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演習の効果は大きかった
しおりを挟む「絶望を叩き込んだからこそ、自分達が努力をすれば戦える魔物との戦闘……センテが囲まれている状況でありながら、士気が高くそして長く続いてくれたのだ。それに、兵士達の戦い方にも変化が起きているからな。私自身も、リク殿達との演習を見ていなければ、ただ無駄に兵を消耗する指揮を執っていたと思う」
「それは……うーん……」
まぁ、少人数や一人で五百人からなる軍を圧倒する相手よりも、数の勝る魔物達の方が戦いやすかった……という事だろうか?
センテを囲んでいる魔物は、輸送係のワイバーン以外は強くてもCランク程度。
フィリーナのように的確に複数同時に狙う魔法や、エルサみたいに広範囲に高威力の魔法を降らせるなんて事はできないからなぁ。
「しかもリク殿はいなかったが、自分らを圧倒したモニカ殿達……アマリーラ達もそうだが、それらが今度は味方になるわけだからな」
「あぁ、それは確かに士気が上がるでしょうね」
強力で頼れる味方がいるっていうのは、精神的に全然違う。
アマリーラさん辺りは、檄を飛ばしていそうだというのもあるけど。
「うむ。それに、盾部隊や魔法部隊など、役割を別けるのも演習があってからだな。リク殿達は、後方のフィリーナ殿達、切り込むモニカ殿達と別れていた。これまでなら、魔法や弓矢を一斉に放って数を減らし、近付いたところで突撃……というのがよくある戦い方だった」
「あの部隊を別けるやり方も、そうだったんですね」
「うむ。盾部隊に関しては、大隊長や中隊長達が試行錯誤をして、攻めて来る相手……想定はモニカ殿達やアマリーラ達だったようだが、それらをどうにかして押し留める事はできないか、時間稼ぎができないか……と考えた結果だったみたいだがな」
「ははは……まぁ、突撃して来る相手を留めている間に、後ろからさらに攻撃を加えるというのは効果的ですよね」
盾部隊は人で壁を作ろう、という考えだ
外壁などと近い役割だけど、部隊で人が盾を持って並ぶ事で移動が可能な便利な盾ができる。
まぁ、分厚い壁よりも脆かったり運用次第で意味はなくなるだろうけど……効果的に使えば押し寄せる魔物に対して多くの時間が稼げるはずだ。
今回は特に、俺が作っていた土壁と一緒に使う事で、かなりの長時間魔物達を押し留めていたようだ。
「その部隊を任せているのが、同じ軍の者ではなく元冒険者というのは、不甲斐なさを感じるが……まだ新しく考え出された戦法だからな。経験豊富な二人に任せた方が良いだろうとの判断だ」
「マックスさんとマリーさんですね。あの二人は、元Bランクの冒険者ですし、今でも現役に近いです。それに、ヘルサルや王都で大量の魔物相手にも戦っていますから」
「ヘルサルではリク殿と共に、王都では冒険者をまとめて城下町で戦っていたと聞く。相性も良かったのだろうな、上手く盾部隊と魔法部隊を使ってくれている」
本人達がそもそもに盾を使って戦うマックスさんと、魔法を使って戦うマリーさんだ。
冒険者をやっている時に、魔物とは散々戦っただろうからやり方も詳しい。
それに、引退しているのもあってか、周囲をよく見ているからね。
経験豊富、年の甲なのか広い視野、だけど年齢で衰える事なく現役並み……実績もあって結構冒険者としては名が知れているみたいだし、部隊を任せるにはちょうど良かったんだろう。
「少々話は逸れたが、今回の事はリク殿がいなければ全て成せなかった事だと認識している。以前の戦い方のまま、以前の兵士達であれば、今頃センテは魔物達に蹂躙されていただろうな。改めて、感謝する」
「いえ……」
再び頭を下げるシュットラウルさん。
あまり実感がない……特に、俺がいない間の事は皆の活躍あってこそなので、何度も感謝されてもなぁ……とは思う。
俺がセンテに来てからやっていた事が、役に立っていると言われるのは、嬉しい事だけど。
「それでだ、リク殿。リク殿は今、残りの魔力が少ないのだったな?」
「え、あ、そうですね。まぁ戦えるか戦えないかと聞かれると、戦えなくはないですけど……大規模な魔法とかは使えないですね。多分、結界とかもあと何度か使えば、意識を保っていられなくなると思います」
どうしてそんな事を聞くんだろうと思ったけど、素直に答えておく。
本当に大規模な魔法を使えないかは……まぁ、無理をすれば使えない事はないけど。
でもその場合、確実に魔法の結果を見る事なく意識を手放す事になるだろう。
破壊神の隔離から戻ってきた時程じゃないけど、かなり魔力が減っているのを自覚している……宿の部屋でエルサと話したように、珍しく体の疲れも感じているくらいだ。
「そうか……であれば、この先リク殿は休息してもらい、残りの魔物達は我々で討伐するとしよう」
「え? でも、確かに少しくらいは休まないといけませんけど……休んだらまた戦えますよ?」
「いや、それだとリク殿に頼り過ぎてしまう。南側の魔物を殲滅、そしてサマナースケルトンの排除、さらにワイバーンを味方に引き入れただけでも、十分過ぎる活躍だ」
「まぁ……言葉で言われると、確かに随分活躍していると実感できますけど」
南の魔物殲滅はスピリット達がやった事ではあるけど、それだけでもかなり十分な戦果だ。
自分でもやった事は理解しているけど、改めて人から言われると随分な事をやったんだなぁと思う。
「でも、魔物自体が減って、追加ももうないとしても被害を減らすなら……」
「確かにリク殿がいてくれた方が、被害は減らせるだろう。だが……多少の被害を被ってでも、やらねばならんとも思うのだ」
別に自惚れるわけではないけど、周囲への影響をちゃんと考えて戦えば、俺も参加した方が確実に被害は減るはずだ。
だけどシュットラウルさんは、眉根を寄せて難しい表情をしながらそう言った。
できる事なら被害は少ない方がいいと思うんだけど……多少増えてもやらないといけない理由って、一体なんだろう?
「この街の者達、兵士達もだが……リク殿が戻って来た事で、一つの考えが広まっているのだ」
「一つの考えですか?」
「うむ。リク殿に任せておけば、全て安泰だとな。まぁ、人によって多少の違いはあるが……そういった考えではない者もいる。だが、それでは英雄リク殿に頼り過ぎてしまっていると考えるのだよ」
「俺に頼り過ぎ……」
俺に任せておけば全てが大丈夫、なんて考えは幻想でしかないと言い切れるけど……でも、確かに魔物と戦いを考えたら、なんとなくそう思ってしまう人の気持ちはわからないでもない。
ただ、戦えない人もいるんだし、頼れる人に頼る事の何がいけないのだろう……。
「ほぼ確定となって来ているが……我が国は帝国との戦争を想定している。その時、リク殿がいるからと他人任せの心構えでいるわけにはいかん。リク殿一人で全てを解決できるわけではないからな。特に、兵士達にその考えが蔓延しつつあるのに、私は危機感を感じるのだ」
「危機感……確かに、俺一人で全ての事ができるわけじゃありませんけど」
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