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気持ちの悪い気配

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「まぁいいか。うーん、魔力の残量は……残り二割もないくらいかな? ん? ワイバーン達と戦った時より、少し多いような……?」

 今日目が覚めた時くらいからだろうか、少し集中すると自分の魔力量がなんとなくだけどわかるようになっていた。
 それは、何度目かの魔力減少で、さらに途切れそうになる意識を繋ぎとめようと必死だったからか、はたまた単純に魔力量が増えたからか……。
 理由はわからないけど、今までよりも自分の魔力がより自分の物であると自覚できている感じだ。
 これで、魔法の威力調整とかがうまく行くようになっていたら良かったんだけど……そんなに甘くはないみたいだね。

 それはともかく、ワイバーンと戦っている時、そろそろ魔力が少ないと感じていたのより、少し回復している気がする。
 あの時は確か……一割になりそうなくらいだったはず。
 それでも、破壊神と戦う前よりは多いから、意識消失にまでは至らないんだけど。

「ワイバーンと戦った後は……シュットラウルさんを連れ戻す時に、結界を使ったくらいだからかな? あまり魔力を使わないから、回復したとか?」

 魔力は基本自然回復のみ。
 意識を失う事からも、大体寝ている時が一番回復するんだけど……起きている時に自覚できる程、はっきり回復する事もあるのか。
 それだけ、量が多くなった影響で回復量も上がっているのかも?

「リクの回復量は異常なのだわ……もきゅもきゅ。でも、私も多少回復しているのだわもきゅ。今までこんな事はなかったのだわ……もっきゅもきゅ」
「食べるか喋るか……いや、なんでもない。けど、エルサが今までなかった事って……どうしてそんな事に?」

 エルサは長生きだ。
 それこそ四桁の年数を生きているくらいらしい……そんな長生きのエルサが経験した事がないなんて、珍しいを通り越して異常とも言える。
 まぁ、俺と会った時に初めてキューを食べたとか、長生きしていても意外と経験していない事は多いのかもしれないけど。

「わからないのだわ。けど、もきゅもきゅ……この街を取り巻く何かに、影響されているようなのだわもっきゅ」
「この街、センテに? そういえば、破壊神と会う前に気持ち悪い気配のようなものを感じるって、言っていたね……」

 センテの周辺での調査をしている時、エルサはそんな事を言っていた。
 それは、魔物を使った思惑だったり、魔力溜まりを発生させるための魔力を気持ち悪い気配と言っていた、と思っていたんだけど。

「もきゅもきゅ……あの気配は、まだなくなっていないのだわ。それどころか、強くなっている気がするのだわもっきゅ」
「強くなっている……?」

 相変わらずキューを食べながら話すエルサ……口の端から、ポロポロと落としたりよだれが垂れているから、ベッドから立ち上がってテーブルに向かい、片付ける。
 注意したいけど、今は話している事の方が重要だ。
 魔力溜まりの発生には対処しているから、多分大丈夫だし……魔物は王都からの援軍の到着を待って、掃討するのを待つばかり。
 俺が原因だと思っていた事は、解決へと向かっているのに、気持ちの悪い気配が強まっている?

 ……待てよ? 俺がそう思っていただけで、その気配というのはまったくの別物だったって事か?
 だとしたら、一体何が原因で……破壊神? いや、破壊神は俺と戦って干渉力の多くを消費したはずだから、しばらくはおとなしくしている……と思う。
 それじゃ、一体何が?

「……つぅ!」
「もきゅ? リク、だわ?」
「いや、なんでもないよ」

 考えている途中、急な頭痛で思考が止まった。
 魔力が少なく、これまでになかったくらいの疲労も感じているからかもしれない。
 キューを両手に持ったエルサが、首を傾げて俺を見上げているけど、首を振って誤魔化しておいた。
 鋭い痛みが走ったくらいですぐに収まったし、あまり心配をかける事じゃないからな。

「はぁ……あんまり無理はしない方がいいか。とりあえず、その気持ち悪い気配と、魔力の回復が早い事と、何か関係があるかもって事なのか?」
「それはわからないのだわ。でも、他と違う状況で、思い当たる理由がそれしかなかったのだわ」

 魔物に囲まれていたり、十分違う状況だけど……魔力に影響するわけないか
 他とは違う状況というなら、現在のセンテの状況がそれにあたるけど、だからといって魔力に何かしらの影響を与えるような事とは思えない。
 もしかしたら遠因になっている可能性はあるとしても、直接の原因になってはいないはず。

「まぁ、エルサが気持ち悪いくらいで、魔力の回復が早いなら特に大きな問題じゃないか。なんか、ちょっと頭が重いから、さっさと休もう」
「私の気分が悪いから大問題だわもっきゅ。けど、休むならさっさと休んで、私に多くの魔力供給ができるようにするのだわーもっきゅもきゅ」
「俺はエルサの魔力タンクじゃないっての」

 考えてもわからないし、頭痛の前後で頭が重く感じて思考がまとまらないのもある。
 どうせ考えるなら、魔物と戦うのは任せてもいいみたいだし、休んだ後でも十分時間があるだろう。
 キューを食べ続けるエルサに苦笑しながら、テーブルから離れてベッドに転がった。

 エルサが食い散らかしているのは、後で片付けよう……。
 そう思って、目を閉じようとした瞬間……部屋の外、正確には建物の外から、ドーンッ!! という大きな音と建物そのものが揺れた。
 何かが炸裂したような、爆発の魔法を使ったような衝撃だ。

「な、なんだ!?」
「だわ? もっきゅもっきゅ」

 驚いてバッ! と顔を上げて開かれている木窓の方を見る。
 エルサは、首を傾げていたけどすぐに気にしなくなって、キューを食べ続けていた。
 相変わらず暢気だ……。

「こらー! カイツ! こんなところでそんな……!」
「だが無事だ! さすがワイバーン……! 耐えて……!」
「ガァゥ!」
「……あ、うん。成る程」

 木窓の向こう側から聞こえる、フィリーナとカイツさん、それとボスワイバーンの声。
 魔物が何かしたのか、と一瞬考えたけど……カイツさんの研究というか、実験か何かなんだろう。
 いや、ボスワイバーンも魔物には違いないけど。
 部屋から何をしているのかは見えないけど、なんとなく状況を察して納得し、再び枕に頭を沈めた……あぁ、柔らかく体と頭を受け止めてくれるベッドが気持ちいい。

「まぁ……多分大丈夫そうだし、気にしないでおこう……うん。休んだ方が良さそうだ」
「うるさいもっきゅもきゅ、なのだわー……もきゅもっきゅ」

 外から宿の使用人さんのものだろう、フィリーナ……じゃない、主にカイツさんを叱る声が聞こえて、そのを子守歌代わりに眠りに就く事にした。
 ボスワイバーンが無事ならいいんだけど、宿の庭が穴だらけにならないように、頑張って使用人さん! なんて無責任なエールを心の中で送りながら……。
 あとエルサ、キューに夢中なのはいいけど「だわ」以外の新しい語尾みたいになっているから、癖にならないようになー、というどうでもいい事を考えて、意識を手放した――。

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