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南のヒュドラー撃破

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「ユノ、ロジーナ、お待たせ! っと!」
「ギャギ!?」

 エアソードを追いかけるような勢いのまま、ヒュドラーの首に向かう俺……ユノとロジーナに大きく声を掛けながら、魔力放出モードにして剣身を伸ばした輝く剣を振りぬく。
 数メートルという、剣としては巨大な剣身……やっぱり剣その物が延びているというより、魔力で作っているんだろう、長くなっても持っている重さはほとんど変わらないから。
 ともかく、俺の振った長い剣身がヒュドラーの首を二つ、根元からあっさりと斬り取る……残り一つ!

「リクなの!」
「ようやく来たのね。順調と言っていた割には遅かったじゃない」
「ごめんごめん。ちょっと手間取っちゃって……」

 ヒュドラーの首を二つ斬り取った俺は、そのままユノとロジーナの前に落ちた……というかヒュドラーの胴体正面に降りる。
 後ろから喜ぶユノの声と共に、憎まれ口を叩きながらも少しほっとした様子を醸し出すロジーナに、苦笑しつつ謝った。
 結構勢いで飛び出したけど、ちゃんと狙ったようにヒュドラーの首を掠めて、ユノ達の傍に来られた……さすがに足場も作らず、空中で軌道を変えるなんてエルサみたいな事はできないからなぁ。
 いや、やろうと思えばできるのか? 魔法で何かを噴射したり、俺自身に風や何かを当てれば……って、今はそんな事を考えている場合じゃなかった。

「少し遅くなってきているけど、再生しそうなの!」
「そうみたいだね。でも、させないよ……はぁっ!」

 俺を迎えたユノは、すぐに再生を始めたヒュドラーを見て叫ぶ。
 けど、その再生時間の間に、いや剣を振り切ってから着地するまでの間に、体内に溜め込んでいた魔力を解放。
 ヒュドラーの残っている首に向かって、魔力弾を放った。
 魔力弾は狙い違わずヒュドラーの首の根元を貫通し、抉り取って首と胴体を切り離して彼方へと飛んで行く。

「またそれなの。威力は私自身がよく知っているけど、なんというかあんまりいい気分じゃないわね……」

 何やら、ロジーナが顔をしかめて呟いているけど……まぁ、あの時はロジーナと戦っていたからね。
 というよりも、おかげで魔力弾って戦い方ができるようになったんだから、ある意味経験としては良かったのかもしれない……その分、センテの被害が大きくなったんだから、あまり喜べないけども。

「あ、動かなくなったの」 
「そうみたいだね。これでヒュドラーもレムレースも、両方倒せたかな」

 ズズン……という音を立てて、ヒュドラーが仰向けになるように倒れて動かなくなる。
 首の動きでバランスを取っていたんだろう、丸みを帯びているけど西洋竜に近い体……尻尾がない分体は後ろに傾きやすい、とかかな多分。
 首の再生も止まったようだ。

 さっきまで自分のいた場所を見上げると、多重結界と足場結界が残るだけのそこにはもうレムレースだった黒い霧や、激しい嵐となっていた炎も消え去っていた。
 結界は自分で張った物なので、そこにあるというのはわかるんだけど、透明だから見上げた俺の目には青々とした空が広がるだけだね。

「はぁ……レムレースまで使っているなんて思わなかったけど、とりあえずひと段落ってところかしら」
「あれは人が扱っちゃいけない魔物なの。ヒュドラーとは違うの……」

 動かなくなったヒュドラー、塵すら残していないレムレース。
 後続の魔物達は俺が放ったマルチプルアイスバレットで、まだまだこちらには向かってきそうにない……ヒュドラーやレムレースがいなくなったために、恐れているとか戸惑っているってのもあるのかもしれないけど。
 とにかく、そんな現状を見渡して一息吐くロジーナに、険しい表情のユノ。
 ヒュドラーとは違うってどういう意味だろう?

「おそらく、当初の狙いへのダメ押しってところね。やり過ぎを通り越して馬鹿だわ……まぁ、人間がそうしようとしたのか、あの子がそうしようとしたのかはわからないけど」
「ヒュドラーとは違うって? 確か、同じSランクの魔物って聞いたけど……あの子ってのはレッタさんだったっけ? あの人の事だと思うけど」
「いい? ヒュドラーは単純に魔物として生まれ、魔物として存在しているの。でもレムレースは違うわ。魔物の思念や魔力が固まってできている……だから不安定な黒い霧になって、剣なんかの武器がつうようしないんだけど……」

 ロジーナが話すには、レムレースはそもそも成り立ちからして他の魔物とは違うとの事。
 魔物は本来破壊神が創った存在だけど、レムレースは自然……かどうかはともかく、破壊神であるロジーナがは関与していないらしい。
 一部例外の魔物には、核が存在しないみたいだけどそれはレムレースも同じ。
 魔物の思念や魔力が固まり、偶然や必然を織り交ぜてできる存在のため、人間達は魔物として分類しているけど厳密には魔物ですらないとか。

 意思を持った魔力の塊、と考えるのが一番近いと言っていた。
 欠片でも残していれば、その魔力や思念で他の魔力や残留思念などを吸収。
 完全に全てを消滅させるまでは復活するのが、討伐不可と言われているらしい理由の一つ。

「思念や魔力……もしかして、今センテで渦巻いているようなのから、発生するって事?」
「まぁ、あっちは人間のも混じっているから、発生までは至らないはずよ。純粋な魔物の思念と魔力のみの存在なのよ」
「色んな思念が混じっているから、本来は目的とか何かをするという統一された意思はなくて……だから一番力を蓄えやすい、思念や魔力が籠る洞窟なんかの奥にいるの」
「もちろん、そこに人間が行って不用意に攻撃すれば、反撃されて逆にやられるわね。統一された意思はない、けれどその思念のほとんどは負の感情である事が多い。だから、攻撃性は強いのよ」

 つまり、攻撃に対する反撃は反射的にするためレムレース自体の意思とかは、ほとんど関係ないって事かな?

「それじゃあ、なんでレムレースはここに……」
「レムレースに固まった思念は、人が理解できるものじゃないわ。元々魔物って事もあるけれど、大量の……数百、数千の思念が渦巻いているもの。でもだからこそ、誘導はしやすいの」
「固まり、残留する思念は負の感情である事が多いの。純粋な魔物のみの思念って事は、ほとんどが人に対する物なの……」
「魔物同士でって事もあるけれど、まぁそういう風に私が魔物を創ったからね。一部の知恵ある魔物を除き、人に対して負の感情を抱くように。ほとんどの魔物は、生まれながらにして人への敵意を持っているわ」

 つまり、人に対する敵意や負の感情が固まっているから、人にその攻撃性を向けさせるのは簡単って事か。
 理性なく復讐を目論む存在に対して、あそこに復讐の対象がいますよーって教えてただ暴れさせるとか、損感じかな、多分。

「でも、人に対して人が誘導するっていうのは不自然じゃ……?」

 例えのままで考えるなら、復讐の対象者が、別の復讐の対象を勧めるとかそんな感じだ。
 俺の考える例えが合っていれば、だけど――。


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