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モニカ達の戦いも開始

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「最後の一撃だ、思う存分魔力を使え!! くぉぉぉぉのぉぉぉぉぉぉぉ!! 」

 最後の結界が壊れた瞬間、五首が吐き出し続けていた火炎ブレスを突き抜け、顎の下……切るべき首へと辿り着く。
 力の限り叫び、手に魔力を込めていくらでも剣が吸える状態にし、全身全霊の力を込めて、両手で持った剣を右から横薙ぎに振るう……!

「ギャギ!!」
「くぬ……うぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 頭上にで響く五首の悲鳴、食い込む剣が首の三分の一程を斬り進んだ辺りで止まる。
 そろそろ、他の首も再生しそうな頃合い……ここで止まるわけにはいかない!
 ほとんど無意識に足元へと結界を発動させ、それを踏みしめてさらに力を込める……。
 ジワリ、ジワリと斬り進む剣……次の瞬間。

「あっ……」

 音はしなかった……唐突になくなった抵抗と共に、剣が『割れた』。
 折れた、のではなく割れた。
 俺の力や、五首の堅さに耐久力の限界を迎えたのだろう……剣身は割れたガラスのようにバラバラになり、撒き散らされる。

 五首を斬り落とすまで保てなかった……!
 胸中に沸き上がる悔しさ、脳内に浮かぶ失敗の文字。

「……え!?」

 だが次の瞬間、俺は希望とも言える光をその目に捉え、全身で感じた――。


――――――――――


「リクさん、魔物の勢いを少し削ぐわ! 行って! フレイムブラスト!!」
「リク、頼んだよ! アイスニードル!!」
「ありがとう、モニカさん、マリーさん。……っ!!」

 駆けながら、最近使うようになった魔法を放ち、すり抜けていくリクさんを見送る。

「行ったわね……」
「うん……リクさん、私と母さんの魔法を追いかけて行っちゃった」

 魔法を放って少し魔物に近付いた所で止まり、走って巨大なヒュドラーに向かうリクさんの背中を見送る。
 母さんの呟きに頷き、少しの寂寥感を持たせて私も呟く。
 もうあんなに遠くへ……私や母さんの放った魔法と一緒に、リクさんがどこか遠くへ行ってしまうのではないか、という不安が沸き上がる。
 ……いいえ、リクさんは少し前にどこへも行かないって言ってくれたじゃない! リクさんが安心して戻って来られるよう、ヒュドラーとの戦いに集中できるよう、私も頑張らなきゃ。

「追いつくんじゃないのか?」
「それはさすがにリク様でも……いえ、やれるやれないではなく、魔法が先に魔物に到達するのを待つでしょう……ほら」

 同じくリクさんを見送ったソフィーとフィネさんが、私の隣に来て話している。
 フィネさんの言葉が示す通り、リクさんより先にヒュドラー近くの魔物に到達した私の魔法が炸裂、母さんの魔法も、狙い通り魔物達の足止めをしてくれているみたい。
 あの魔法、センテでリクさんがいない間の戦いの最中、ちょっと苦労して覚えたのに……リクさん、ほとんど反応してくれなかったな。
 まぁ、リクさんはエルサちゃんとの契約で、思い浮かべた魔法を使えるから私が新しい魔法を使っても、特段驚く事じゃないのかもしれないわね……リクさんを驚かせるのって、難しいわ。

「……私達の魔法、いらなかったんじゃないかね? リク、ほとんど走る速度を緩めずに、そのまま魔物達の中を突き進んでいるように見えるわ」
「リクさんの事だから、いらないなんて言わないし思わないだろうけど……詳細が見えるわけじゃない分、こちらからだと魔法が余計だったようにも見えるわね」
「まぁ、リクだからな……なければないで、なんとかしてヒュドラーまで辿り着いたんだろう」
「リク様の前では、Aランクの魔物が群がったところで……ですね」

 呆れたような母さんの言葉に、私も同意だけど……リクさんが私達の協力を邪魔だとか、いらないだなんて思う人じゃないのは間違いない。
 でもソフィーの言う通り、なんとかしただろうというのは間違いないわね。
 でもまぁ、ほんの少しだけでもリクさんが楽になってくれたなら、それでいい。
 私にとっては、それが一番重要な事だから。

「さぁ、私達もうかうかしていられないわ! 多くの魔物はリクさんに向かっているけど、ヒュドラーと離れている魔物は、こちらに向かっているわ!」
「モニカも、大分頼もしくなって来たねぇ……」

 信念という程大袈裟ではないけれど、リクさんへの想いを胸に気持ちを切り替えて、ソフィー達に檄を飛ばす。
 母さんが少しだけ感心している様子だけど……引退したとはいえ今の私達の指揮をするのは母さんなんだから、本来檄を飛ばすのは私の役目じゃないんだからね!

「リクのように、周囲の魔物を集めて全てを相手にするって事はできないが……それでも後ろに抜ける魔物は、減らさなければな」
「足止めだけでも、後ろからの援護で数を減らす事ができます。兵士達への被害を少なくする最善の方法でしょう」

 前を見据えて剣を構えるソフィー、続いて斧を握りしめるフィネさん……二人共本当に頼もしいわ。

「……準備はできているわね?」
「もちろん!」
「剣を抜いた時から、既に!」
「はい!」

 母さんの確認に、私やソフィー、フィネさんが頼もしく頷く。

「それじゃ、少しずつ進んで近付きながら、リクに向かおうとしている魔物の注意を引き付けるのよ。モニカ、私と一緒にちょっかいをかけるわ。ソフィーとフィネは、向かってきた魔物の攻撃を凌ぐのよ、いいわね!」

 一同で頷き、それぞれの武器を握りしめて動き出す。
 先程まで駆けて距離を詰めていたのが嘘のように、今は歩くよりも遅いくらいの速度で前進しつつ、魔法の発動に備える。
 私達の役目は、一番にリクさんへと向かう魔物を引き付け、少しでも邪魔をさせないようにする事。

 それと同時に、余裕があれば他の魔物の足止めをする事……少人数だから、できる事は限られているけど、要は戦場を掻きまわす役目といったところね。
 さっきフィネさんが言ったように、少しでも魔物の進行速度を遅める事ができれば大成功といったところだろう。
 
「モニカ、あのキマイラを狙って!」
「わかったわ! フレイムランス!!」

 母さんの指示に従って、リクさんのいると思われる場所に向かうキマイラに、炎の槍を放つ。
 リクさん自身は、もう魔物達に埋もれてしまってこちらから姿は見えないけど……ヒュドラーの進行が止まり、長くいくつもの首を動かしているため、ヒュドラーとの戦闘をしているんだと思うわ。
 ……遠くから見ても、恐ろしさを感じて足がすくみそうになるのに、そんなヒュドラーに単独で挑もう、しかも倒そうとしているなんて……ほんと、リクさんは凄いわ。
 なんて事を考えているうちに、キマイラに私の魔法がぶつかる。

 蛇になっているキマイラの尻尾、それが炎の槍によって抉られ、燃え落ちた。
 キマイラを相手にする時、厄介なのは体の動きとは独立して蛇による咬み付きや、巻きつき。
 その尻尾を失わせたのは、私にしては上出来なんじゃなかと思う……不意打ちだからこそだろうけどね。

「来るわよ! ソフィー、フィネ、前へ!」
「承知した!」
「はっ!」

 母さんの号令で私の前に出るソフィーとフィネさん……二人は剣と斧を武器に、魔法を使わず戦うため魔物を迎え撃つ役目。
 私の魔法によって、尻尾を失ったキマイラはこちらを睨み、ものすごい勢いで迫ってきていた――。


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