1,081 / 1,903
防衛演習訓練終了
しおりを挟む「ぎゃああああ!!」
「うわああああ!!」
「いやああああ!!」
「……なんかすごい悲鳴が聞こえるんだけど、大丈夫かな?」
エルサの火球が着弾した場所……土壁の向こうでは、俺達から見えなく離れているのに、大きな悲鳴が上がっていた。
火球は、陣取っている兵士さん達全体に降り注ぎ、水球の時より隙間があるし、落ちて行く速度も遅かったので直撃は少ないと思うけど、何かに当たった瞬間水球と同じように炎が周囲にまき散らされていた。
「ここで聞いていると、向こうは阿鼻叫喚の様相になっているとしか思えんな……」
「大丈夫なのだわ。服が燃えれば別だけどだわ。鎧が消し炭になるような火力じゃないのだわ。ちょっと熱いだけなのだわー」
「確かに、こちらから見て探知魔法を使っている限りだと、一度炎が燃え上がった後はすぐに消えているようだけど」
シュットラウルさんも、悲鳴を聞いてこめかみから汗を垂らしながら呟く。
はっきり見えないのもあって、どれだけの被害が広がっているのかはわからないけど……大きな怪我がない事を祈っておこう。
まぁ、兵士さん達は皆金属鎧を身に着けているから、延焼はほとんどしなさそうではある。
……火傷くらいはしてそうだから、後で治癒魔法で治療はしないとね。
「お、動いたな……」
「アマリーラさんとリネルトさんが先ですね」
土壁の向こう側はエルサの魔法によって混乱中、土壁を挟んでこちら側に出ていた兵士さん達は、それに気を取られて戸惑っている人も多くいる様子。
その隙を突くように、アマリーラさんとリネルトさんが兵士をなぎ倒し、壁に向かって直進を始めた。
「こちらも負けていられないわよ! マルチプルウィンドアロー!」
声を上げたのは、俺達の近くにいるフィリーナ。
大きなロングボウを引き絞り、再び巨大な魔法の矢を放つ。
それは最初と同じように、途中で小さな矢に分散し、土壁の向こうへと殺到……さすがに数はエルサの火球より少なかったけど、着弾と同時に突風を巻き起こしているようだ。
エルサの火球による炎がほぼ消え、混乱の収拾をさせないための一手だろう。
「はぁ……ふぅ……人使い、エルフ使いが荒いな……フレアアロー!」
肩で息をしたまま、フィリーナに文句を言いながらも、カイツさんが放つ魔法の矢。
疲れが出て来ている影響か、最初よりも速射性が落ちてはいるけど、数秒で複数の魔法を放っていた。
カイツさんの放った魔法は、フィリーナが風を巻き起こしている場所へ次々と着弾し、土を巻き上げている……フレアって事は、炸裂系の魔法なんだろう。
俺も前回の演習の時、風と炸裂系の魔法をやられて視界を奪われたけど……あの時程じゃなくても、エルサの魔法で混乱中の兵士さん達には効果的な様子。
見える範囲で、土壁のこちら側にいる兵士さん達も右往左往している様子がわかった。
「モニカ、今がチャンスよ! 押し込みなさい!」
「わかったわ、フィリーナ。行くわよ、ソフィー、フィネさん! 後ろは任せて!」
「了解した!」
「行きます!」
確実に声を届けるために、魔法で増幅したんだろう……声を大きくしたフィリーナがモニカさんに声をかける。
それを受けて、モニカさんが槍を振り回して近くの兵士さんを一蹴、ソフィーとフィネさんがアーチへと向かって駆けだした。
「周囲の混乱に惑わされ過ぎだ! 目の前の敵に集中しろ! だから易々と……ふっ! こうして侵入される!」
「うふふふふ~……注意力が散漫よ~。ほぉら、私はこっち~!」
武器を振り回し、兵士さん達をなぎ倒しながら土壁へとりついたと思った瞬間、高くジャンプしたアマリーラさんが壁を乗り越えて向こう側へ。
リネルトさんも、トラウマになりそうな笑い声を上げながら、他に気を取られてしまった兵士さんの横をすり抜けて、同じく壁の向こうへ。
左右からの侵入は成功したようだ……まぁ、これまでもやろうと思ったら行けてたんだろうけどね。
「こうなったら、もうまとまった行動は不可能だな。おそらく、一部を除いて命令や指示は通っていないだろう」
「でしょうね……小隊長さん達も、慌てている様子が見えますし」
小隊単位で動いているはずなのに、小隊長さんすらおろおろしたり右往左往しているのが見えるので、全体がまとまった行動ができていない。
するとどうなるか……まだ三分の一も兵士さんを減らしていないのに、多くの人が密集している事が邪魔をして、適切な行動ができなくなる。
事実上の崩壊……とまでは言わないけど、軍としての機能を失くした有象無象。
ちょっと失礼かもしれないけどね。
「さぁさぁ、もっと魔法の雨を降らすのよ!」
「はぁ……はぁ……ついて来るんじゃなかった……疲れる……」
援護がやりたい放題だからか、若干ハイになっている状態のフィリーナが、続けて何度も魔法の矢で風を巻き起こす。
息を切らせているカイツさんは、ブツブツ文句を言いながら何度も魔法をショートボウで放った……文句を言いつつも、ちゃんと多様な魔法を混ぜているのはさすがだ。
アーチを死守しようにも、フィリーナの発生させる突風や、カイツさんの火や氷、時折金属鎧にすら傷を付ける鋭い魔法によって、兵士さん達側の混乱は収まるどころか広がるばかり。
「私はここで! ソフィー、フィネさん、頼んだわよ!」
「任せろ!」
「モニカさん、後ろは頼みます!」
そんな中、散発的にしか動けなくなり手薄になったアーチを、モニカさん達が突破。
内側に入り込んだ瞬間、モニカさんが立ち止まってソフィー達を送り出す。
アーチを通ったすぐの場所で陣取る事で、外側にいる兵士さん達が中に入り直す事ができなくなり、さらにモニカさんを排除しようとする兵士さんを受け持つ事で、勝利目標の旗へと向かうソフィー達への攻撃の手を薄めるためだろう。
混乱している状況なので、モニカさんの方に少数、ソフィー達に兵士の壁を厚くしなければいけない状況だけど……結論から言うと、それはできなかった。
「……ものの見事に、やられたな」
「はっ! 不甲斐ない姿をお見せしてしまい、申し訳ありません!」
演習が終了し、シュットラウルさんやモニカさん達と陣幕の中で休憩。
大隊長さんが被害などをまとめて報告にきた。
防衛演習はあれから、最後のダメ押しとエルサが水球を放って混乱を拡大……入り込んだモニカさん達に当たらないよう、奥へ突き進む前に魔法を使っていた。
さらに左右から侵入した、アマリーラさんとリネルトさんが兵士さん達を蹴散らし、アーチ内側に陣取ったモニカさんは、殺到する兵士さんに槍を振り回して近寄らせないどころか、結構な数を蹴散らした。
さらに直進するソフィーとフィネさんを援護するように、フィリーナとカイツさんの魔法が次々と降り注ぐ……。
結果、ほとんどの兵士さんが脱落して戦闘不能になり、ほとんど速度を緩めることなく陣地深くに会った旗を、ソフィーが取り上げて俺達の勝利が確定、演習終了となったってわけだね。
先制攻撃からずっと、こちらが押し続けた結果だけど……人数差を活かせなかった兵士さん達と、魔法の迫力で押し切った感じではあるかな――。
0
お気に入りに追加
2,153
あなたにおすすめの小説
森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ どこーーーー
ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど
安全が確保されてたらの話だよそれは
犬のお散歩してたはずなのに
何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。
何だか10歳になったっぽいし
あらら
初めて書くので拙いですがよろしくお願いします
あと、こうだったら良いなー
だらけなので、ご都合主義でしかありません。。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
目覚めれば異世界!ところ変われば!
秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。
ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま!
目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。
公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。
命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。
身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる