上 下
1,079 / 1,903

膠着状態みたいな状況

しおりを挟む
「はい。状況を見定めれば、もう少し敵が接近した状態でも魔法で援護できるかなぁと」
「さすがに今すぐはできんだろうが……考える余地はありそうだな」
「大規模な戦闘になると、本当にできるかはわかりませんが……」

 考えたのは、誰かが戦況を見定めてどこへ魔法を撃つかという判断と指示をする事。
 ツヴァイの地下研究施設で、フィリーナが全体を見通していたのを思い出しての事だ。
 兵士さん達の中に、フィリーナと同様に特別な目を持つ人はいないだろうけど、全体を多少は見れる人はいるはずだ……だから一人ではなくて数人だし、それでも大規模な戦いで適応できるかはわからないんだけどね。

「あとは……味方が当たっても無事でいられるような何かがあればなぁ。あ、そうか。でもさすがに難しいか……とにかく今は、演習に集中だね」

 衝撃くらいはあるだろうけど、今の金属鎧よりももっと頑丈な鎧……ワイバーンの素材を使った鎧があれば、味方の魔法が多少当たっても大丈夫な気がした。
 少なくとも、火の魔法は弾く事ができるし、風の魔法で斬れる事はない……けど、素材がない事と費用も掛かるし、すぐにどうこうできるわけではないので、考えるだけに留めた。
 今はまず、今進行している演習が大事だからね。

「ソフィー、横! フィネさん後ろ! っ、このぉ!」
「助かる、モニカ!」
「ふっ! ありがとうございます、モニカさん!」

 アーチ付近では、剣を持つソフィーと斧を持つフィネさんが主に兵士さんとぶつかり、数歩後ろからモニカさんが周囲に注意を払いながら、槍で援護していた。
 今は、モニカさんから注意され、正面の兵士さんに気を取られていたソフィーが横から突かれた槍を避け、フィネさんは後ろに回られた兵士さんが振り下ろす剣を避けていた。
 さらに、フィネさんの後ろに回っていた兵士さんは、モニカさんの槍で薙ぎ払われて弾き飛ばされる……フル装備の兵士さんを横に飛ばすくらいの威力があったんだなぁ、モニカさんの薙ぎ払い。

「あっちは、モニカさん主体に動いて兵士さん達と戦っているけど……やっぱり数の差で押せないみたいですね」
「まぁ、容易にはいかないだろう。モニカ殿達が戦うのは初めて見たが、中々なものだな。連携も上手く取れているし、お互いを補い合っている」

 アーチ付近は兵士さん達が集団で固めており、一番数も多いため三人がかりでも簡単には押し込めないようになっている。
 しかも、槍を使って長いリーチの利点で押し返そうともしているので、余計苦労している様子だ……アーチの外側に向けて、一メートル程度の壁の外側にとげを付けたのは余計だったかな……。
 まぁ、壁があるおかげで、兵士さん達も大量にアーチから出て来られず、限定的になっているのでお互いさまって事にしておこう。

「アマリーラとリネルトは……完全に、兵士達への訓練みたいになっているな」
「そうみたいですね……まぁ、リネルトさんは少し怪しいですけど」
「駄目だ! そんな事では街や民を守れるわけがないだろう! ……中々鋭い突き込みだが、ただそれだけだ! お前は遅い! もっと速く動かないと、味方にも迷惑がかかるのだぞ!」
「こうやって動くと、素早く動けるのですよ~。こうして、相手の死角に入るように動くと、そもそもの動きが遅くても、早く見えたりもしますよ~……ふふふふふふふ!」


 左右に目をやると、兵士さん達に囲まれながらも薙ぎ払い、打ち払い、怒号を飛ばすアマリーラさん。
 それは兵士さん達に指導しているようで、鬼教官ながらも的確な指摘でこれが訓練何だと思わせてくれる。
 リネルトさんも、教えるように話しているようだけど……あっちは、目にもとまらぬ速度で兵士さんの視界から消えて、後ろから笑いながら剣を振り下ろして強烈な一撃を与えるという……恐怖を植え付けているようにしか見えない。
 まぁ、離れて俯瞰している俺達から見ると、リネルトさんはただ横に動いただけにしか見えないんだけど、それが速いのと、正面に立って集中していた兵士さんからしてみれば、消えたように見えるんだろう。
 あと、戦闘でハイになっているのか、笑い声が怖い……兵士さん達のトラウマにならないといいけど。

「それにしても、アマリーラさんもリネルトさんも魔法で援護していると言っても、兵士さん達相手になんとかなっていますね」
「それはそうだな。アマリーラもリネルトも、両方冒険者で言うとAランク相当の強さだと思っている。まぁ、経験だの依頼達成数だので、Bランクのようだがな」
「え……そうなんですか?」
「うむ」

 開始からずっと、フィリーナやカイツさんの魔法援護が続いているおかげもあるとは思うけど、アマリーラさんもリネルトさんも、それぞれ兵士さん達の集団に一人で飛び込んで、戦い続けている。
 もう結構な数をあしらっているから、かなりの実力者なんだろうし、それはヒミズデミモグと戦った時にもわかっていたけど……まさかAランク相当の実力だとは。
 Aランクになるには、実力以外にも依頼達成や活動内容等々の実績が必要らしいから、冒険者としてではなく傭兵として雇われている二人がBランクなのはまだ納得できるけど。
 それにしても、実力的には俺や現役の頃のエアラハールさんと同じAランク相当とは……まぁ、単純にAランクの実力って言っても、それぞれ差があったりするんだけどね。

 単純な戦闘能力で、危険な依頼を達成させてAランクになる人もいれば、堅実に依頼をこなして派手な活躍はしないけど頭を使って昇格する人だっている。
 まぁ、一定以上の能力が必要ではあるんだけど、考え方は先日聞いた獣人の強さの基準に近いかな。
 なんにせよ、二人がかなりの実力者なのは間違いないって事だ。

「とはいえ、あの二人を雇うのは苦労したな。まぁ、獣人の傭兵を雇うのは何かしら力を示さなければいけないのだが……」
「力をですか」
「獣人の強さについての考えは話しただろう? 戦う以外にも他の事で強さを示すのでもいいんだが、基本的に獣人の傭兵は自分より弱い者には従わないのだ。頭の良さや財力、見た目なんかを競って勝つという事もあるが、あの二人は雇い主に戦いの強さを求めていたからな」

 頭の良さや財力ってのは、なんとなくわからなくもない。
 それらは味方によっては強さとも言える事だから。
 けど、見た目って……見る人によっても基準や感覚が違う事だろうに。
 それはともかく、アマリーラさん達は単純に戦闘での強さを求めていたようだ……あれ? って事は、二人よりも強くないと雇う事ができなくて、部下にしているシュットラウルさんは。

「戦いの強さ……って事は、シュットラウルさんはあの二人より?」
「……雇ってから、あの二人もまた成長しているようだし、今はわからんが……雇う時には一対一で戦て負かしたぞ」

 シュットラウルさんが強いって事は、アダンラダと戦った時にもわかっていたけど……アマリーラさん達より強かったのか。
 今はわからないと謙遜しているけど、鍛錬を怠っているようには見えないし、一対一とはいえ今兵士さん達に突撃して薙ぎ払っている二人に勝っている、ってのはちょっと驚きだった。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ  どこーーーー

ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど 安全が確保されてたらの話だよそれは 犬のお散歩してたはずなのに 何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。 何だか10歳になったっぽいし あらら 初めて書くので拙いですがよろしくお願いします あと、こうだったら良いなー だらけなので、ご都合主義でしかありません。。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~

中島健一
ファンタジー
[ルールその1]喜んだら最初に召喚されたところまで戻る [ルールその2]レベルとステータス、習得したスキル・魔法、アイテムは引き継いだ状態で戻る [ルールその3]一度経験した喜びをもう一度経験しても戻ることはない 17歳高校生の南野ハルは突然、異世界へと召喚されてしまった。 剣と魔法のファンタジーが広がる世界 そこで懸命に生きようとするも喜びを満たすことで、初めに召喚された場所に戻ってしまう…レベルとステータスはそのままに そんな中、敵対する勢力の魔の手がハルを襲う。力を持たなかったハルは次第に魔法やスキルを習得しレベルを上げ始める。初めは倒せなかった相手を前回の世界線で得た知識と魔法で倒していく。 すると世界は新たな顔を覗かせる。 この世界は何なのか、何故ステータスウィンドウがあるのか、何故自分は喜ぶと戻ってしまうのか、神ディータとは、或いは自分自身とは何者なのか。 これは主人公、南野ハルが自分自身を見つけ、どうすれば人は成長していくのか、どうすれば今の自分を越えることができるのかを学んでいく物語である。 なろうとカクヨムでも掲載してまぁす

処理中です...