1,224 / 1,897
新たな候補者
しおりを挟む「私、ワイバーンに嫌われてるの」
「ワイバーンに?」
「ユノが乗ろうとしたら、怯え始めてな……」
俺の疑問に端的に答えたユノに、別の疑問が沸いて首を傾げる。
そんな俺に、肩車をしているマックスさんが代わりに教えてくれた。
なんでも、ユノが近付くとリネルトさんが乗っていたワイバーンが怯えて、飛ぼうとしなくなったらしい。
だったら走ってここに……と考えたんだけど、色々あってマックスさんが肩車をして、ここまで走って来てくれたとか。
……ユノ、普段一緒にエルサに乗って空を飛んだりしているのに、ワイバーンに乗れなかったからって拗ねるなよと思ったり思わなかったり。
ちなみに後で聞いたんだけど、ユノから破壊神とは逆の性質……つまり創造神の気配とか匂いとか、なんかそんな感じのものを感じて、ワイバーンは怯えたんだとか。
魔物を作ったのが破壊神なら、逆の性質を持つ創造神のユノには懐かないって事か……難儀な。
「モニカ達は、後からここに来るはずだ。リネルト殿が東門に来た時ユノはいたんだが、モニカ達は魔物の掃討に参加しに行った後でな。伝令だけ向かわせている」
「そうですか、ありがとうございます。でも、モニカさん達を呼んだ理由が……」
なくなっちゃったんだよね。
魔法鎧を身に付けてヒュドラーの足止めをお願いしようとしていたから、リネルトさんに呼んでもらうよう頼んでいたんだけど。
サイズの問題で不可能だと判明し、今他の候補を考えている……といった事を、今の状況とこれからの方策を含めてマックスさんとユノに話した。
とりあえずユノとロジーナに一体請け負ってもらう事も話したけど、ユノは顔をしかめて嫌そうにしていた。
というか、ユノはいつまで肩車されているんだろう……気に入ったんだろうけど、ユノに話し掛ける時見上げるから首が痛くなりそうだ。
おもあれユノとロジーナの協力に関しては、また後で話し合うとして、今は魔法鎧を使う人に関してだ。
「ふむ……実力者で男。それなりに大柄なのが条件なんだな?」
「そうです。体型はともかく、ヒュドラーを相手にできるかどうかという部分が問題で……」
魔法鎧を着たうえで、ベリエスさん達が評価したキマイラなどのAランクの魔物と渡り合える実力を示せる人が必要なんだ。
多分、冒険者のランクで言うとBランク相当だと思う。
「……それなら、心当たりがあるぞ」
「え、本当ですかマックスさん?」
「マックス、私の事か?」
「いえ……侯爵様ではありませんが……」
少し考えて、候補に思い当たったらしいマックスさん。
俺だけでなく、他の人達も皆驚いている。
ただ、シュットラウルさんだけはまだ諦めずに、自身をアピールしているけど。
これにはマックスさんも苦笑して否定……場を和ませる冗談だと思うけど、そろそろ真面目にしてください、シュットラウルさん。
「俺と……それから、元ギルドマスター。あと、そこのヤンが適任だろう」
「マックスさんが……?」
「私ですか?」
「ヘルサルの元ギルドマスターか……実力的には確かにな」
自分を示すマックスさんと、続いて出る人物に俺だけでなく、ヤンさんやベリエスさんも反応する。
確かに、マックスさんは元Bランク冒険者だし、本当に現役を引退していると言えるのか怪しいくらいだ。
元ギルドマスターも、本人の実力を直接見た事はないけど、活躍を聞く限りではマックスさんと同等……かな?
ヤンさんに関しては、こちらも同じくマックスさんと同じ元Bランク冒険者で、現役でも通じるのは何度か見ている。
「……侯爵様より大柄ですが、大きい分にはまだなんとかなります。私が身に付けた時も、余裕がありましたから。大小に余裕を持たせる作りではありました」
「だが、それでもかなり窮屈だとは思うが……」
マックスさんを見て、大隊長さんとシュットラウルさんの反応。
少々どころか、シュットラウルさんと比べたら結構違うんだけど……それくらいなら、窮屈というだけで済むくらいなんだろうか?
俺が身に付けたわけじゃないから、どれくらいの余裕があるのかわからないけど。
「侯爵様、筋肉は全てを解決します。ですので、なんとでもなりますよ」
「いや、さすがにその理論は……」
ユノを肩車したまま、マックスさんが袖を捲って右の二の腕を出し、謎の筋肉アピール。
窮屈だって言っているのに、そこからどうして筋肉理論になるのか……これが脳筋ってやつのなのかな?
さすがに、これは受け答えになっていないんじゃないかな? と思ってシュットラウルさんの方を見てみると……。
「成る程! 私はまだまだ未熟だったな! 筋肉であれば、ヒュドラーなにするものぞ!」
「その通りです、侯爵様。もしかの魔法鎧……でしたか? 以前侯爵様が身に付けていた鎧が合わなくとも、筋肉があればなんとでもなります」
「うむうむ!」
「えぇぇぇぇぇ……」
何故か天啓を得たかのように、激しく反応するシュットラウルさん。
マックスさんも調子に乗ったのか、謎の筋肉アピールは続く。
俺の口から、この状況に対する戸惑いを示す声なのか溜め息なのか、よくわからない音が漏れたのは、仕方ない事だと思う。
他の人達も、大体同じ反応をしていたし……一部、大隊長さんの部下が反応していたりしたけど。
しばらく、俺を含めた皆が呆気にとられるくらい、マックスさんとシュットラウルさんによる筋肉談義が続き、さすがに……と思っていたんだけど。
エルサの「筋肉なんて暑苦しいだけなのだわ。とっとと話を進めないと、自慢の筋肉ごと踏み潰すのだわ?」という言葉により、ようやく落ち着いてくれた。
助かったけど、エルサ起きていたのか……。
飛び道具に魔力を纏わせる話の後は、また寝ているのかと思っていたけど。
ちなみに、筋肉談義をしている間に大隊長さんの指示で、魔法鎧のサイズ確認などをするため数人が退室していたりする。
あと、退室する人たちを見送っていた俺に大隊長さんがコッソリ、以前からシュットラウルさんは筋肉に傾倒するようなそぶりがあった事を教えてくれた。
ヴェンツェルさんもそうだけど、なんで一部の血気盛んなオジサン達は、筋肉に憧れてしまうんだろう? 衰えないようにするくらいでいい気がするのに。
俺も、年を取ったらそうなるのかな? いや、そうならないように気を付けなくては。
「……んんっ! 気を取り直してだ。マックス殿、ヒュドラーの足止めに関してだが……頼んでも良いのか? そなたは盾を持ち、最兵士を指揮して前線で持ち堪えてもらった。協力はありがたいが、これ以上正規の兵士ではないそなたに頼るのも申し訳ない。アテトリア王国の民ではあるが、今は冒険者でもないのだからな」
咳払いをして、筋肉に対して暑くなり過ぎた自分を誤魔化したつもりのシュットラウルさんが、マックスさんに改めて問いかける。
マックスさんはこれまでも、今も協力してくれているからね。
兵士でも冒険者でもないから、これ以上重要な役割を押し付ける事になるのは気が引けるんだろう。
元冒険者という事もあってか、国の施政者側の人が強制する事もできないってのもあるか――。
0
お気に入りに追加
2,142
あなたにおすすめの小説
魔法使いじゃなくて魔弓使いです
カタナヅキ
ファンタジー
※派手な攻撃魔法で敵を倒すより、矢に魔力を付与して戦う方が燃費が良いです
魔物に両親を殺された少年は森に暮らすエルフに拾われ、彼女に弟子入りして弓の技術を教わった。それから時が経過して少年は付与魔法と呼ばれる古代魔術を覚えると、弓の技術と組み合わせて「魔弓術」という戦術を編み出す。それを知ったエルフは少年に出て行くように伝える。
「お前はもう一人で生きていける。森から出て旅に出ろ」
「ええっ!?」
いきなり森から追い出された少年は当てもない旅に出ることになり、彼は師から教わった弓の技術と自分で覚えた魔法の力を頼りに生きていく。そして彼は外の世界に出て普通の人間の魔法使いの殆どは攻撃魔法で敵を殲滅するのが主流だと知る。
「攻撃魔法は派手で格好いいとは思うけど……無駄に魔力を使いすぎてる気がするな」
攻撃魔法は凄まじい威力を誇る反面に術者に大きな負担を与えるため、それを知ったレノは攻撃魔法よりも矢に魔力を付与して攻撃を行う方が燃費も良くて効率的に倒せる気がした――
異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました
ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。
会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。
タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。
異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ
トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!?
自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。
果たして雅は独りで生きていけるのか!?
実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています
【完結】「『王太子を呼べ!』と国王陛下が言っています。国王陛下は激オコです」
まほりろ
恋愛
王命で決められた公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢との婚約を発表した王太子に、国王陛下が激オコです。
※他サイトにも投稿しています。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
小説家になろうで日間総合ランキング3位まで上がった作品です。
7年ぶりに私を嫌う婚約者と目が合ったら自分好みで驚いた
小本手だるふ
恋愛
真実の愛に気づいたと、7年間目も合わせない婚約者の国の第二王子ライトに言われた公爵令嬢アリシア。
7年ぶりに目を合わせたライトはアリシアのどストライクなイケメンだったが、真実の愛に憧れを抱くアリシアはライトのためにと自ら婚約解消を提案するがのだが・・・・・・。
ライトとアリシアとその友人たちのほのぼの恋愛話。
※よくある話で設定はゆるいです。
誤字脱字色々突っ込みどころがあるかもしれませんが温かい目でご覧ください。
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。
ダラダラ異世界学校に行く
ゆぃ♫
ファンタジー
「ダラダラ異世界転生」を前編とした
平和な主婦が異世界生活から学校に行き始める中編です。
ダラダラ楽しく生活をする話です。
続きものですが、途中からでも大丈夫です。
「学校へ行く」完結まで書いてますので誤字脱字修正しながら週1投稿予定です。
拙い文章ですが前編から読んでいただけると嬉しいです。エールもあると嬉しいですよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる