上 下
1,145 / 1,903

ワイバーン一体貸し出し

しおりを挟む


 素材の回収をするため、倒したワイバーンを持って行くにしても近くにまだワイバーンが残っている。
 ボスワイバーンや俺の言った事を聞いてくれていれば、おとなしくしてくれるだろうけど……こちらが変に刺激するのは避けたい。
 俺から聞いて事情を詳しく知っているモニカさん達や、ワイバーン相手でも恐れないアマリーラさん、リネルトさんとかならともかく、人によっては襲って来ないのをいい事に、手を出そうとするのもいるかもしれないし。

「まぁ、南門周辺もまだ片付いておりませんので、後日の話になるかと思います。回収をしても問題ないかの確認がしたかっただけですので」
「そうですか……わかりました。今はとにかく、センテ周辺の魔物をどうにかするのが優先ですからね。落ち着いたら、俺が回収する手筈を考えます」
「はい」

 まぁ、以前大量のワイバーンをエルサが結界で包んで回収した時のように、今回も近い方法になるとは思うけど。
 まず周辺の魔物を討伐しつつ、ワイバーンを皆に馴染ませて、素材の回収といったところだろう。
 今回収しても、その素材を買い取ったり加工したり、それこそ王都なりに運ぶとしても、対応できる状況じゃないからね。

「それじゃ、俺はボスワイバーンを連れてシュットラウルさんに報告してきます」
「あ、リク様ぁ。ワイバーンを一体置いて行ってくれますかぁ?」
「リネルト、一体どうするのだ?」

 事情も話したし、クォンツァイタの設置準備をしている人達を、これ以上邪魔してはいけないと思い、シュットラウルさんがいるはずの庁舎へ向かおうとする。
 と、リネルトさんからワイバーン一体の要求が……アマリーラさんも首を傾げているけど、どうするつもりだろう?

「ある程度周辺のお片付けは進んでいますけどぉ……やっぱり空から見て、指示をする者がいた方が捗ると思うんですよねぇ。リク様と一緒にエルサ様に乗った時、見下ろす地上の様子がすごくよくわかりましたからぁ」
「成る程……空からですか」

 南門周辺と言っても、魔物が集まっていた場所はかなり広範囲だ。
 外壁の上からだとわかりづらい所もあるし、ワイバーンに乗って俯瞰しつつ指示を出すという目的のためだろう。
 ワイバーンに乗れば移動もスムーズだし、空から見れば行き届かない場所は少ない……特に、アーちゃんが消失させた地面を、埋め直した後の部分とか結構土が荒れているっぽいし。

 土を消失させた穴の中に、結構な数の魔物が落ちたからなぁ。
 さすがに、そちらに関してはウォーさんの発生させた水で流す事はできていないし。

「そうですね……」

 まぁアマリーラさんとリネルトさんなら、もしワイバーンが暴れても対処できるだろうし、一体くらいなら問題なさそうだ。
 ワイバーンの大きさから、少々窮屈でもアマリーラさんとリネルトさんを乗せるくらいはできるだろうからね。
 そう思ってボスワイバーンに話して聞いてみると、連れて来ているワイバーンのうち一体に呼びかけてくれた。
 本当に、俺に従う動きをしてくれるんだなぁ。

「GRA!」

 了解しました! とでも言うように吠えて、片方の前足を上げるワイバーン。
 決して人が出せない声と、前足を上げた瞬間周囲で見ていた人達の一部が身構えたけど……警戒したんだろう。
 ワイバーンの方は、問題なくアマリーラさんやリネルトさんの言う事を聞くように、と言ってある。
 もちろん俺が見ていない所であっても、危ない事をしたり誰かを襲ったりした場合は……と念には念を入れての注意もした。

 ……俺自身は、従順になっているボスワイバーンの様子から、大丈夫だとは思っている部分も多くなってきているんだけど、見ている人達は違うからね。
 もしワイバーンが襲って来ても、単体なら対処できる人以外はまだ怖がっている様子もちらほら見かける。
 ポーズとして、逆らわない様子を見せておくのも大事だ……多分。

 ちなみにワイバーンは、それぞれの手足がほぼ同じ長さで四足歩行の特徴を持つエルサと違って、前足はかなり短い。
 後ろ足は太く二足歩行で、空でも地上でも尻尾を使ってバランスを取っているらしく、大切な器官である尻尾は再生能力がなくとも再生するんだと、後から知った。
 トカゲのような見た目だから、尻尾に関しては驚かなかったけど……これまで知らなかった、知る必要があまりなかった、ワイバーンに関する知識が増えていくね。

「おっと、リネルトに遮られて伝え忘れるところでした。リク様」
「どうしました、アマリーラさん?」

 ワイバーンを俺から借りて、背中に頬ずりまでし始めたリネルトさんを横目に、アマリーラさんから話しかけられる。
 リネルトさんは、ワイバーンのひんやりした皮膚の表面が気に入ったようだ……リザードマンのように、ねっとり湿っていないのも大きな理由っぽい。
 それはともかく……。

「シュットラウル様へ報告をと、先程仰っておられましたが、今頃シュットラウル様は東門で最前線にいるはずです」
「え、シュットラウルさんが!? 最前線って、危ないんじゃ……? いえ、シュットラウルさんがそこらの魔物には決して負けないくらい強く、剣の腕が立つ人なのは知っていますけど」

 アマリーラさんから教えてもらった事に驚く。
 侯爵様だからもしもの事があってはいけないし、全体の指揮をするためずっと庁舎にいるものだと思っていた。
 それがなんで前線に……いくらシュットラウルさんでも、無謀というか無茶が過ぎる。

「いえ……危険はほぼないかと。もちろん、シュットラウル様ご自身の腕もあるのですが……」
「今のシュットラウル様に、怪我をさせられるのはAランクくらいの魔物だと思いますよぉ?」
「え、それはどういう……?」

 いくら腕が立つと言っても、魔物は人間一人程度、簡単に押し流せるくらい大量にいる。
 それなのにアマリーラさん達に焦っている様子はなく、それどころか安全だとでも言うようだ……リネルトさんは頬ずりを止めていないし。
 二人共、むしろ呆れているような……?
 俺だけでなく、周囲の人達、ソフィーやフィネさん達も驚いているのに……ん? モニカさんは驚いていない? あぁ、モニカさんは東門からこちらに来たから、知っているのか。

「リクさん、あれはなんというか……動く鎧?」
「言い得て妙ですな、モニカ殿。それも、そこらの鎧ですらなく少々の攻撃では傷付かない鎧です」
「そんな鎧が……?」
「確かぁ、以前作ったはいいけど、魔力の必要量が多過ぎて使い物にならなかったって聞きましたぁ。戦いにおいて、指揮官がやられる事は何よりも避けるべき、侯爵としても領主としても、と言って考えたらしいんですぅ」
「それは……まぁ、作る理念というか考えはわかりますけど……」

 集団戦において、基本的に指揮官がい無くなれば総崩れになる……というのは往々にしてある事、だと思う。
 だから、要職に付く人物や指揮権を持つ貴族とかは、なんとしてでも自分が生き残る事を考えなければいけないし、その延長で王城やクレメン子爵邸にあった、いざ危険が迫った時のための隠された地下通路だったりするんだけど――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

処理中です...