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外とは違って平穏な食卓
しおりを挟むカイツさんやフィリーナと宿へと戻る前、ワイバーン達の様子をチラッと見てみると。
ワイバーンとボスワイバーンは、穴を掘ってその中に入り、丸まって寝始めていたから大丈夫だろう。
よく穴を掘ってその中に体を収める姿を見かけるけど、そちらの方が落ち着くのかもしれない。
……巣穴みたいなものかな?
宿に戻った後は、座っているだけで舟を漕ぎ始めそうなフィリーナをモニカさんに任せ、俺はカイツさんをお風呂に強制連行。
皮を剥ぐ際、当然ながらワイバーンの血が出るわけで……昨日からの研究というか実験であちこちが汚れていたりもしたからね。
食事前に、綺麗にしてさっぱりさせた方が良さそうだった。
「それにしても、不思議な感じね」
「どうしたの、モニカさん?」
食堂に集合して、夕食を食べ始めて少しした頃、ふとモニカさんが呟いた。
「いえ、まだ完全に魔物がいなくなったわけじゃないし、戦っている人もいるのに……こうして落ち着いて食事ができている事がね。まぁ、料理はやっぱり簡素な物ではあるけど」
「確かにね……」
非常事態なのは相変わらずで、料理も手の込んだ物ではないんだけど、それでも食堂内は街の外で今も戦闘が行われているような雰囲気を感じさせず、穏やかだ。
料理以外にも、控えてくれている使用人さん達の数も少なかったりするんだけど。
庁舎に留まっているシュットラウルさんを始めとして、ソフィーやフィネさん、ユノも南の片付けからまだ戻ってきていないのに、いいのかな? という気持ちも確かにある。
まぁ、あちらは倒した魔物……特にオークを使って、ちょっとした打ち上げみたいなものが行われているらしく、非常時のためお酒は出ないくとも、それなりに騒がしく楽しくやっている……と、お風呂に入っている間に連絡があったらしいけども。
まだ全部終わってないのにと思ったけど、一応南側の魔物がいなくなったからっていうのと、残りの魔物討伐前に、士気向上のために必要だとかなんとか……。
冒険者さんがほとんどだったから、ある程度自由なんだろうと思う事にした。
「腹が減っては戦はできぬなのだわー。食べられる時に食べるのだわー」
「エルサの言う通りなんだけど……」
言っている事は間違っていないけど、基本的に三食とおやつをしっかり食べているエルサからは、あまり説得力は感じられない。
でも、モニカさんの気持ちを晴らすまではいかなくとも、気を楽にする事はできたようだ。
「ふふ、そうね。今は食べられる余裕がある事に感謝しておきましょう」
もりもりとキューや料理を食べるエルサを見て、朗らかに笑いつつ、食事を進めるモニカさん。
時折、寝かけて額をテーブルに打ちそうになるフィリーナを支えながらで、ちょっと大変そうだったけど。
ちなみに俺は、カイツさんを支えるので忙しかったりもした……。
カイツさん、お風呂に入ったからかそれとも研究対象のワイバーンと離れたからか、疲れのせいもあって歩くのすら億劫な様子だったから。
放っておくとそこらの床に転がって寝ようとするし……ちゃんと自分で食べようとする意志を見せる、フィリーナを支える方が楽そうだ。
って、カイツさん! それ俺の手だから! 料理じゃないから!
なんて、フォークで差し出した料理を掠めて、俺の手を齧ろうとするのを避けないといけない一幕もあったり。
……食事が終わったら、部屋に投げ込んでさっさと寝させよう、うん――。
「あぁ……また変な夢を見たような気がする……。いや、本当にあれは夢だったんだろうか?」
翌日、ユノのボディプレスを受ける事なく、目が覚めた朝。
むくりと体を起こした俺の隣で、前足を使って顔を擦っているエルサを見て目を細めつつ、起きる直前まで見ていた夢の内容に溜め息を吐く。
なんとなく、夢じゃないようなそんな感じもある……でも内容は前の時と同じだった。
はっきりとは覚えていないけど、動けない俺の前に黒い何かが現れては消えていくだけ……一体あれはなんなのだろうか?
俺自身に、あんな夢を見るような覚えはない。
よくわからない気持ち悪さを抱えながら、朝の支度をしつつ自分の魔力確認。
昨日はほとんど魔法を使わなったおかげもあって、魔力がほぼ満タン。
センテに戻って来て、魔力量が増えたと感じた時よりもさらに増大している気がするけど……自分でも異常だと思える魔力量になってしまっているので、もう気にしない。
「……やっぱり、魔力の回復が早い気がするのだわ」
なんて呟いて、首を傾げているエルサを連れて、モニカさんと朝食。
フィリーナとカイツさんはまだ起きていない……よっぽど、疲れがたまっていたんだろう。
使用人さんに、自然に起きるまではそのまま寝かせておく事や、ちゃんと食事もするようにお願いし老いた。
フィリーナは注意しなくていいだろうけど、カイツさんは起きたらすぐワイバーンの所に行きそうだからね。
「うん、元気そうだね」
「ガァゥ」
朝食後は、ボスワイバーンともう一体のワイバーンの様子見。
俺が来た時にはもう起きていたけど、日向ぼっこをするようにのんびりしていた。
その後は、ワイバーン達にはこのままのんびりしておくよう伝えて、シュットラウルさんのいる庁舎へ。
朝食を食べている時、王都からの援軍から先行して到着した人がいると連絡が入ったからだ。
どういう人が来たのかはしらないけど、一応挨拶くらいはしておかないとね。
モニカさんは、ソフィー達の手伝いと様子を見に今日は別行動だ。
「失礼します……」
ノックをし、入る許可を得てから扉を開けて部屋の中に入る。
奥に座っているシュットラウルさん、それに向かうように立っているのは青い鎧に身を包んだ男性……あれ? あの人って。
「リク殿、来てくれたか」
「お久しぶりです、リク様」
「マルクスさん?」
青い鎧……おそらくワイバーンの素材が使われている鎧を身に着けた男性が、振り向く。
兜は被っていないのでよく顔は見えたけど、その人は俺もお世話になって見慣れた人だった。
「はい。センテ、並びにヘルサルの要請によりはせ参じました」
俺が名前を呼ぶのに頷き、深々と頭を下げるマルクスさん。
王城ではちょくちょく顔を合わせていたけど、確かに結構久しぶりだなぁ。
そういえば、ツヴァイのいた地下研究施設の事を任せていたっけ。
「マルクス大隊長は、リク殿も知っているのだったな」
「はい。色々お世話に……大隊長?」
あれ、マルクスさんって中隊長じゃなかったっけ?
俺の勘違いかな。
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「そうだったんですか、おめでとうございます!」
「ありがとうございます。過分な役職だとは思いますが、陛下やヴェンツェル様、リク様のご期待に沿えるよう微力を尽くす所存です」
「ははは……マルクスさんならきっと大丈夫ですよ」
そうかぁ、昇進かぁ……これはおめでたいね。
特に見知っている人が昇進したとなると、嬉しいな――。
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