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密集する魔物達を抜けて目的の場所へ
しおりを挟む「せっ! はぁっ! ふぅ、はぁ、はぁ……」
もう何度目か、何体目かわからないくらい、大剣を振り続けて魔物を斬るロジーナ。
借り物の大剣は体の大きさに合わなすぎるためか、肩で息をしている。
ヒュドラーとの戦いからこっち、まともに休憩していないからってのもあるんだろうね、疲労が色濃い。
少しずつでも進めていれば……と思ったけど、あまりこの状況を長引かせちゃいけないかも。
魔物がひしめく場所深くに食い込んでいるという事はつまり、戻る時もその魔物達を倒して切り開かなきゃいけないわけで。
このままじゃ、帰りの体力もロジーナからなくなってしまう。
「一気に進もう! ん……ロジーナ、伏せて!」
「っ!」
「せやぁっ!」
ロジーナに声を掛け、魔力放出モードの剣を再び長く伸ばす。
俺の声を聞いて、すぐにしゃがみ込んだロジーナに当たらないよう、少し高めの位置で伸ばした剣を振るう。
……伸ばした時、突進してきたキマイラに突き刺さってそのままになっているけど……振り払っている暇はなかったから仕方ない。
魔物による囲みはさらに狭くなっていて、俺やロジーナとの間はもう二メートル程度しかないからね、構っていられる余裕はない。
「はぁ……ふぅ……一気に行くわよ!」
「うん!」
俺が振るった剣、キマイラ付きなのはともかく……正面にいた魔物を斬り、キマイラごと弾き飛ばした。
さっきみたいに衝撃波みたいなのは発生しなかったけど、多分それはキマイラのせいっぽい。
ともかく、俺が剣を振りぬいた直後に立ち上がったロジーナが、大剣を振りかぶって赤い光の発生源へと駆ける。
伸ばしていた剣のままだと不便なので、再び丁度良さそうな長さに戻して俺もその後を追った。
「かなり近づいたけど、これ以上は厳しいわね……はぁ、ふぅ……」
荒い息を吐きながら、ロジーナが立ち止まる。
斬っては進み、斬っては進みを繰り返していたけど、近付いて来て魔物達の警戒が増したのか、どうしても抜けさせたくないのか……俺やロジーナに襲い掛かる連携などはそのままに、斬った魔物を踏み潰すように別の魔物が正面に並ぶ。
まるで、魔物による肉壁みたいだ……多種多様な魔物が代わるがわる壁になるので、統一感はないけど。
「魔法を使って、一気に飛び込む?」
「いえ……リクの魔法はそこにいる誰かも巻き込みかねないわ。こんな中じゃ、調整なんてできない……でしょっ!」
「んっ! っと、まぁ、そうかも……」
何かしらの魔法で突破を試みようか、と提案してみたけどロジーナに否定される。
確かに、次から次へと魔物が迫る中で丁度良さそうな魔法をというのは難しい……。
ただでさえ威力調整が苦手だから、勢いに任せて使ったら目指していた何者かも巻き込んでしまいかねない……できれば、生け捕りにしたいからそれは駄目だ。
常に剣を振るい、魔法を斬り払って魔物を斬り倒しているという状況じゃ、意識的に魔法を弱くしづらいから。
「リクの魔法に賭けるよりは、確実な方法があるわ」
「え?」
「高く飛んで行けばいいだけの事よ。もう少しなんだし、抜ければおそらく今よりも空間ができるはずよ」
「……確かに、向こう側は赤い光の発生している所を中心に、魔物達が距離を置いているようだけど……」
焦っているのか、断続的だった赤い光の頻度はさらに高くなっており、周辺の魔物達へと広がっている。
ただ、その光の発生源……魔物達が邪魔して何者かは見えないけど、かなり近づいたおかげでその場所が少しだけ開けたような空間になっているようだった。
「レムレースに向かっていった時、ヒュドラーを越えるくらい飛び上がったでしょ? あれをここでやればいいの。私を抱えてね」
「ロジーナをか……できなくはないと思うけど……いや、迷っている場合じゃない、ねっ! っと。わかった」
ロジーナは見た目小さい女の子だから、体重はかなり軽いだろうけど……持っている大剣の重量が気になる。
けどまぁ、数メートルくらい飛んで周辺で一番大きく、多分三メートル以上ありそうな蜘蛛に人の上半身を付けた魔物を飛び越えるくらいはできるはず。
魔物を飛び越えて、すぐ近くの開いていそうな空間へ飛び込むならできそうだ……。
「……変な所を、触るんじゃないわよ」
「触らないように、気を付けるよ……」
破壊神でも、一応女の子なのか抱き抱えようとする俺に注意をするロジーナ。
この状況で変な事を考えている余裕はいし、余裕があってもそんな事をしない。
気を付けながら、ロジーナの持つ大剣ごと抱きかかえて足に力を入れ、ヒュドラーとかとの戦闘中はほとんど無意識に発動させていた、高く飛ぶための魔法を発動させた。
「っ! とと!」
「っ!?」
魔物達を飛び越え、予想より大剣が重かったせいもあって魔物達の頭上をスレスレ飛び越え、目指していた場所へ着地。
俺でもロジーナでもない、そして魔物でもない何者かが驚いたような声が漏れ聞こえた。
「ふむ、中々ね。予定通りといったところかしら。さすが私の案。リクに任せていたら、こうはいかなかったんじゃないの?」
「……力任せ、魔力任せで蹴散らすのは得意だけどね」
後ろから抱きかかえるようにしていたロジーナが、俺の手を離れて地面に立ち、こちらを見上げてニヤリと笑う。
確かに、俺の案だったら色々と色々な影響が強くて、後々後悔するような事になっていたかもしれないけどね……とりあえず、ロジーナには苦笑で答えた。
それと同時に……。
「多重結界!」
予想通り開けていた空間、一人の人物を中心に半径五メートルくらいの場所を多重結界で覆って、魔物が入り込まないようにする。
そうして、両手の人差し指を空へ向けているという、おかしなポーズで固まっている人物と対峙した。
「さて、私の予想通りの相手かしら……?」
ロジーナが窺うように、中心にいる人物へと顔を向ける。
その人物はフードを目深に被っており、表情どころか顔もわからないけど、なんとなく驚いている雰囲気を出している。
全身を包む薄茶色のローブは、多分クラウリアさんが身に付けていた物と同じ物だと思う。
あと、ゆったりとしたローブに隠されてはいるけど、体格は女性っぽく見える。
「リク、貴様……! なぜ、リクと貴女様がここに!?」
「あー、やっぱりね。その声はそうなのね。まぁ、気配でも大体わかっていたけど」
「ロジーナ……?」
フードから覗く目は、俺を忌々しく睨むが、視線がロジーナに移って驚きの声をあげている……驚いているのは、ここに俺とロジーナが来た瞬間からでもあるけど。
何やら納得しているロジーナは、対峙している相手が誰かわかったようだ。
体格から察していた通り女性の声……どこかで聞いた事があるような、ないような?
記憶に引っかかりを感じるけど、思い出せない。
「レッタよ、リク」
「レッタ……あぁ!」
女性の反応を無視して、俺にその人物の正体を明かすロジーナ。
レッタ……一瞬誰かわからなかったけど、ロジーナと一緒にいる事で記憶が刺激されたのか、思い出した。
以前、初めて俺がセンテに行く乗り合い馬車の中で話した、ロジーナと一緒にいた人物だ――。
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