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猪突猛進なアマリーラさん

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「おーい、リク様ぁ!」
「あ、リネルトさんの事を忘れかけてた。エルサ、もう少し下に降りられる?」

 アマリーラさんに驚いてそのままになっていたけど、地上では手を振ってこちらに叫ぶリネルトさんがいたんだった。
 状況的に、アマリーラさんと二人で門の中に戻ってもらうのも、時間がかかってしまうだろうし……エルサに乗ってもらう方が早そうだ。
 俺達が運ぶか、このまま乗っていてもらった方がいいだろう。

「結界があれば、魔物が群がる事もないからできるのだわ」
「それじゃ、お願い。――リネルトさん、少し高度を下げるのでエルサに乗って下さい!」
「はーい。でも、エルサ様を煩わせる事もないですよぉ! とぉ!」
「お?」

 エルサにお願いして、少し高度を下げてもらおうとしていたら、リネルトさんは首を振って飛び上がった。
 リネルトさんもアマリーラさんのように、ジャンプで高く飛び上がれるんだ……なんて考えている間にふわりと、まるで重力を感じさせないような動きでアマリーラさんの隣に着地……というか着席?
 最初から座っている形で降りて来たから、そっちの方が正しいのかも。
 とにかく、アマリーラさんの時とは違ってエルサに負担をかける事なく、乗ってくれた。

「凄いですね、リネルトさん。普通のジャンプとは違うみたいですけど……魔法?」
「えへへー。そうですよ、魔法なんです。もっと高くにも行けますよぉ。えっと、全身に風を纏わせるようにして……」
「リネルト、そんな魔法の事よりも今はこれからどうするかだ」
「ちぇ~」

 飛び上がる瞬間もそうだったんだけど、リネルトさんのジャンプは何処か不自然だった。
 考え付く理由としてはなんらかの魔法を使ったと思ったんだけど、ちょっとちょっと嬉しそうに、照れくさそうに? どういう魔法かを教えてくれる。
 途中でアマリーラさんに止められた……個人的には聞きたい事だったんだけど、確かに今悠長に話している場合でもないか。
 ……全身に風を纏わせて、ね……覚えておこうっと。
 外壁を飛び越える時はやり過ぎちゃったし、きっと参考になるはず……数メートルから数十メートルも飛び上がらなきゃいけない状況はあまり多くないかもしれないけど。

「リク様、それでは私達は空から魔物達を急襲して……」
「いやいやいや、そうじゃなくて。アマリーラさんとリネルトさんの二人が、門の内側まで引かなかったので、迎えに来たんですよ?」
「アマリーラ様が、言う事を聞いてくれないんですよぉ。指示が出ているのに、魔物に単身で向かっちゃって……追いかけるのは苦労しましたぁ」

 乗っているエルサから身を乗り出し、今にも地上に飛び降りそうなアマリーラさんを慌てて止める。
 この人、話し方や雰囲気は落ち着いているのに、結構猪突猛進な気があるなぁ……戦っている様子を見ていると、激情家っぽくもあったし。
 リネルトさんは暢気な雰囲気と喋り方のままで、イメージ通りなのに……。
 大柄な体で素早い動きが得意のスピードタイプというのは、意外だったけど。

「ですが! このまま退いてしまえばいずれ門を突破されかねません! 一体一体の魔物はそれほどでもありませんし、多少戦える者ならば倒せますが……数が多過ぎます! 少しでも私が減らさないと……」
「ストップです、アマリーラさん」
「っ!」

 自分が……と訴えるアマリーラさんの前に、人差し指を立てて止める。
 この人はこの人なりに、現状をなんとかしようと頑張っているんだろう。
 それが、一人で魔物の中に突撃してってのは、ちょっと無謀というか行き過ぎだとは思うけど。
 アマリーラさんが元気なうちは、確かに怪我を負わせる魔物はほぼいないと言って良さそうだ……けど、獣人とはいえいずれ疲労はする。

 そして疲れから動きが鈍ってしまえば、圧倒的な数の魔物の前に押されて最後は……。
 って事になりかねない。

「大丈夫です、安心して下さい。ここの魔物は俺が殲滅しますから。まぁ、追加の魔物が来ないとも限りませんが……しばらくは猶予ができます」

 ワイバーンとか、サマナースケルトンへの対処ができなければ、殲滅してもまた魔物が来る可能性はある。
 けどまぁ、クォンツァイタで空気中の魔力を多少なりとも吸収したり、センテ側の体制を整えたり、これまで戦ってきた人達の休憩はできるはずだ。

「アマリーラさんは、俺が殲滅した後にもし魔物が追加されるようであれば、そちらの対処をお願いします」
「リク様のご命令であれば、身命を賭して遂行する所存です。ですが……殲滅とは、一体どうやって……? いえ、リク様であれば可能だと疑うわけではありませんが」

 俺の命令って……だからアマリーラさんはシュットラウルさんの部下で、そちらの命令を聞く立場だろうに。
 獣人として、強い者に従うという考えが染み込んでいるのかもしれないなぁ。
 その辺りの感覚は、獣人さんの知り合いが少ない俺にはまだよくわからないか。

「まぁ、ちょっとした考えがありますから。――えっと……エルサ、結界を解くから一旦離れよう」
「了解したのだわ」

 アマリーラさん達を捕獲……じゃない、話をするための結界を解き、エルサが高度を上げつつその場を離れる。
 地上にいる魔物達は、ぽっかり空いていた結界のあった空間に殺到し、俺達を見上げて手を伸ばしていたけど、当然届くわけがない。
 空を飛べる魔物は地上の群れの中にはいないみたいだからね。
 それらを見ながら、ゆっくりと距離をはなす。

「うーん……大分魔物が門に群がっているなぁ。もうちょっと近付かないと、状況がくわしくわからないかな? これだけ人や魔物の数が多いと、探知魔法もあんまり役に立たないし」

 探知魔法で離れた場所の事がある程度わかるとは言っても、結局頼りになるのは自分の目。
 実際に見た方がより状況がわかるのは間違いなく、数十どころか数百や数千の人や魔物が密集している状況では、探知魔法で詳しい状況はほぼわからない。

「でしたら私が……」
「アマリーラさん?」
「リク様、アマリーラ様は目がいいんですよぉ」
「……リネルト、お前もそう変わらんだろう。――リク様、我々獣人は一部を除いて人間よりも遠くを見渡せるのです。他にも、遠くの音を聞き分ける耳や、匂いを嗅ぎ分ける鼻を持つ者もいます」
「成る程、それは確かに獣人らしいですね」

 人間は五感をバランスよく扱うけど、獣人……というか獣は鼻や耳、目などの一部器官が人間とは比べ物にならない程発達していたりする。
 人としての特徴と、獣としての特徴を併せ持つのだと思えば、確かに獣人らしいと言えるかな。

「ふむ……門の外にはもう私達以外はいないようです。まだ門は閉じていませんが、その準備はできているように見受けられます」
「多分、アマリーラさん達が戻って来るのを待っているんだろうね。んー、できればすぐにでも門を閉じて欲しいんだけど……魔物が押し寄せているから、とどめておくのも限界があるし。仕方ない、このまま外壁上にいる人達に伝えに行こう」

 目を凝らして門の周辺を見たアマリーラさんが、状況を伝えてくれる。
 門を閉じるのが早ければ早い程、被害は少なくて済む。
 外壁の上からも攻撃しているから、どれだけ魔物の数が多くてもしばらくは突破されないだろうからね――。


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