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対魔物戦準備開始

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「はぁ……これでとりあえず、ユノが落ち着いてくれればいいけど。もうやるって決まったんだし、ここから嫌がられても困るからなぁ」
「お疲れ様、リクさん。はいどうぞ?」
「ありがとうモニカさん」

 溜め息を吐く俺に、モニカさんが料理を取り分けてくれる。
 お礼を言って受け取り、食事の開始。
 ユノに関しては、押し負けた感があったけど顔をしかめつつも、マルクスさんやマックスさんに言われて渋々ながら承諾したユノ。
 でも、庁舎を出てから弾dんと機嫌が悪くなったのは、ロジーナの事を考え始めたからだろう。

 頬を膨らませてプンプンしているユノは可愛かったけど、一度頷いたのにロジーナとは嫌だって言い出したらいけない……と思って、ご機嫌を取っていた。
 ユノが一度承諾したのを、反故にするような性格じゃないのは知っているけど、一応な。
 俺が考えた事だから、ユノに対しての申し訳なさもあるか。

「大体リクは、どうして私とはか……あいつと協力するなんて考えたの?」
「いや、それしかヒュドラーの足止めできないかなって。ユノ一人より、ロジーナも一緒にいてくれたら、確実だろう?」
「私一人で十分なの」
「でもさすがに、ユノだけで戦うのはなぁ……怪我もするだろうし」

 ユノとロジーナがヒュドラーの足止めをする話で、ユノ自身も一人で相手をするのは辛いと認めていた。
 もちろん、ユノが本来の力を使えればどうって事ないんだろうけど、今はほぼ人間だからね。
 人間の限界を越える力は使えないし、俺みたいに異常な魔力量でどうにかする事もできない。
 ヒュドラーとは対等に戦えるかどうか、くらいらしいので一人でも足止めに徹すればできなくはないけど、その際怪我をしてしまう可能性も高い。

 だったら、万全を期してロジーナが協力してくれれば、怪我をする可能性も減って足止めできる時間も増えるから……という話になった。
 庁舎を出て見るからに機嫌が悪くなるまでは、ユノ自身もヒュドラーの危険性から引き受けないという考えはなかったらしく、足止めの案自体には賛成だったみたいなんだけども。

「むぅ……でも、あいつの説得はリクがするの。私はわざわざやらないの。もし拒否したら、私一人で戦うの!」
「わかったわかった。なんとか、ロジーナがユノに協力して一緒にヒュドラーと戦うよう説得してみるよ」

 とはいえ困った。
 ユノがここまで機嫌が悪くなるとは思っていなかったからなぁ……ユノでこれなんだから、ロジーナと話した時の反応も容易に想像できる。
 そもそロジーナは、俺の事も嫌ってそうだったし。
 でも、ユノ一人で戦わせないためにも、説得は必要……考えた時は良策だと思っていたけど、前途は多難だなぁ。

 もし説得に失敗してユノが一人で戦う場合は、できるだけ怪我をしないよう何か考えておいた方がいいかもしれない、なんて考えて頭を悩ませつつ、食事を進める。
 ……せっかく宿の人達が作ってくれて、モニカさんがとりわけてくれたのに、あまり味わう余裕は俺にはなかった――。


「急げ! 砂袋を積み上げろ!」
「こっちだ! もたもたするな!」
「積み上げられた砂袋は、順次中身を出せ!」

 翌日、朝食を急いで食べて東門の外、土壁の辺りで忙しなく行き交う兵士さん達。
 訓練で背負っていた砂袋、パンパンに砂や土を詰め込んだ袋を積み上げ、積み上げられた先から土壁の内側に中身を出していく。
 要は、砂や土を土壁の後ろに運んでいる最中だね。

「……大分、魔物も減っているね。端が見えるし、魔物自体の層も薄いようだし」
「そうね。地道に耐えながら戦って、ようやくといったところよ」

 動き回っている兵士さん……冒険者さんも時折混じって、砂袋を運んでいるそれらの向こう側。
 土壁よりもさらに東に群がっている魔物達。
 今は多くの兵士さん達がこちらで作業しているため、本来は別方向から魔物掃討に当たる予定だった、王軍の皆さんが押しとどめている。

 昨夜のうちに、街の補助を担当していた王軍の兵士さん達は、東門に集結していたみたいだ。
 北と南に別れて布陣していた王軍は、今こちらに合流するため移動中だね。
 その押しとどめている王軍の人達は、魔物も倒しているけど、できる限り消耗を押さえてこちらに向かわせない役割だ。
 今の段階で、戦力を減らすわけにはいかないから。

「で、リクはどうしてここにいるのよ?」

 遠目に王軍と魔物がぶつかっている様子を眺め、モニカさんと話している俺にジト目を向けるロジーナ。
 そんなに邪険にしないでもと思う。
 ただ俺にジト目を向けながらも、離れた場所で口を尖らせて不貞腐れているユノの方も、気にしている様子だ。
 あっちも、こちらをチラチラ見ているし……お互いに、絶対目を合わせようとしないけど。

「どうしてって……なんとなく、ロジーナだったらわかっていると思うけど」
「はぁ……やっぱりね。あいつら、私の目的を利用してあの計画を実行したのね」

 俺の言葉に深いため息を吐くロジーナ。
 混乱を防ぐため、ヒュドラーや強力な魔物が迫っている事はまだ、一部の人にしか報されていないんだけどロジーナなら知っている気がした。
 案の定、何かを納得した様子のロジーナ……あいつらってなんだろう?

「ロジーナの目的と、そのあいつらっていうのは?」
「私があいつらって言ったのは……はぁ。ここで隠しても仕方ないわね。街を魔物で囲んだのと同じ、帝国の馬鹿な人間達よ」

 溜め息交じりに答えるロジーナ。
 やっぱり、ここまで手の込んだ事をして魔物を利用するなんて、帝国しか考えられなかったけど、そうなんだ。

「やっぱり帝国なんだね。それで、ロジーナの目的ってのは? あと帝国の計画も、教えて欲しいな」

 あいつらに関しては教えてくれたけど、目的に関してはスルーされていたから、改めて聞く。
 もしかしたら、以前感じた隠し事に関する事かもしれない。

「……ここまで来たら、これも隠しても無駄かしらね。リクも知っているでしょ? 私はただただ破壊を望む者。人間がどうこうとは関係なく、ただ破壊するよう仕向けて絶望を叩き込む。それだけよ。……帝国の計画は、わかっていると思うけど侵略。そのために魔物を使って街を破壊し、殺戮して混乱をってとこね」

 まぁ、破壊神だしなぁ……隔離されていた時に話した事と、大差ない答えと言えばそうか。
 帝国の計画っているのも、想定していたものに近い。
 要はアテトリア王国の要衝を襲って国力を削ぐとともに、混乱させて、そのうちに帝国が攻め込もうって算段なんだろう。
 これまで、俺が関わって色々と阻止してきた事でもある。

「でも、今回はこれまでと違って本気のようね。ここからじゃ姿は見えないけど、ヒュドラーまで復元して投入するとは……」
「わかるの?」

 忌々しそうに、土壁の向こうにいる魔物を……いやさらにその向こうに目を向けるロジーナ。
 探知魔法とか探るような何かを使っているわけでもないのに、ヒュドラーが近付いているのがわかるんだろうか?
 俺の知らない力でも使っているとかかな――。


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