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怒られるリク

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「こらーリク―だわ!! 結界でせっかくの攻撃を防ぐんじゃないのだわ! リクは魔物の味方なのだわ!?」

 ミスリルの矢を、魔物を押し留めるための多重結界で止めてしまい、遠くからエルサに怒られてしまった。
 本来魔物達を攻撃するためのものなのに、味方のはずの俺が防いだら怒られるのも当然だよね。

「ははは、怒られてしまいました……えーっと、エルサは……あ、あれかな?」

 マックスさん達に肩を竦めて見せつつ、センテの方を向いてエルサを探す。
 俺が作った長い石壁、その上に立っている人影を発見。
 数百メートルくらい離れているため、はっきりとは見えないけど……見えた人影の頭にくっ付いている、白い毛玉……もといモフモフがエルサなのだとわかる。
 多分、契約で魔力的な繋がりがあるからだろう。

「おそらく、フィリーナの魔法で声を増幅したのだろうな。俺達がヒュドラーに向かう前にも、エルサはフィリーナと一緒にいた」
「成る程、あれはフィリーナですか。まぁ、遠くまで見渡すためなんでしょうね」

 偵察しているワイバーンとそれに乗った兵士さんが、空高くに見えるけど……それとは別にフィリーナにはその目で魔物の様子を窺う役目を任されている。
 だから、遠くまで見渡せるよう石壁の上に立っているのか。
 もう少し魔物が近付いたら、危険なので後ろに下がるんだろうけど。

「ごめーん! すぐに結界を小さいのにするからー!」
「……聞こえていないようだな」

 口に手を添えて、メガホンよろしくエルサに向かって叫ぶ……けど、向こうからの反応が返って来ないから、マックスさんの言う通り聞こえてなさそうだ。
 距離があるし、周辺が静かで声が伝わりやすい状況ってわけでもないからね。
 エルサは目も耳もいいし、聞こえるかなと思ったんだけど……俺がマルチプルアイスバレットで足止めした魔物達も、死骸を乗り越えて再び進行をしているし、魔物の雄叫びのようなものも発せられているから、仕方ない。

「とりあえず、結界を調整しますね……」

 聞こえないのなら仕方がないと、魔物達の方に振り返る。

「向こうはいいのか?」
「多分、エルサならこちらに注目していれば何をしているかわかると思います」
「そういうものなのか……?」
「リクさんは、エルサ様と契約をしているので……何か特別な繋がりがあるのでしょうね」
「目には見えん繋がりか」

 向こうにはフィリーナもいるから、俺が魔法を使った事や結界を調整した事はわかると思う。
 ヤンさんや元ギルドマスターが言うような、繋がりとかは……まぁ、関係なくもないかな。
 エルサも、俺の魔力を感じ取れるようだし。

「んーあまり低すぎると、向こうから魔法が飛んできそうだけど……まぁ、石壁の方にまで届くのは少なそうだから、これくらいでいいか。……多重結界!」

 大体、高さ二メートルくらいだろうか、代わりに横幅を広くして多くの魔物を押し留めるように結界の形を決める。
 威力が増幅されたミスリルの矢によって、ほとんど割れてしまった多重結界を解いたすぐ、新しい多重結界を発動。
 端の方で、突然現れた見えない壁に魔物がぶつかるのが見えた。

「見えないのに、そこに確かに壁がある……というのは奇妙なものだな」
「あれだけの数の魔物、脅威には感じますが何もないはずの場所で進めなくなっているのは、滑稽でもあります」
「それじゃ、俺は南側のヒュドラーを倒しに行きます……けど、元ギルドマスターは下がって少し休んだ方がいいかと。マックスさんやヤンさんもですけど」

 俺の張った結界を見ているマックスさんとヤンさん、それと元ギルドマスターに言う。
 マックスさんとヤンさんはヒュドラーの足止めで披露しているし、それは元ギルドマスターも同じはず。
 しかも、魔法鎧に隠れてわかりづらかったけど、元ギルドマスターは結構危険な怪我をしていたからね。
 治療したと言っても、体力や失われた血なんかは戻らないわけで、少しは休んでおいた方がいいと思う……一番強力なヒュドラーを倒しても、魔物との戦闘はまだまだこれからが本番だから。

「あ、念のためヒュドラーの首を斬り取っておかなきゃ……それと、結界もそんなに長くは保たないと思いますので、一応気を付けて下さい」
「完全に動かなくなっているはずだが、それでもか?」
「再生する魔物ですから、何があるかわかりません。余裕があるうちに確実に仕留めておいた方がいいかなって」

 ここのヒュドラーは地面に横たえたまま動かず、俺が斬った首の再生もされていない。
 けど、あくまで魔力吸収をした事と動かない事、再生しない事で倒したと思っているだけだからね……ロジーナが言っていた、ヒュドラーが周囲の自然の魔力を吸収するという性質、それが気になる。
 剣で吸収したはずの魔力がもし、しばらく放っておく事で自然の魔力を吸収して復活でもしたら大変だから。

 その時俺が近くにいればいいけど、いない場合は大きな被害が出かねない。
 そのため、北側のヒュドラーも確実に全部の首を斬り落としてからその場を離れたんだ。

「ふむ、それでしたら私達がやりましょう。リク様は、南へお早めに向かって下さい」
「え、でも……」
「なに、動かないヒュドラーの首ならなんとかなるさ。俺の剣はともかく、ヤンと元ギルドマスターの武器は特別製だからな。何度もヒュドラーに突き刺したり、斬ったりもできていた」
「ヒュドラーがワイバーン以上に硬いのはわかっている。だが、それくらいならやってみせるさ」
「武器が……確かに、何かの仕掛けがしてあるような雰囲気ではありますけど……」

 ヤンさんの提案に躊躇する俺。
 ヒュドラーは、元の黒い剣でも抵抗を感じるくらいの硬さだった……それは、動かなくなった今も変わらない。
 ミスリスの矢を打ち込む、とかならまだしもヤンさん達で大丈夫なのかと少し心配になったけど、声からは自信が窺える。
 よく見ると、ヤンさんの籠手に取り付けられている剣は赤熱し、大きなハンマー……元ギルドマスターの物だろう、そちらも表面が同じく赤熱しているのが見えた。

 確かに特別製、しかも足止めしている時にヒュドラーに傷を負わさられていたのなら、大丈夫なんだろう。
 魔法鎧に取り付けたり、魔法鎧と一緒に運用したりするのだから、通常の武器とは違う仕掛けがしてあっても納得だね。

「わかりました。それじゃ、マックスさん達に任せます。元ギルドマスターにはあまり無理はして欲しくないですけど……」
「なに、怪我さえ治ればまだこの筋肉は動きますよ。リク様の結界があるおかげで、魔法鎧が機能しなくても防御をほとんど気にしなくてもいいんですから」
「まぁ……無理はしないで下さいね? あと、結界の高さを低くしたので、魔法を撃ち上げてこちらにという場合も考えられます。くれぐれも油断しないように」

 筋肉に自信を持っている元ギルドマスターの物言いに、ヤンさん両手を挙げてやれやれの仕草だけど、マックスさんは深く頷いている。
 相変わらず、この筋肉同盟とも言える人達の共通認識は俺とは別の次元でわかり合っているのかもしれない。
 ともあれ、無理し過ぎないようにだけ伝えて、ユノ達が戦っているはずの南側へ急ごうと体の方向転換した――。


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