上 下
1,054 / 1,903

狙うは翼

しおりを挟む


 モニカさんとソフィーによって、俺がワイバーンに向かう事が決められてしまった。
 まぁ、確かにワイバーンは王城でも戦ったし何とでもなると思う……空を飛ばれたとしても、エルサがいるのも大きいか。

「私もやるのー」
「そうね、それじゃユノちゃんとリクさんに任せましょう」
「ワイバーン相手か……それなら、この剣は使えないね」

 手を挙げて主張するユノ。
 モニカさんが頷いて、ワイバーンは俺とユノがやる事に決まった……ユノなら大丈夫そうだ。
 他の魔物は皆に任せるとして、さすがに硬いワイバーンの皮が相手だと考えたら、ボロボロの剣ではちょっと心許ないので、黒の剣を使う事にする。
 ……前回も黒の剣で戦ったから、ワイバーンが硬い印象が一切ないんだけど、エルサやユノのリュックを見るに、通常の剣が簡単に通る物じゃないのは知っている。
 他で使われている、動物などの革と同じように柔軟なのに、金属の刃を通さない硬さを持っているのは、不思議だなぁ。

「あれか……」
「そうだね。えっと、中心に近い部分にワイバーンが二体。木々の端の方に魔物が散らばっている感じかな。多分、中央に寄っていないのは、ワイバーンから逃げているんだと思う」
「リクの話を聞いていたら、ワイバーンが獲物を捕食しているようだからな。一部の魔物が食事に夢中になっている隙に逃げたのだろう」

 はっきりと林が見えるくらいの位置まで来て、移動中は使っていなかった探知魔法を改めて発動させて探る。
 暗いのもあって外側から林の内部は見えないけど、これだけ近いと魔力反応がはっきりとわかる。
 相変わらず、範囲が広すぎて余計な情報が入って来るけど、林に向かって意識を集中させればいいだけだ。

「さっきも言った通り、ゴブリンやウルフ、オークがいるみたい。多分、ウルフはフォレストウルフだね。センテの南にいたのとは違って、木々の合間を縫うのが得意そうだ。数が多いみたいだから、気を付けて」
「わかった。フォレストウルフは、ヘルサルとの間にある森で戦って以来か」
「もっと木々が密集している森なら別だけど、木と木の間が結構空いているから、暗くてもなんとかなりそうね」
「ですが、警戒は怠らないようにしましょう」

 魔物の情報を伝え、話し合ってそれぞれの準備をする。
 ちょうど、俺達がいる場所からワイバーンのいる場所の途中に、ゴブリンが数体固まっているようだから、モニカさん、ソフィー、フィネさんは別行動で先に林へ向かって、魔物を蹴散らす。
 遅れて俺とユノが林へ向かって、真っ直ぐ中央にいるワイバーンへ。
 迂回するよりも、さっさと魔物を蹴散らして進んだ方が良さそうだからね。

「それじゃ、皆気を付けて。魔物を倒した後の片付けは……」
「それは全部終わってからでいいだろう。では……行くぞ、モニカ、フィネ」
「えぇ!」
「はい!」

 弱い魔物と言っても、夜戦のうえ木々がある林の中だから、油断しないよう注意を促す。
 倒した魔物の事は後で考えるとして、別行動班のリーダーみたいになったソフィーが、モニカさんとフィネさんに指示を出して林へ向かって駆ける。
 ランクや経験的にはフィネさんがリーダーなんだろうけど……本人が気にしていないなら、問題ないか。

「……うん、三人とも順調そうだね」
「ゴブリン程度にやられるような三人じゃないの。油断しなければ問題ないの。それよりリク?」

 黒の剣をすぐ抜けるよう準備しつつ、探知魔法で先に駆けて行った三人の様子を窺う。
 それぞれ、ゴブリンの集団と接敵したと思われる瞬間から、どんどん数を減らして行っているので、順調なんだろう。
 確認して頷き、ユノと一緒に林へ近付く。

「どうした、ユノ?」
「ワイバーンだけど、魔力が少ないって言っていたのはおかしいの。何かありそうなの」
「まぁ、そうだろうなぁ。人の指示を本当に受け付けるのかはわからないけど、もしそうなら、普通のワイバーンじゃなさそうだ」

 ワイバーンであるなら、本来は確実に魔力量が多いはず。
 なのに、反応を調べた限りでは、今目指している場所にいるワイバーンはの魔力量は、人間と同等くらいしかない。
 絶対に何かあるのは間違いないはずだ。

「だから、絶対逃がさないように仕留めるの」
「絶対逃がさないようにって、どうやって? まぁ、一撃で仕留めれば確実だろうけど」

 逃がしたくはないから、もし飛んだらエルサに追いかけてもらう、それ以外では一撃で仕留めるようにするしかないんじゃないだろうか?

「翼を狙うの。翼の片方を半分でも斬り取れれば、ワイバーンはもう飛べないの。大きく傷つけるくらいでもいいの」
「成る程、翼か。わかった、できるだけ翼を狙うようにしよう」

 何があるかわからないワイバーン。
 魔力量が少なくても、俺達が駆け込んで仕掛けた際に一刀両断とはいかないかもしれない……向こうだって、避けたりもするからね。
 そこで、ユノが言ったように翼を狙って、片方の翼を傷付けられれば逃げられる事はないってわけだ。
 二体いるから、それぞれ別方向に逃げたら、エルサでも逃すかもしれないし……確実に仕留めるために、言う通りにしてみよう。

 ワイバーンの翼は大きく、その大きさで揚力を得ていると考えがちだけど、魔力を通して空を飛んでいるらしい。
 それなりに大きいワイバーンの体を支えるのは、魔力を通さないと不可能だとの事だ……大きく傷を付ければ、魔力が通せなくなるから、飛べなくなるってわけだね。

「……私が、ワイバーン如きを逃すはずがないのだわ。だから、リクは構わず戦えばいいのだわ」
「起きていたのか。まぁ、エルサに手間をかけさせないように、やってみるよ」

 もしもの時は頼る事になったとしても、最初からエルサに頼る事前提で動きたくないからね。
 頭にくっ付いて、いつの間にか起きていたエルサのモフモフを撫でて、やれるだけの事をやると決める。
 ……多分ユノは、エルサに頼らずになんとかする方法を教えてくれたんだろうから。
 ワイバーンを仕留めるのを、エルサに取られたくない……とかではないはずだ、多分。
 盾は背中に、剣を持ってブンブン振りながら意気込んでいるユノを見ると、ちょっと自信ないけど。

「……よし、ゴブリン達はいなくなった。中央までの道が開けたね。行くよ、ユノ!」
「任せるの!」
「……はぁ、ワイバーン程度でここまで意気込まなくてもいいのにだわぁ」

 背の高い木々が並ぶ林の一歩手前、モニカさん達がゴブリンと戦う音がちらほらと聞こえるくらいの場所で、探知魔法を使って数秒ほど待つ。
 どんどんゴブリンの反応がなくなり、ゼロになったのを確認した後、ユノに声をかけて中心へと向かって駆けだす。
 頭にくっ付いたエルサが、何やらぼやいていたけど……二体のワイバーンくらいなんとでもなるってわかっていても、油断はしたくないからね、やるなら万全にだ。
 ちなみに、モニカさん達はゴブリンを全て倒したのを確認したのか、三人で一緒に別の場所へ向かって行った。

 他の魔物を討伐しに行ったんだろう……牽制って話はどこに行ったのか。
 まぁ、わかっていた事だけど。
 怪我にだけは注意してほしいなぁ――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

処理中です...