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戦う者達への鼓舞
しおりを挟む「ヒュドラー達の間隔、予想より開いていますね……」
「うむ」
三体いるヒュドラーは、魔物達の先頭付近にいる。
俺や足止めする人たちが、戦いやすい位置と言えるけど……問題はヒュドラー同士の距離。
中央に一体いて、北と南にそれぞれ約一キロ以上の距離を保っている。
これはヒュドラー同士が邪魔し合わないために、本能か何かでそうやって距離を取っているのか、他に理由があるのかはわからない。
けど、距離が空いていると俺が一体目を倒した後、足止めされている二体目に行こうとした時に時間がかかってしまう。
俺以外が一分一秒を争うような状況になっていたら、この距離が明暗を分けかねない……ような気がする。
「……北か南……どちらかを先に俺が向かって倒します。それで……」
俺が最初に向かうヒュドラーを決め、時間稼ぎをするユノやマックスさん達の向かう先も、話し合って決めた。
多分、これが一番良さそうだ……。
「集まってくれた皆の者へ告ぐ! この戦いは、センテだけではなくアテトリア王国全土に響く、国の一大事である! 全ての者達が全力を尽くし、魔物を食い止め、被害を抑える事は今後の王国に影響する! 死を恐れるなとは言わん! だが、自分の命、共に戦う者の命を助け合い、無駄にする事はないよう……」
シュットラウルさん達との話を終えて、集まった兵士さんや冒険者さん達に演説をする。
総大将であるシュットラウルさんが身振りも加えて、士気を上げるための鼓舞。
王軍指揮官としてマルクスさんからも檄が飛び、冒険者軍を指揮するベリエスさんは、戦果を上げた者に対して冒険者、兵士関係なくギルドからの報酬を約束。
それぞれの役割ごとに、戦う人達の意気を上げた……最後に。
「えっと……失われていい命、というのはないと考えています……このような状況ですが、だからこそ命を粗末にせず……」
何故か俺が皆への演説のトリを務める事になった。
緊張しつつ、俺の言葉で兵士さん達への言葉を紡ぐ。
こういうのは苦手だし、命に関しては魔物も一緒だろう……なんて、大勢を前にして頭の中がグルグルしているけど、なんとか言うべき事を言えていると思う。
「……共に戦い、共に勝利を掴み取って、皆の帰る場所を守りましょう!!
「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」
言葉と共に、拳を突き上げた俺に呼応して、聞いていた人達が各々持っている物、何もない人は腕を空に突きあげて叫び、意気を揚げた。
……なんとか、シュットラウルさん達の言葉で盛り上がっていた人達の、威勢を削がなくて済んだ。
「お疲れ様、リクさん」
「モニカさん。ありがとう……んく」
意気上昇のための演説が終わり、設置されている陣幕に引っ込んだ俺のもとへモニカさん達が訪ねて来る。
モニカさんから労いの言葉と共に差し出された水を受け取って、お礼を言いつつ飲み干す。
あんまり意識していたなかったけど、喉がカラカラに乾いていたんだろう……大勢の人の前で緊張していたからなぁ。
「さすがリク様ですね。皆、疲れなどないように意気込んでいますよ」
「だが、それでもやはり長期に戦い続けていた疲れというのはあるものだ。まぁそれでも、あれだけ皆の意気を揚げられたのは、リクだからだろうな」
「いや、シュットラウルさんとかマルクスさんの言葉が、皆に響いたからだと思うよ? あと、ベリエスさんの報酬の話とか」
フィネさんから称賛を受けながら、ソフィーの言葉に返す。
俺のつたない話よりも、シュットラウルさん達の方が様になっていたし……特に兵士さん達には響いたんじゃないだろうかと思う。
ベリエスさんによる報酬の話も、冒険者さん達には響いていたようだし。
「もちろん、報酬も含めて皆の意気も揚がったのだろうが……リクの言葉はまた違ったからな」
「違ったって、何が?」
「あれは良い言葉でした、リク様。共に戦って、勝利を掴み取る……これで奮起しない者は、今この場にはいないでしょう」
「そんなものかな?」
ソフィーとフィネさんの言葉に、首を傾げる俺。
「あれも良かったわよね。皆が帰る場所を守る……リクさんらしいけど。それで皆、なんのために戦うかを自覚したというか、思い出した人もいたみたいよ」
「侯爵様やマルクス殿、ベリエスさんとは違って、リクと共に戦ってだからな」
「リク様が共に戦うと約束してくれる事で、皆心強いのでしょう」
「うーん……」
モニカさん、ソフィー、フィネさんがそれぞれ俺の言葉を褒めてくれる。
確かにシュットラウルさん達は、俺とは違って国のため、報酬のために全力で戦えという感じだった……無駄に命を散らさないように、というのは皆言っていたけど。
でも、どちらかというと一緒にというよりは、戦えと命じているようでもあった。
「ヒュドラーに向かっていく事が決まっている、一番厳しい役目を負うリクだからこそ、というのもあるのだろうな」
「そんなリク様が一切絶望せず、共に戦うと仰ってくれた事が、良かったんでしょう」
ソフィーとフィネさんに言われて、そういう事かと納得する。
シュットラウルさんやマルクスさんは、あくまで指揮官として上から命令する立場だ。
だからこそ、突き放すと言うわけではないけど戦えと命じなければいけない。
ベリエスさんはちょっと違うけど……俺が最前線に出る事は皆知っているわけで、そんな俺が共に戦おうと言ったから、説得力が増したってわけなのかもしれないね。
「俺一人で全てできればいいんだけど……まぁ、あまりそれも良くないみたいだからさ。それに、皆の協力あってこそだと思ってそう言ったんだ」
シュットラウルさんに、戦闘に参加しないようお願いされた時はわからなかったけど、今なら少しはわかる。
まぁ俺に戦わないで欲しいというのは、こちら側が絶対的に優勢な状態だからこそなんだろうけど。
兵士さん達に多くの犠牲が出る時とか、劣勢な状況だった言われなかったはずだ。
実際、南門付近の魔物と戦う事に対しては、特に何も言われなかったからね。
「リクさんらしいわね」
「そもそも、リクのできる事が多過ぎるんだ。全ての事を一人でできる人間なんていないし、リクがそうでないからこそ私達も協力できる」
「私は、リク様と同行してこれまでの自分とこれからの自分を見直すつもりでしたが……リク様の補佐をする事も、今後の役に立つとも思っています」
俺の呟きに、モニカさん、ソフィー、フィネさんがそれぞれ微笑んだり苦笑したりしながら、返される。
ある程度は一人でできると言っても、俺が全ての事をできるわけじゃない。
だからこそ協力し合うわけだし、俺だってそれは同じだ。
モニカさん達の気持ちが嬉しくて、意識しないうちに上がっていた口角を笑みに変えて、皆を見返した。
「……あ、そういえば」
「どうしたの、リクさん?」
少しの間、皆と雑談している中でふと思い出した。
思い出したと言うより、気付いたというか、気になったというかだけど。
「モニカさん達は、やっぱり冒険者軍として皆と一緒に戦うの?」
皆が戦いたくないとか、ヒュドラーをう組む魔物の大群を恐れて逃げる……なんて事を考えていないのは当然わかる。
けど、どうするのかって話をしていなかった――。
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