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Sランク魔物の脅威

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 シュットラウルさんが、この場にいるヤンさんとベリエスさんに、冒険者ギルドに属する側としての意見を求める。
 ヤンさんとベリエスさんが顔を見合わせ、小さく頷いた後ヒュドラーに関して話し始めた。

「はい、近年でヒュドラーと戦ったという冒険者は、現在アテトリア王国内にいません。遠く離れた他国の地で、国と冒険者ギルドが協力し、多大な犠牲を払って一体の討伐に成功した。という報告がギルド内で共有されているくらいです」
「私やヤンもそうですが、実際に見た事はありません。ただ、伝え聞く話によるとSランクの魔物というのは、Aランクまでの魔物とは強さの格が違うのだと言われております。我々の想定では、数百人で囲んでゆっくり対処するとしていますが……実際に戦った者からの伝聞えは、対処法を間違えると数百どころか数千、場合によっては数万の戦力が壊滅してもおかしくない程だと……」
「それほどまでに凄まじいのか……」

 想像していたよりも、かなり強力な魔物のようだ。
 体の大きさだけでなく、複数ある首や魔法、そして再生能力が問題なのだろうか?

「ヒュドラーは、複数ある首を全て斬り取る事で討伐できるのですが……一つでも首を残した状態にしていると、他の首も再生するそうです。実際に見た事はないので、本当にそうなのかやどれくらいで再生するのかはわかりかねますが」
「全てを一度に……もしくは再生される前に、斬り落とさねばならないのか。それは確かに簡単にはいかぬな」
「しかも周囲の魔力、我々が自然の魔力と呼んでいる魔力を吸収するのです。その魔力を活力に、昼夜問わず活動し再生する。さらには魔法をまき散らして多大な被害をもたらす……と」
「自然の魔力を吸収……ですか」

 つまり、ゆっくり時間をかけて疲れさせる、と言われていた討伐方法が実際は有効じゃない?
 いや、吸収される速度よりも攻撃を加えて疲れさせるようにすれば、ヒュドラー側がジリ貧になってくれるのか。
 ただし、そのためには多くの犠牲と長時間戦い続ける戦力が必要になるんだろうけど。

「ふむ……聞けば聞く程、三体もいる事がバカバカしく思えて笑えてしまうな……他の魔物だけでも脅威なんて言葉では済まされない状況なのに、そんな魔物がそれも三体もいるとはな」
「シュットラウルさん?」

 そう言って、口角を上げて笑みを浮かべるシュットラウルさん。
 諦め、苦笑……絶望? いや違う。
 ニヤリと不敵な笑みという程面白そうではないけど、決して諦めたりしているような笑みではなかった。

「リク殿、一人で一体……可能か?」
「……戦った事がないので、断言はできませんが……大丈夫だと思います」

 笑みを浮かべたまま、俺を窺うシュットラウルさんに頷く。
 まき散らされる魔法は結界でなんとかなる……まさか破壊神、もといロジーナのように結界を易々と壊せる威力はないだろう。
 そうであれば、対処を間違えなくても数万の犠牲で済むような相手じゃないはずだ。
 自然の魔力を吸収しての、活力回復は……それを上回る攻撃をしたらいいだけ。

 幸いにも、俺は力任せに攻撃するだけで尋常じゃない威力を発揮できるから、問題ない。
 後は再生能力で……まぁ、首を斬り落としてから再生までの時間が気になるところだけど、魔法を使えばなんとかなると思う。
 アルネやフィリーナが使うような、ウィンドカッターだっけ? あれに近い斬り裂く魔法をヒュドラー相手にばら撒けばいいから、これも問題ないはず……やり過ぎに注意しないと、またエルサやマリーさんんに怒られそうだけど。
 それにだ、魔力の事はあまり気にしなくていい状況でもあるわけで、ちょうどいいから流れて来る感情事ヒュドラーにぶつければいいだけの事。

「……少し考えましたが、やっぱり大丈夫そうです」
「ヒュドラーの凄まじさを聞いても、頷けるのはリク殿しかいないだろうな」

 まぁ、ヒュドラーどころかそれより恐ろしいはずの破壊神とも、戦ったからね。
 ロジーナはあの時本気じゃなかったとしても、破壊神としての干渉力を大きく使う程の力の片鱗より、ヒュドラーの方が強力なんて事はないだろう。
 魔力弾以外、結界も魔法も剣も通じないなんて絶望より、全然マシだ。

「我らが英雄がこうして諦めていない。そして、倒せると言っている。絶望して諦める段階ではないな。いや、むしろ私には希望が見える程だ」

 ヒュドラーの話をヤンさん達からされた時、この部屋にいる俺とシュットラウルさん、マルクスさんとリネルトさん以外の全ての人が、絶望的な表情になっていた。
 いや、エルサはまた俺の頭にくっ付いて、暢気に寝ているけどそれはともかくとして。
 シュットラウルさんはそれを見て、雰囲気を変えようと考えたんだろう……ちょっと大仰な仕草で、俺を示している事からも、間違いないと思われる。
 絶望的な雰囲気にのまれていたままじゃ、作戦は決まっても士気は上がらないし、魔物に押されてお終いなんて事になりかねないから、かもしれないね。

「しかしシュットラウル様、実際にヒュドラーが三体。一体はリク様がなんとかするとしても……他の二体はどうなされるおつもりで?」
「まぁ、手っ取り早く一体を倒せたら、残りの二体もどうにかできるかもしれませんが……」

 マルクスさんはシュットラウルさんと同じく、絶望していなかった人なので反論するわけではないだろうけど、実際問題残ったヒュドラーをどうするのかは問題で、そこを忘れてはいけない。
 戦った事がないので、一体を倒すのにどれだけ時間がかかるかわからないし……最終的には俺が三体全部倒す事になるにしてだ。
 一体を相手にしている間、残りの二体に自由に暴れさせているわけにもいかない。

「先程リク様やエルサ様の提案にあった、飛び道具をヒュドラーに向けるのはどうだ? キマイラすら貫いて倒せる威力ならば、倒せはしないまでも足止めはできるはずだ」
「足止めはできるでしょう。正攻法であるヒュドラーの疲れを待つ、という対処法にも繋がります。ですが、その間他の魔物達への攻撃の手が緩む事になりますので……」
「それはそれで、ヒュドラー以外の魔物が迫って来られれば、危険なのはこちらか……」

 シュットラウルさんの案に、マルクスさんが反論する。
 確かにヒュドラーだけなら足止めとして有効だと思うけど、他にも大量に魔物がいるからなぁ。
 そちらの事も並行して考えると、足止めをするだけよりも難易度が高い……というか高すぎる。
 キマイラなどの対強力な魔物相手として、魔法鎧を身に付けた誰かをと考えていたけど、それをヒュドラーの足止めに使うようにする?

 ……いや、それだとほぼ単独でヒュドラーの相手をしなきゃいけなくなるから、いくら魔法鎧が頑丈だとしても危険が大きすぎるか。
 三つあるから、一体はそれでとも考えられるけど……結局残りの一体をどうするのかが問題になる。
 兵士さんと冒険者さん達は、遠距離版次善の一手みたいな攻撃法で戦って、被害を減らす方がいいだろう。
 焦ると先に力尽きてしまうのは全体の戦力が劣るうえに、これまでの戦いで消耗しているこちら側だ――。


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