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新しい魔法の準備

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「そうか……高熱の溶岩や火炎もそうだけど、酸が原因か……」

 でもそれだけじゃなく、一首と時折五首が吐き出す酸……土すら融かす酸を受けただけでなく、斬り取る時に触れていたからだろう。
 首を斬り取るために、剣を通したその部分が他よりも早く酸に変わっていたのか、それともヒュドラーの体内にそもそも酸が蓄えられているのか……。

 どちらかはわからないけど、炎や氷の温度差に加えて酸にまで触れたら脆くなるのも当たり前だろう。
 というか、どう考えても酸が一番の原因だと思われる。
 ちなみに五首も二度斬り取ったけど、その時は切り口から酸が噴き出して俺も危険だったりした……剣身は間違いないく浴びているから、その影響もあるか。
 まぁ、五首は他の首と同様に何事もなく再生したから、中心的な首だからといって核みたいな存在や弱点ではないみたいだ。

「このままだと使い物にならなくなりそうだけど……だからといって、替えの剣はないし……」

 俺も、ワイバーンの素材を使った武器をもらっておけば良かったかもしれない。
 そこらの剣だとヒュドラーの首を斬り取れるか微妙だし、そもそも耐えられそうにない。
 ワイバーンの素材でもそれは同じかもしれないけど、他のよりはマシだろう……一番は、今俺が使っている黒い剣と似たような物があるのがいいんだけどね。

「ワイバーンの武器……近くにいるモニカさん達は持っているけど、さすがにもらうわけにはいかないか」

 近く、と言っても二百メートルくらいは離れているんだけども。
 ヒュドラーのブレスの影響を受けないくらいの距離で、抜けて行った魔物や別の方向から俺に向かう魔物を対処してくれているのが、かすかに見える。
 まぁ、俺に近付いてもほとんどの魔物がヒュドラーのブレスに巻き込まれて、邪魔にならない事が多いんだけど、それでも助かっている。

 戦闘中の人から、自分の武器が駄目になりそうだから代わりの武器を求めるなんて事もできないし、ヒュドラーは絶えずブレスをまき散らしているので、一旦離脱する事もできない。
 もし今俺がここを離れたら、モニカさん達……さらに石壁の向こうで援護射撃をしたり、抜けた魔物を食い止めている兵士さん達に甚大な被害が出るだろう。

「……温存して戦うしかないか。幸い、多重結界を張っていれば俺は無事だからね」

 幸い、魔力は十分過ぎる程ある。
 なら剣じゃなく魔法をメインに戦えばいい……剣を振るうように、素早い行動ができないのが難点だけどね。
 イメージから発動まで、魔力弾程じゃなくても少しだけ時間がかかるし、広範囲に及ぶブレスを防ぐために大きな結界を張っているから、一度解かなきゃいけないのもある。

 結界の向こう側には、穴でも開いてないと魔力が通らないから魔法の発動はできない。
 魔力が通れるようにすればいいんだけど、そうするとヒュドラーのブレスも通るようになっちゃうからね……酸や腐食毒とかの液体もあるから。

「最低でもあの硬い皮膚を傷つけて、できれば首を斬り取る……鋭い魔法のイメージが必要だね」
 
 何かを斬り裂く、と考えて思い浮かぶのは風。
 他にも色々あるのかもしれないけど、じっくり考えられない状況の今は一番に思い浮かんだイメージを膨らませる。
 もしかしたら、アルネやフィリーナが風の魔法を使って魔物を斬り裂いていたのを、見ていた影響かもしれないけど。

「鋭く、鋭く……っ、多重結界!」

 ジッとイメージをしていると、ヒュドラーからの攻撃でいくつもの結界が突破される。
 酸で融かされ小さな穴が開き、脆くなったところで岩石や溶岩を吐き出してぶつけられ、何度かくりかえして割れる。
 さらに、腐食毒で土が腐って隙間ができた部分から、火炎がジワリと内側に燃え広がる……かまいたちや氷の刃もそれらを後押しする。
 厄介なのは、適切なタイミングと見たら五首が脆い部分を破壊するために、他の首と同じ攻撃をするので二重の威力になる所だ。

 動き回れば多少は攻撃が緩むけど、イメージを確定させるためにジッとしているためただの的にしかなっていない。
 少しずつ押されているのも気になるけど……むしろ俺が動いた方がヒュドラーが味方のいる場所に近付く事になりそうだから、このまま耐える選択をする。

「……焦るな。結界で防げているんだから、ちゃんとイメージを……」

 ブレスなどを防ぎきっている俺に対して業を煮やしたのか、ヒュドラーのいくつかの首が噛み付いてきたり、ガンガンと結界に体当たり……もとい、首当たり? をしてきている。
 大きさも勢いもあるからか、三首の吐き出す岩石よりも結界への衝撃が強く感じた。
 そのうえ結界に対して至近距離で一首が強酸を吐き出すので、ジリジリと新しく張った多重の結界が浸食されて行く。
 けど、だからといって焦ってイメージが不完全の魔法を発動させたら、失敗もあり得る。

 ヒュドラーへ剣の代わりに、確実にダメージを与えられる魔法じゃないと駄目だと、呟いて自分に言い聞かせながら集中。
 そもそも、ちゃんとイメージできてもヒュドラーに効くかどうかはわからないけど、そこは考えないようにしておく。

「鋭く……風……いや、圧縮した空気の刃の方が、イメージしやすいか。……っ、また! 多重結界!」

 集中してイメージを構築している中、幾重にも張った結界のほとんどが破壊される。
 それに気付いて、再び結界を張り直す……邪魔されるのが面倒だから、ロジーナと戦った時に使った多重結界よりもさらに数を増やして発動。
 よし、今度はしばらく大丈夫そうだ。
 自分自身をほとんど包むような結界を数十、完全に覆ってはいないけど外側からの音などがさらに遠のいた……これでさらに集中できそうだ。

「吹く風よりも、空気をイメージした方が俺としてはやりやすいね。空気を圧縮、鋭い刃に……」

 風で切り裂く魔法をと考えても、中々イメージがまとまらなかったので、空気を圧縮する方向で考える。
 小さい頃に見たアニメで、空気を撃ち出す空気砲が頭をよぎったからかもしれないけど。
 圧縮や凝縮は、土壁や石壁、ミスリルの矢で慣れているせいもあるかな。
 まぁ、風とどう違うのかは疑問だけど空気と考えた方が脳内でイメージが捉えやすいってだけの事だ。

「空気を圧縮……けど、そのままじゃただの空気の弾丸。そうじゃなくて鋭い刃のように……」

 弾丸でもある程度ダメージを与えられるのかもしれないけど、それじゃ首を斬り取るのには使えない。

「鋭い刃……圧縮した空気を薄く細く……剣のイメージ? いや、それじゃ駄目だ。切れ味を追及した薄い刃……刀?」

 ふと思い浮かぶ、俺の中で一番切れ味の良さそうな武器、刀。
 こちらの世界で片刃の剣は見かけたけど、日本刀は見ていない……おそらく、斬るための武器としての考え方や作り方が違うからだろう。
 ただ、俺が知っている中で想像しやすくかつ、切れ味が良くてなんでも切れそうな物として思い浮かぶのは日本刀が一番だ。
 使っている黒い剣は魔法具だからこそ、異常な切れ味があるだけで、基本的には叩き斬る剣なのに対し日本刀は引き切る剣……刀――。


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