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魔力が少なくてもやり過ぎるリク
しおりを挟む「一応、エルサはその状態でも飛べるだろ?」
「もちろんだわ。でももうあんまり高くは飛べないのだわ」
「それでもいいよ。少しだけ力を貸してくれればってね。エルサは、俺が飛んだらくっ付いたままで俺を持ち上げて欲しいんだ」
「この状態のままだと、元気な時でもリクを持ち上げられないのだわ?」
「ちょっとした補助って考えてくれればいいよ。エルサに持ってもらおうとまでは考えていないから」
少しでも浮力というか、上への力が加わってくれれば少しだけやりやすい。
あとは、俺がどれだけ高く飛べるかだけど……。
「さて……街にさえ入れば多分なんとかなるから……最後の頑張りだね」
「こっちはいつでもいいのだわ~」
「うん。えっと……」
魔力はもう残り少ないのが、自分でもわかる……多分、結界数回使えるかどうかだろう。
それで完全に枯渇するわけじゃないけど、意識が保っていられるかは疑問だ。
外壁を越えられるくらいジャンプができたとしても、魔力を使って途中で意識を失ったら意味がない。
壁を越え先でも、着地しなきゃいけないし十メートル以上の高さを頭から落下なんて、考えたくない。
イメージをして、できるだけ魔力を使わないようにしながら……。
「アップウィンド!」
「ふわ? だ、だわー!」
イメージは上昇気流。
それを、足下に発生させて俺一人分を浮かせるくらいの魔法……発動と同時に、力の入らない足を無理して踏ん張り、思いっ切りジャンプをした。
頭の上で、エルサが悲鳴を上げていたけど……ちょっと勢いが付き過ぎたかもしれない。
ちなみに、魔法名は上昇気流をイメージしたんだけど、格好良く英語にできなかった、というかど忘れしたので適当な組み合わせ。
とりあえずは、成功したっぽいから魔法名はなんでもいいだけどね。
「リ、リク! どこまで飛ぶのだわー!」
「え、どこまでって壁を越えられるくらい……あー、ちょっと飛びすぎた?」
「ちょっとどころじゃないのだわ!」
足下から空へ舞い上がる突風に煽られて、ジャンプした勢いのまま空へ浮かぶ途中、エルサに言われて気付いた。
壁の高さどころか、周辺全体が見渡せるくらい……エルサに乗って飛んでいる時くらいの高さまで到達していた。
……やり過ぎたみたい。
「高く飛び過ぎた場合、エルサみたいに空を飛べない俺は……どうなると思う?」
「そんなの決まっているのだわ! 落ちるに決まって……だわぁぁぁぁぁぁ!」
当然と言えば当然の事……本当の意味で空に浮かんでいるわけではなく、魔法で補助をしてジャンプをしただけなのだから、魔法が弱まれば落ちるのは当たり前。
ピタッと空中で静止したと思った瞬間、今度は地上に向けて落ち始める。
エルサの悲鳴がちょっとうるさいけど、それでも最初にお願いしたように俺の頭にくっ付いたまま、翼をパタパタとはためかせて浮かぼうとしているおかげか、真っ逆さまという事はない。
高く飛ぶための補助と思っていたけど、落ちる時の補助になってくれたようだ、ありがたい。
「これは中々……エアバッグ!」
落下しながら下を見ると、凄い勢いで大きく迫る地面や建物……一応、壁は越えられたようで、センテの中に落下予定だ。
十メートル以上の高さに飛ぶつもりだったから、当然着地の事も考えている。
ジェットコースターばりに耳元での風の音や、落下するスリルのようなものを感じつつ、イメージをして魔法を発動。
「うぉっ! っと、っとっと……はぁ」
「はぁ、はぁ、はぁ……リクはやっぱりやり過ぎなのだわ」
イメージしたのは衝突を和らげる風というか空気で、どこぞの自動車にある衝撃吸収システムではない……かなり参考にさせてもらったけど。
高所からの落下を、空気の塊に受け止められ、ゴムのように何度か弾んで勢いがなくなって行き、止まる。
多分、空気の塊は柔らかかったけど、さっきの勢いだと通常は骨が折れたりするくらいの衝撃は合ったっぽい……けどなんとか俺は無事だ。
エルサは、衝撃というよりも落下の勢いや落下中にずっと叫んでいたから、息切れしているのだと思われる。
「まったくリクは、もう少し考えて欲しいのだわ……」
「はいはい。確かにちょっとやり過ぎたけど……おっと」
残り少ない魔力で、かなり抑えたつもりだったんだけど……ジャンプしたり、エルサに羽ばたいてもらったのが余計だったかな?
ブツブツ言うエルサに答えながら、空気の塊に受け止められていた体を起こし、立ち上がる。
地面に足を付けた瞬間、クラッときた……貧血時の立ち眩みに似ている感覚だ。
「リク……だわ?」
「大丈夫。まだなんとか動けるよ」
魔力を使ったからだろう、一瞬だけ意識が遠のきそうだったのを耐えて、気を確かに保つ。
さすがに、限界が近いな……。
「えーと、とにかく宿に……ここからならあまり離れていないから、良かった」
「さっさと行って休むのだわー。眠いのだわー」
「そうだね」
街の東南から入っているから、東側にある宿にはそれなりに近い。
重い足を引きずるようにしながら、ゆっくりと宿へ向かって歩き始める。
「……やっぱり、いつもとは街の雰囲気とか、人の動きも違うね」
「当然なのだわ。今は街全体が戦闘中と言えるのだわ。いつもと同じわけがないのだわ」
街中を歩きながら、周囲の様子を窺う。
当然ながら、緊迫した雰囲気で人も忙しなく走っていたりするのを見かける。
魔物が街の中へ侵入していないから、破壊の跡なんかはないけれど、怪我をしている人も見かけるし、疲れて座り込んでいる人もいた。
「おい、これだけか!?」
「仕方ないでしょ! 今はどこも大変なんだから! 食べられるだけありがたく思いな!」
「ちっ!」
飲食店なんだろう、お店の前を通ると店員さんとお客さんが騒いでいる声が聞こえた。
多分、料理の量に関しての言い合いっぽいけど……やっぱり気が立っているんだろうね。
食糧が多く備蓄されているセンテだから、まだ飲食店もやっていられるんだろうし、もし他の街が魔物に取り囲まれたりしたら、もっと食べる物のない酷い状況になっていたかも。
決死の戦いで、早めに西側の魔物を蹴散らして、ヘルサルとの道を開けたのも大きいかもしれない。
通常の作物を仕入れることはできなくとも、ヘルサル側から食糧支援や人的支援があってこそでもあるか。
そんな、非常時の様子を見ながらなんとかかんとか、宿に到着。
「はぁ……ふぅ……ようやく到着っと……はぁ」
「……大丈夫なのだわ? 離れておくのだわ?」
「なんとかね。気を遣わなくても大丈夫だから……はぁ、ふぅ」
歩いているだけだったのに、息が乱れる。
疲労感とかはないのに、体は重く思うように動かないし、気を抜けば意識がなくなってしまいそうになっている。
いつもはさっさと気絶していたけど、これが魔力が減った時の状態なのか……疲れを感じないのにといのは、不思議な感覚だ。
「ふぅ……よし。っとと……あ……」
宿の玄関、そこに通じる門壁に手を突いて、少しだけ息を整えてから中に入ろうと動く。
その瞬間、体重をかけていた手が滑り、足も踏ん張りがきかないだけでなく絡まって、ゆっくりと体が傾いた――。
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