1,159 / 1,903
リクに頼りきりにならない意識
しおりを挟む「うむ。リク殿一人に頼り切ってしまう考えは、必ず心の隙を生む。帝国との戦争に限った話ではないが、国と国との争いで隙を見せるのはそのまま弱点となり得る。今回、しばらくリク殿が行方不明になった事で、私も実感したよ……」
「シュットラウルさんもですか?」
俺がいない間に、シュットラウルさんが何を実感したんだろうか?
戦争で、相手に隙を見せるのが危険というのはわかる。
向こうだって、遊びで仕掛けてきているわけじゃない……その隙は、必ず大きな被害を被る事に繋がってしまう可能性が高いからね。
心の緩みというか、想像だけでも過酷な戦争に対して、いい考えとは言えない。
「知らず知らずのうちに、私もリク殿がいればどんな事も対処できる……と考えてしまっていたのだ。農場のハウス化、兵士達との訓練や演習。魔物の討伐などでな。しかしどうだ? リク殿はセンテが魔物によって封鎖された際に行方不明になっていた。それぞれの頑張りなどによって、なんとか危機は脱して長く耐えられはしたが……」
「……」
シュットラウルさんの話を黙って聞く。
俺がセンテに戻れなかったのは、破壊神のせいだ。
多少なりとも、早く戻って来る事はできたにしても、これから先も同じようになんらかの形で妨害しようとして来るかはわからない。
かなり干渉力使っていたから、すぐにまた来るわけじゃないと思うけど……。
「喪失感……とは少し違うのだがな。リク殿がいない、ただそれだけで途方に暮れかけていたのだよ。そうして気付いた、リク殿一人に頼りきりになる事の危うさをな。リク殿も人間だ、とてつもない力を持っていたとしても、できる事には限りがある。そもそも、戦争ともなれば単一の場所だけで武力衝突が起きるわけではない。その時、リク殿がいない場所ではどうなるか……全ての兵士を守る事はできない」
「それは、確かに」
俺だってなんでもできる存在というわけではないしから、俺がいない所の戦況がどうなるかというのはわからない。
心の隙などに付け込まれれば、被害は甚大になってしまう可能性はある。
一つの場所のみで戦争が進行すればいいけど、そんな事はあり得ないからな……特に、帝国から見れば。
そもそも、俺がいるから被害がないというわけではないし、必ず帝国に勝てるというわけでもない。
「センテが戦火に巻き込まれる見込みは薄いが、戦争状態になった時に影響は必ずある。国と国の戦争だ、我らが望んだ事ではないが……アテトリア王国全体に影響は及ぶだろう。国民全体の意識と言えば壮大だが、この街からでも多少の意識を変える必要はあると思うのだ」
「そう、ですね……」
「リク殿に全てを任せ、自分達は何もしない考えに至る程までになるとは思わないが、自分達もやれるべき事をやるように考えて欲しいとな」
「まぁ、俺に全部任されても困るだけですからね……」
できる事に限りがある以上、全てを任されてもね。
多分シュットラウルさんの考えは、英雄と大袈裟に呼ばれる俺に頼る人達の考えを変え、もし俺がいない場合でも奮起できる考えを浸透させたいという事なんだろうと思う。
俺がいなきゃ何もできない人達、国民というのはさすがにどうかと思うし、俺も困るばかりだ。
「かく言う私も、こうした考えに気付けたのはモニカ殿達のおかげなのだがな」
「モニカさんの?」
真剣な話だけど、ちょっと深刻になり過ぎたからか、肩を竦ませて空気を和らげるように言うシュットラウルさん。
「私もそうだが、リク殿がいないと知って手立てが全く思いつかなかった私達にこう言ったのだ『リクさん一人を頼りにするのではなく、自分達でできる事をして、リクさんの戻って来る場所を守らなければ』とな。まぁ多少私の印象が入っているが、概ねそのような事を言われたのだ。それで私もようやく自分の考え違いに気付いたのだ」
「そ、そうなんですね……」
声を高くして、勇ましい女性っぽい口真似をするシュットラウルさんに、一瞬気圧されたというか引きかけたけど……そういう事か。
多分、語り口からモニカさんの言葉だろう。
他にも……。
「リクがなんでもできるわけではない、ただの人間だ。多少他と比べて尋常ではない力を持っていても、私達と変わらない人間だ」
「リクがいないなら私がいるの!」
「リク様がどれだけの国民を救ってきたか。であれば、私達も多くの国民を救うために奮起するべきです!」
「エルフはリクになら命を賭す覚悟をしているわ。少なくとも、この国のエルフの村にいる多くのエルフは。だから、リクがいなくとも必ず戻って来ると信じて、戦うわ!」
という事を言われたらしい……ソフィー、ユノ、フィネさんにフィリーナってところか。
さらに、アマリーラさん達も似たような事を言っていたと、シュットラウルさんは苦笑していた。
「リク殿の近くにいて、同じ冒険者の仲間たちだから……私達以上に依存しているのではないか、と考えていた部分もあったのだが……違ったのだなと、自身の考えを恥じたよ。むしろ、近くにいるからこそリク殿の事を見て、頼り過ぎないようそれぞれが考えているのだと思わされた」
「あはは……」
なんというか、皆の事を褒めているシュットラウルさんの言葉を聞いて、照れくさくなってしまった。
一緒にいてくれる皆の事を褒められるのは嬉しい。
自分の事を褒められたり、英雄と呼ばれるよりも嬉しく、そして照れてしまうのはなんでだろう……?
皆の事が、大事だからかな。
「リク殿は仲間に恵まれているな。いや、嫁か?」
「何を言っているんですか、そんなんじゃないですよ……!」
からかうように言うシュットラウルさん。
確かに、アマリーラさん達も含めて全員女性だけど……そんなわけないじゃないか。
「はっはっは、まぁモニカ殿くらいか、リク殿がそう思っているのは」
「うっ……」
皆は仲間だけど、事あるごとに頭に浮かぶのがモニカさんなのは間違いない。
少しずつ、エルサや他の人達から鈍いと言われてきた理由にも、自覚が芽生えては来ている所だけど……はっきり言われるとつい視線を逸らしてしまう。
「まぁ、そんなわけでな。自分の考え違いに気付かされたというわけだ。西側の魔物を蹴散らした時には、モニカ殿達やアマリーラ達た獅子奮迅の活躍だったからな。私に言った言葉を実際に体現して見せたとも言えるだろう」
皆がどれだけ頑張ったのか、実際に見ていない俺にはわからないけど……他の場所での魔物の数などを見るに、大変だったのは察する事ができる。
西側が一番魔物の数が少なかったとしても、他の場所も守らなければいけないし、決して楽な戦いじゃなかったはずだからね。
「南門付近や、サマナースケルトン、ワイバーンなど、リク殿に協力……どころか頼ってしまった部分は確かにある。だがだからこそ、この先の魔物討伐は我々に任せて欲しいのだ。優勢になってから話を持ち掛けると言うのは、どうかとも思うのだがな」
「いえ……シュットラウルさんが、並々ならぬ決意で話しているのはわかりますから」
0
お気に入りに追加
2,153
あなたにおすすめの小説
森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ どこーーーー
ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど
安全が確保されてたらの話だよそれは
犬のお散歩してたはずなのに
何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。
何だか10歳になったっぽいし
あらら
初めて書くので拙いですがよろしくお願いします
あと、こうだったら良いなー
だらけなので、ご都合主義でしかありません。。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
目覚めれば異世界!ところ変われば!
秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。
ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま!
目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。
公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。
命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。
身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる