から上手くいっていれば、使う手段ではなかったのですが……少々強引ながら実行させました」
ロジーナと話すレッタさんは、素直にここにいる理由を話してくれた。
そういえば、レッタさんとロジーナはお互いの気配がわかる、みたいな事を言っていた気がする。
センテにロジーナがいるという気配を感じて、俺を隔離した時のように仕掛けをしていると考えたレッタさんは、援護するためにこうして魔物を引き連れてってわけか。
実行させたって事は、レッタさん以外にも誰かいるのかもしれないけど……。
「で、なのですが……?」
「ん?」
「ロジーナ様がリクといる理由、をお教えして頂けないでしょうか? 見る限り、破壊衝動に支配されているようには見えません……」
おずおずと、ロジーナに質問するレッタさん。
それにしても破壊衝動って……まぁ、ロジーナが俺を隔離させた理由も、絶望した俺が負の感情やらに支配されて、ただ破壊をまき散らす存在にしようとしたかららしいけど。
「あぁそうね。それに関しては本当に緊急的な措置であって、不本意なのだけれど……リクを隔離してセンテの壊滅。それを狙った時にちょっとね。その影響で人間になったのよ。おかげで協力せざるを得ない状況になったわけだけど」
「確かにロジーナ様は、リクに魔物を相手にさせないようにし、その間にセンテのに人間を街ごと滅ぼすと仰っていましたが……その際に何が?」
「思っていたより厄介ない相手だったって事よ。抵抗したリクのせいで私の干渉力がね……まぁ早い話がリクが強引に私を……って、レッタ?」
「リク……やはり貴様が……!! ロジーナ様を誑かしたのね!!」
「うぇ!?」
話の途中、ロジーナが強引にと言ったあたりで鋭い目をフードの隙間から覗かせて、こちらを睨むレッタさん。
クラレッタさんやツヴァイと同じく、全身から濃い魔力が滲みだした……魔物を操作するための赤い光を見ていた時から予想はしていたけど、やっぱりこの人も無理矢理魔力量の保持量を上げているのか……!
というか、誑かしたって……ロジーナが強引にとか言うから、変な勘違いをしてない!?
「ちょ、ちょっと落ち着いてレッタさん。えっと、ロジーナは強引にって言ったけど、俺は単に抵抗しただけで……変な事はしていませんよ!?」
「囀るんじゃないわよ、このロリコンが! 貴様に尊きロジーナ様から賜った名前を呼ばれる事や、そしてロジーナ様を呼び捨てにする不敬も許されぬ!!」
慌てて弁明をするけど、レッタさんは聞く耳持たず……むしろさらに激昂した。
というか、ロリコン呼ばわりはさすがに人聞きが悪いというか、俺にそんな趣味はありませんよ!?
「……確かに、レッタともかく私の事を敬わない呼び方は、気になっていたわね」
「いやいや、ロリコンってそんなつもりは……! というかロジーナ、どっちの味方だよ!」
うんうんと頷くロジーナに思わず突っ込む俺。
「私が誰の味方なんて、私自身の味方でしかないわ。レッタは本当にともかくとして、少なくともリクの味方になったつもりはないって言っているでしょ?」
「そりゃ……仲間ではないともさっき言っていたけど……」
せめて、俺がロリコンだというのは否定して欲しかった。
子供は可愛いと思うけど、そんな趣味は一切ないと声高に叫びたい気分だ。
「さっきから、貴様のせいでロジーナ様にともかくとされているじゃない! 絶対に許さないわ……ロリコンは敵……!!」
「ともかくとされているのは、俺のせいじゃないんですけど!?」
ロジーナがレッタさんの事をぞんざいに扱っているだけで、俺はそこに関与していない……はずだ。
というか気にしていたのか。
それはともかく、俺は本当にロリコンじゃないから! 敵じゃありませんよー!
「ふふ、ここにリクがいるという事は今あちらは手薄という事……だったら……」
急に笑い声を漏らしたレッタさんが、フードを外す。
中から出てきた顔は、確かに見覚えがある……あの時馬車の中で娘と言ったロジーナと仲良さそうに、そして俺とも仲良く話してくれた母親の顔。
ロジーナと同じ髪色で笑っていれば、美しく優しそうな雰囲気の母親だと、多くの人が思うだろう……笑っていればね。
年の頃は二十代後半といったところか……若干、いやかなり怒った表情で俺を睨んでいるレッタさんからは、優しさなんて欠片も感じない。
というか怖い。
そのレッタさんは俺を睨み付け、頬を引きつらせながら体の前で両手を組み、人差し指だけを伸ばしてそれへと突き出す。
……小学生がイタズラで千年殺しとかって技名を付けられてそうな、あれの練習かな? なんて、冗談は通じる雰囲気じゃないね、これは。
それら一連の動きを見て、ロジーナがレッタさんに手を伸ばした――。
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