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レムレースとヒュドラー戦
しおりを挟む勢いよくユノに投げ飛ばされたロジーナの頭突きが、首の一つ、その中ほどに突き刺さる。
くの字に曲がるヒュドラーの首の一つ……生憎と、というか当然ながら皮膚を裂くような事はできなかったようだ。
結局弾かれてロジーナは地面へと落下する……空中で体勢を変えているような、よくわからない余裕があるから大丈夫そうだね。
というか、女の子がさらに小さい女の子をジャイアントスイングで投げ飛ばすって、考えるだけだとシュールだけど見ていた俺にとっては結構なショッキング映像だった……。
注意を引き付けるって言っていたから、何かするつもりなのはわかっていたけどまさかあんなやり方だったとは。
「フシュー!!」
「こっちを見たの! 注意を引き付けられたの!」
「つっ……こんな事やるもんじゃなかったわ。武器がないから、そのまま行ったけど……できれば拳か足でよかったわね……」
頭突きとはいえ結構な勢いだったのか、怒ったように息巻いたヒュドラーの注意がユノとロジーナの方へ向く。
地面に落下したロジーナは、頭を抑えて振りつつ何かを言っているみたいだ……見下ろす限りでは、怪我とか頭が割れたとかはなさそうだ。
……ロジーナって案外石頭なのかな?
「ギ……ギ……ギ!」
レムレースから発せられる、悲鳴のような声。
地面やヒュドラーの首回り、さらには空に広がっていたレムレースも大分魔力を吸収されたようで、かなり小さくなってきている。
今はもう、ヒュドラーの頭上にあるだけで、目もかなり縮小していた。
「もう少し……かな。――レムレースの方は順調で、もうすぐ終わると思う!!」
足場結界の上から、地上でヒュドラーの吐き出す魔法を避け続けるユノとロジーナに向かって叫ぶ。
見ているだけでも、結構危なっかしいところがあったから、早くしないとと少し焦れる。
「わかったのー! ふわ! あっぶないの……」
「武器もないんだから、今の私達は完全に避けないといけないのよ!? ちゃんと気を付けなさい!」
俺の声が聞こえたんだろう、ユノがこちらを見上げて手を振って返事を……した瞬間に、ヒュドラーから撒き散らされる炎。
何度も横に飛んでヒュドラーの側面に回り込みながら、なんとか避けるユノにロジーナが注意しているようだ。
俺が声を掛けた事が原因だけど、ユノはもう少しヒュドラーに集中して欲しい。
ヒュドラーの方は、ユノ達からの反撃がないのに気をよくしたのか、少しずつ歩を進めながら八つの首を動かして攻撃の頻度も上がっている。
攻撃の頻度は、レムレースがかなり小さくなって魔法が放たれない事が理由だろうか……俺が到着する前に見た時よりも、それぞれの魔法の勢いや威力が増している。
魔物同士、気を遣っていたわけじゃないだろうけど、やっぱり今までレムレースの連続魔法使用があったから加減していたんだろう。
それくらいの事を考える、または察する力というか知恵はあるみたいだし。
「ギャギ……!」
「フシュー……!」
「当たらないのー……っとと!」
「ちっ……やっぱりヒュドラーはレムレース程じゃなくても、これくらいは考えられるか。私達が反撃できないってわかっているみたい。厄介ね……」
ヒュドラーの首から吐き出される魔法、それらを身軽に動いて避けていたユノの足が止まる。
同じように、ロジーナも止まってほとんどユノと背中合わせをしている状況だ。
追い詰めるためだろう、ユノ達が避ける事に集中しているのを反撃できないと理解したか、首先……顔を地上近くまで降ろして、八つの首のうち七つでユノ達を取り囲むようにしている。
レムレースに剣を突き刺している俺の後まで、ユノ達を追ってヒュドラーが動き、体で正面を塞いで長い首をさらに伸ばして、左右と後ろをぐるりと取り囲んでいた。
ヒュドラーの首って、伸びるんだな……なんて感心している場合じゃない。
どうするか……ユノ達の方を助けに行きたいけど、今この場を離れるとまたレムレースが動き出してしまう。
大分小さくなったから、さっきまでのような連続魔法の仕様はできないとは思うけど。
でもむしろ、この場から逃げ出してしまうような気配を感じる……というより、そんな蠢き方をしているんだけど。
「レムレースを逃がすわけにはいかないし……」
モニカさんから聞いた話だと、人間には討伐不可とされている魔物らしい。
こちら側としては追い払うだけでもいいんだけど、その後のレムレースがどうするのかなんてあまり考えたくない。
見逃してしまったら、別の場所でまた暴れるだけだろう……さすがに、ここまでの攻撃性を見てから、どこかでおとなしくしてくれるだろうなんて、お花畑な事は考えられないし。
「ユノ、顔を蹴飛ばしてでもここを抜けるわよ……!」
「その必要はないの。ヒュドラーが私達を囲もうとしていたから、わざとこうして囲ませたの」
「は? 何を……」
俺が考えている間にも、ヒュドラーが顎を広げて囲み込んだユノとロジーナに向かって魔法を吐き出そうとしている。
レムレースがどうのと考えている場合じゃないか……! と突き刺している剣を抜こうと下その瞬間、ユノの様子に気付いた。
焦っているとかそんな雰囲気ではなく、むしろ楽しそうな雰囲気を感じた。
「一体何を……あ、もしかして……?」
剣を突き刺しているレムレースから振り返っている形でユノの周囲を見る……というより高い位置にいる俺だから、それに気付いた。
ヒュドラーが歩を進めてユノ達を囲んでいる場所、ヒュドラーの体越しに見えるその地面は、これまで吐き出された魔法の影響だろう、小さな穴が無数に開いていて、焼け焦げた跡や土が溶けている。
そしてそこらには、折れた剣や剣先などのユノとロジーナが使い捨てたであろう武器達。
つまり、これまでユノ達が戦っていた場所だった。
「ギャギー!」
「今なの! これを……こうするの!」
「ギャ……!!」
炎をまき散らすタイプの首だったんだろう、大きく叫んで開けた口から赤く燃え盛る何かが見えた瞬間、地面に落ちていた剣の残骸のうちいくつかを拾いながら、一瞬で駆け寄るユノ。
そのままジャンプして炎を吐き出そうとする口の上から真っ直ぐ下に向かって、着地で体重を掛けつつ拾った剣先を突き刺す。
「なの! なのっ! なのっ!」
「……そういう事なのね。まったく、戦闘に慣れ過ぎじゃないかしら? そういうことはむしろ私の領分でしょうに」
何度も、拾ったいくつかの剣先を突き刺していくユノ。
あけられていた口は、すぐに炎を吐き出す事が敵わず閉じて封じられる……そして、内部から燃え上がった。
ヒュドラーって、燃えるんだな……まぁ、内部で広範囲に撒き散らす予定の炎が、溢れた結果なんだろうけど。
「武器がないなら再利用なの! エコなの!」
折れた剣先を突き刺され、燃え上がったヒュドラーの首から飛んで離れたユノが、ロジーナの近くに着地する。
微かにユノが何を叫んでいるか聞こえたけどエコって……再利用という意味でなら確かにそうかもしれないけど、本来の目的とは違う気がするんだ。
まぁ、ユノ達が無事なようだしレムレースの前にいる俺からは、突っ込む事ができないし別にいいけど――。
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