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対ガルグイユ二体
しおりを挟む「……次が来ないわね」
「そうだな」
「魔力切れ、というわけではないとは思いますが……」
徐々に近付いてきているガルグイユ。
けどそれだけで、先程のように魔法を使ってくる気配がない。
こちらが完全に防いだから、という訳はないと思うけど……余裕を持ってソフィー達と話せるくらいには、何もしてこない。
「……もしかして、同時に発動はできても連続で放つ事はできないんじゃない、とかかしら?」
ポツリと呟かれる母さんの言葉。
魔法の同時発動なんて、できるできないは別として考えるだけでも体に負担がかかりそうだし……それはあり得そうね。
「もしそうだとして……どうする、母さん?」
「そうねぇ……このまま待って、迎え撃つのが一番やりやすいけど。でも敵はあのガルグイユだけじゃないわ」
母さんに問いかけると、考える仕草をしながらも目はガルグイユを捕えて離さない。
迎え撃つ案を口にしているけど、どう動くかはもう決まっているみたいね……私も、母さんが何を考えているのか、どう動きたいのかわかるわ。
ソフィーや、フィネさんも。
「……モニカや皆も、考えは一緒みたいね?」
「こうしている間にも、魔物が街に向かっているわ。私達が全てを相手にできないのは当然ながら、こちらに見向きもしない魔物もいる」
「街を目標にしているからだろうな。少しでも進行を遅め、少しでも魔物を倒す事が勝利に繋がると思う」
「それに、リク様の方はもう私達の援護は必要ないようですから。だとしたら、ここで私達がすべきことは、向かって来る魔物を待つ事ではありません」
全員に問いかける母さんの言葉に、皆の意思は統一されている。
それにしても……本来はリクさんに向かう魔物を、少しでも減らそうと意気込んでいたのに、実際戦闘が始まってみるとほとんど意味がない事だと思わされたわ。
離れていてもはっきり見える、ヒュドラーが撒き散らす火炎……他にも何かやっているようだけど、それらがリクさんに近付こうとしている魔物を巻き込んで、邪魔できないようになっているもの。
キマイラなどの強力な魔物がいるのも関わらず、ね……味方かどうかは関係なく、周囲にいるすべてを巻き込む戦い方は魔物らしいと言えばらしいのかしら?
そんなヒュドラーと一人で戦える、だけでなくむしろ押しているくらいなのはさすがリクさんと言うべきかしら……リクさんにしかできない事よね。
「それじゃ決まりね。魔法の同時発動は連続ではできないと仮定するとして……もう少し近付いたら、こちらから打って出るわ。モニカ、ガルグイユが魔法を使ったら、撃ち落とすわよ」
「えぇ!」
「おう!」
「はっ!」
迎え撃つ、ではなく打って出ると決めた母さん。
今すぐじゃないのは、あまりヒュドラーのいる方に近付き過ぎたら私達が危険だからね。
他にも、悠長に待っていたからいつ次の魔法をガルグイユが放つかわからない……それに対する警戒でもあると思うわ。
いざとガルグイユに向かっている最中に魔法が撃たれたら、対処が難しくなる可能性を考えてだろう。
私達にできる魔法の対処は、武器で打ち払うか魔法で打ち砕く、相殺させるくらいしかできない。
リクさんやエルサちゃんみたいに、結界を使って完璧に守れる魔法が使えたら、便利なんだけれど……。
「……来たわ! モニカ!」
「えぇ! ガイアウォール!」
ほんの少し……呼吸を数回するくらいの間の後、ガルグイユが魔法を発動させる。
石像の鳥のような顔をした部分にある目らしき物が、二体同時に光ったと思った瞬間、複数の魔法が私達に向かって放たれた。
注意深く見ていた母さんの言葉に応え、用意していた魔法を発動。
地面から、人の胸辺りまでの高さの土でできた壁が、私達の前にせり上がる。
……シュットラウル様の連れてきた兵士と演習する時、リクさんの作った土壁を見てこういう守り方もあるんだ、と思って魔法屋に駆け込んで見つけた魔法。
母さんの前では使った事がなかったけど、センテを取り囲む魔物達との戦闘では随分と役に立ってくれたわ。
生憎と、リクさんの作った土の壁みたいな頑丈さはなくて、簡単に破壊できるんだけど……それでも、迫る魔法を防ぐくらいはできる。
「土の壁ね、モニカも成長したわね……じゃあこちらも、ファイアウォール!」
母さんの方も魔法を発動、私の土の壁を見たからというわけではないだろうけど……それは炎の壁だった。
土の壁が防御的な壁だとしたら、炎の壁は攻撃的な壁、私の作った壁の内側に地面から燃え上がる炎が現れる。
迫るガルグイユの魔法は四つ……先程のように、人の頭の倍くらいはある大きな火球が二つ、それから氷の塊……見えにくいけど、空気の歪みでほんの少しだけ発生と進行がわかる風の刃。
そのうち、二つの火球が私の土の壁にぶち当たり、大きな音と共に壁もろとも爆散。
遅れて来ていた氷の塊は、爆散する火球と土の壁に阻まれて半分以上が削られた状態に……火球の影響で、融けかけてもいるわね。
さらに、母さんが発生させた炎の壁が氷の塊と風の刃を巻き込む。
風の刃はそれだけで……いえ、炎の壁を少しだけ燃え上がらせて消滅。
氷の塊はほとんど解けかけて形を失いかけていたのもあって、炎に巻かれてこちらに届く事はなかった。
「ソフィー、フィネ、行きなさい! モニカ!」
「応っ!」
「はっ!」
「えぇ、わかっているわ!」
元々あまり長く続く魔法ではなかったのか、ガルグイユの魔法を消滅させた直後に消えた炎の壁。
それを確認した母さんが短く指示……特に細かくどうしろ、という内容がないのは皆がどうすればいいかわかっているからだろう。
駆け出すソフィーとフィネさんを、私と母さんが揃って追いかけながら、次の魔法を準備。
一直線にガルグイユへと向かっている二人は、他からの攻撃に無防備だから、私と母さんはその援護。
もし、別の方向から私達に意識を向けた魔物がいたら、その対処をする必要があるから。
もし、ガルグイユの反撃が魔法なり、ソフィー達が対処できない何かだったら、私達が助ける必要があるから。
相手は魔法を使った直後で、ほとんど何もできない魔物だとしても油断せず、確実に倒すための布石として……!
「せっ! かたっ……!」
「はぁっ!」
「GUGUGU……!」
「GUGA!?」
剣で斬り込むソフィー……ガルグイユの石でできている鳥と人間を混ぜたような体の、肩口に食い込んだけど、斬り裂くとまではいかなかった。
ガルグイユは石だからなのか、痛みを感じない様子でソフィーを見て人ならざる笑いを漏らす。
他方、フィネさんの方はソフィーを見てというわけではないだろうけど、斧の刃ではない逆の斧頭を思いっ切り振りかぶって飛び上がり、ガルグイユの頭に叩きつけた。
そちらは、短い悲鳴のような声を漏らし、顔と見られる部分の大半を一撃で砕いた。
後ろから駆け付けた私は、状況を見てですぐにソフィーが危険と判断。
ソフィーに向け、石像のガルグイユがくちばしを大きく開いたその瞬間、大きく叫んで準備していた魔法を解き放った……。
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