上 下
1,301 / 1,903

リクへの疑惑もしくは嫌疑

しおりを挟む


 初めてレッタさんと会った時、あの時はロジーナの母親って言っていたけど……あれは演技だったとか。
 というかさっきも、ロジーナはあの子とか言っていたし俺もレッタさんの話を思い出していたんだから、早く気付けと自分に対して反省を促す。

「む、無視しないで……な、なぜ貴女様がここに……!? リクと協力して……まさか仲間に!?」

 レッタさん、自分の驚きの声がスルーされたからか、ちょっと悲しそうな声を出してもう一度ロジーナに向かって問いかけた。
 初めて会った時に母娘を装っていたから、当然知り合いというかロジーナが破壊神だって事も知っている人のはずだ。
 それなのに、俺と協力して乗り込んできたのを見たら、そりゃ驚くよね。

「私が危ないから、緊急的な措置よ。リクと仲間になったつもりは一切ないわ」
「緊急……?」

 ロジーナの溜め息交じりの答えに、訝し気な声を出すレッタさん。
 ユノと一緒にヒュドラーを足止めして、協力して倒して、ここに来る時も一緒に頑張ったのに……仲間じゃないとあっさり否定されるのは少し悲しい。
 まぁ、元々ロジーナは俺が負の感情に支配された場合、人間になってしまった事で危険が及ぶと考えて渋々手伝ってくれているだけだから、仕方ないけどね。

「私、今人間だから。この姿も以前は仮初だったけれど、今はこの体が私なの」
「に、人間に……!?」
「前にリクと接触して誘導した時のように、ロジーナを名乗っているわ。この体であるうちは、その名で呼んで」
「で、ではロジーナ様……と……」
「えぇ、それでいいわ」

 レッタさんが名を呼ぶと、したり顔で頷くロジーナ。
 俺と会った時は、母娘を装っていて当然ながら母親っぽい雰囲気だったけど、こうして見ると主従関係のようだ。
 レッタさんはロジーナの正体を知っていて従っているようだから、間違いではないんだろうけど。
 ロジーナと一緒にここに来たのは正解みたいだね……これなら話が早そうだ。

「それでレッタ。あなたはここで何をしているの? 大体わかってはいるけれどね」
「それは……ロジーナ様の気配が、センテの街の方に感じられまして。何かを仕掛けているのだろうと……ですので私も後押しのため、魔物達を利用したのです。例の目的のために」
「やっぱりね……」
「最初から上手くいっていれば、使う手段ではなかったのですが……少々強引ながら実行させました」

 ロジーナと話すレッタさんは、素直にここにいる理由を話してくれた。
 そういえば、レッタさんとロジーナはお互いの気配がわかる、みたいな事を言っていた気がする。
 センテにロジーナがいるという気配を感じて、俺を隔離した時のように仕掛けをしていると考えたレッタさんは、援護するためにこうして魔物を引き連れてってわけか。
 実行させたって事は、レッタさん以外にも誰かいるのかもしれないけど……。

「で、なのですが……?」
「ん?」
「ロジーナ様がリクといる理由、をお教えして頂けないでしょうか? 見る限り、破壊衝動に支配されているようには見えません……」

 おずおずと、ロジーナに質問するレッタさん。
 それにしても破壊衝動って……まぁ、ロジーナが俺を隔離させた理由も、絶望した俺が負の感情やらに支配されて、ただ破壊をまき散らす存在にしようとしたかららしいけど。

「あぁそうね。それに関しては本当に緊急的な措置であって、不本意なのだけれど……リクを隔離してセンテの壊滅。それを狙った時にちょっとね。その影響で人間になったのよ。おかげで協力せざるを得ない状況になったわけだけど」
「確かにロジーナ様は、リクに魔物を相手にさせないようにし、その間にセンテのに人間を街ごと滅ぼすと仰っていましたが……その際に何が?」
「思っていたより厄介ない相手だったって事よ。抵抗したリクのせいで私の干渉力がね……まぁ早い話がリクが強引に私を……って、レッタ?」
「リク……やはり貴様が……!! ロジーナ様を誑かしたのね!!」
「うぇ!?」

 話の途中、ロジーナが強引にと言ったあたりで鋭い目をフードの隙間から覗かせて、こちらを睨むレッタさん。
 クラレッタさんやツヴァイと同じく、全身から濃い魔力が滲みだした……魔物を操作するための赤い光を見ていた時から予想はしていたけど、やっぱりこの人も無理矢理魔力量の保持量を上げているのか……!
 というか、誑かしたって……ロジーナが強引にとか言うから、変な勘違いをしてない!?

「ちょ、ちょっと落ち着いてレッタさん。えっと、ロジーナは強引にって言ったけど、俺は単に抵抗しただけで……変な事はしていませんよ!?」
「囀るんじゃないわよ、このロリコンが! 貴様に尊きロジーナ様から賜った名前を呼ばれる事や、そしてロジーナ様を呼び捨てにする不敬も許されぬ!!」

 慌てて弁明をするけど、レッタさんは聞く耳持たず……むしろさらに激昂した。
 というか、ロリコン呼ばわりはさすがに人聞きが悪いというか、俺にそんな趣味はありませんよ!?

「……確かに、レッタともかく私の事を敬わない呼び方は、気になっていたわね」
「いやいや、ロリコンってそんなつもりは……! というかロジーナ、どっちの味方だよ!」

 うんうんと頷くロジーナに思わず突っ込む俺。

「私が誰の味方なんて、私自身の味方でしかないわ。レッタは本当にともかくとして、少なくともリクの味方になったつもりはないって言っているでしょ?」
「そりゃ……仲間ではないともさっき言っていたけど……」

 せめて、俺がロリコンだというのは否定して欲しかった。
 子供は可愛いと思うけど、そんな趣味は一切ないと声高に叫びたい気分だ。

「さっきから、貴様のせいでロジーナ様にともかくとされているじゃない! 絶対に許さないわ……ロリコンは敵……!!」
「ともかくとされているのは、俺のせいじゃないんですけど!?」

 ロジーナがレッタさんの事をぞんざいに扱っているだけで、俺はそこに関与していない……はずだ。
 というか気にしていたのか。
 それはともかく、俺は本当にロリコンじゃないから! 敵じゃありませんよー!

「ふふ、ここにリクがいるという事は今あちらは手薄という事……だったら……」

 急に笑い声を漏らしたレッタさんが、フードを外す。
 中から出てきた顔は、確かに見覚えがある……あの時馬車の中で娘と言ったロジーナと仲良さそうに、そして俺とも仲良く話してくれた母親の顔。
 ロジーナと同じ髪色で笑っていれば、美しく優しそうな雰囲気の母親だと、多くの人が思うだろう……笑っていればね。
 年の頃は二十代後半といったところか……若干、いやかなり怒った表情で俺を睨んでいるレッタさんからは、優しさなんて欠片も感じない。

 というか怖い。
 そのレッタさんは俺を睨み付け、頬を引きつらせながら体の前で両手を組み、人差し指だけを伸ばしてそれへと突き出す。
 ……小学生がイタズラで千年殺しとかって技名を付けられてそうな、あれの練習かな? なんて、冗談は通じる雰囲気じゃないね、これは。
 それら一連の動きを見て、ロジーナがレッタさんに手を伸ばした――。

しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

処理中です...