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熱が効かないヒュドラー

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 俺やロジーナを見上げて、ヒュドラーも石の矢で……と言いつつ首を傾げるエルサ。
 確かに石の矢を遠距離から放って、今の威力ならヒュドラーを離れた場所から倒す事もできるかもしれない。
 それなら、多くの人を危険にさらすのも避けられそうだ……。
 けど、ロジーナは首を振ってその可能性を否定した。

「さすがにそれはないわね。ヒュドラーの再生能力を甘く見たらいけないわ。部分的には、リクが奪取して利用し始めたワイバーンの再生能力よりも上よ」
「奪取したわけじゃないけど……まぁ、利用という言い方は悪いけど、その通りか」
 ワイバーンが何かの役に立てないか、と思って色々考えているけど利用していると言えば、間違いじゃないからね。
 それはともかく、ヒュドラーの再生能力。
 首が再生すると聞いた時から、凄まじい再生能力だと思っていたけどやっぱりそうなのか。

「そもそも、ワイバーンに再生能力を付けたのはヒュドラーの核を入手して研究していた、帝国の人間が考えた事よ。参照する元の能力から違うし、ない能力を付与したわけじゃないけど……」
「本家本元のヒュドラーだからこそ、再生能力も強いって考えておけばいいのかな?」
「まぁそんなところね。詳細は言ってもわからないでしょうけど。というより、人間どころか生き物に理解できる領域じゃないわ。作った私とかくらいね」
「神様にしかわからない理屈ってとこかぁ……」

 よくわからなかったけど、魔物を創った破壊神だからこその理論みたいなのがあるらしい。
 とにかく、ヒュドラーは再生能力が凄いと覚えておけばいいか。
 ロジーナに聞いてみると、ヒュドラーの倒し方は二つ。
 一つは個体によって数の違う、複数の首を再生される前に全て斬る、または潰す事。

 もう一つは、巨大な体内のどこかにある心臓を潰す事らしい……ただこの心臓は、個体によって場所が違うという物らしい。
 しかも重要な器官だからか、特に再生能力が強い部分で剣や槍で刺した程度ではすぐに再生されるのだとか……それどころか、人間が扱うくらいの剣や槍の大きさなら、それごと再生能力で取り込んでむしろ狙うのも危険との事だ。
 武器と一緒に、体内に取り込まれかねないし武器を失うのも危険だろうね。

「やるのなら、心臓を抉り取るなり一度で完全に潰す事だけど……ミスリルの矢が運よく心臓を貫いても、小さすぎるわ」

 ロジーナ曰く、縦横二メートルくらいの空間を一瞬で抉るくらいでないと難しいとか。
 ……石の矢、もといロジーナの呼び方を真似するならミスリルの矢が、石壁にあけた穴は十センチ程度。
 一度に複数を当てればとも思うけど、遠距離から放つ物だし細かい狙いはつけられないうえ、ヒュドラーも動いているから難しい。
 剣や槍で、そのくらいの大きさの穴を一瞬でというのも基本的に不可能だ。

「確実に倒すのなら、首を狙った方が早いわ。どれだけ疲れさせようとも心臓の再生能力は、生命にかかわる器官である以上全力だし。首だと複数に別れているのもあって、体力を削れば削る程再生能力も落ちるからね」
「成る程ね……」

 疲れる程首の再生能力が下がるのか……だったら、複数で挑む場合は特に首を狙う方が現実的か。
 疲れて動きが鈍れば、首も狙いやすくなるわけだし。

「まぁ、そんな事も関係なく全身を消滅させれば、倒せるわよ?」
「簡単そうに言うけど、さすがにそれはね……」

 そんなの、魔法しかないわけで……でもそんな魔法を使えば、周囲への影響が絶対に出てしまう。

「えぇそうね。リクが以前、ヘルサルだったかしら? あのゴブリン達に使った意味の分からない熱量の魔法でも、ヒュドラーはビクともしないだろうし」
「……え?」

 そもそもあの時は感情任せだったから、今は同じ魔法をイメージしても使えなかったりするんだけど、それはともかくだ。
 俺は周囲の味方や地形など環境への影響を考えて、使えないと思っていたんだけど……そもそもヒュドラーに効かないってどういう事?
 俺とロジーナが考えていた事が違ったとわかり、詳しく聞いてみる。
 ヒュドラーの皮膚は、熱を通さないとかどれだけの高熱を当てても一切焼ける事のない皮膚だと言われた。

 そもそもヒュドラーの棲家が、火山のマグマの奥深くなんだとか……。
 どうしてそんな場所にヒュドラーが棲めるように作ったのか、と小一時間程ロジーナを問い質したかったけど、今言っても意味のない事か。
 ヒュドラーは数が少なく、しかもそんな場所に棲んでいるんだから珍しい魔物になるのも当然だけど……溶岩石を食べるために、体内も熱には強いと。
 マグマよりも、俺が使った魔法の熱量は高いと思うけど……そんな異常な場所で平気で生きているヒュドラー相手には、ロジーナの言う通り通用するとは思えなかった――。


「リク様、王軍全て退避しております。後はリク様にお任せするとの事ですが……」
「はい、ありがとうございます。魔物も少なくなりましたし、任せて下さい」

 石の矢……ロジーナが言ったミスリルの矢が、何故か兵士さん達の間で定着し、それを運ぶのを任せて俺は石壁を通って魔物のいる方へ。
 報告に来てくれた王軍所属の兵士さんの言う通り、百メートル以上ある俺と魔物達との間に、兵士さんらしき人影は一切ない。
 魔物は今、退避する前に王軍が掘った溝を越えるのに忙しく、退避した人達を追う事もできていないし、こちらへ向かう速度も遅い。
 まぁ、数がかなり減ったからだろうけど……多かったら、溝に詰まっているうちに後ろの魔物が前の魔物を踏み越えていただろうし。

「それじゃ、やるかな……」
「リク、魔物の端には結界を張ったのだわ。くれぐれも、結界を壊したりはしないようになのだわ」
「壊れるかどうかは……ちょっと保証できないけど、当てないようには気を付けるよ」
「……重ねて幾つか結界を張っておくのだわ」

 エルサと話し、魔物達がいる方に顔を向ける。
 かなり数の減った魔物達、以前は視界の端から端までを埋め尽くすくらいだったのに、今は両端が見える程だ。
 奥行きも減っているから、数にすると半分にも満たないだろう。
 長い間、皆が頑張ってくれた成果だ。

 ともあれ、このまま魔物と戦い続けた流れでヒュドラーなどの強力な魔物を迎えるわけにもいかない。
 だから俺は、シュットラウルさんやマルクスさんに許可を取って、魔物を一掃する事にした。
 石壁を強化したり、ミスリルの矢を作ったりしていたのは、魔物の前から兵士さん達が全員退避する間の暇潰しだね。
 ……土壁から石壁への強化は、必要な事だったけど。

 溝を作って魔物の侵攻遅延をさせ、その間に兵士さん達が退避……俺に巻き込まれないようにだ。
 各地に散った兵士さん達は、今頃石壁の内側に集まっていっている頃だろう。

「リク様、魔物はおおよそ奥七十、横五十です!」

 上空から、ワイバーンに乗ったアマリーラさんが叫んで報告してくれる。
 数字は魔物がどれだけの範囲に展開しているか……地上からじゃ、全体を把握できないからね。
 七十メートルと五十メートル、大体学校の体育館より少し大きめくらいか……。
 魔物殲滅はもちろんながら、いつものように周囲へ影響を出してしまわないために、厳密とまで言わないながらも規模の確認は必要だから、ありがたい――。


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