上 下
1,042 / 1,903

寝坊をするリク

しおりを挟む


「モニカさん達に怪我をさせるわけにはいかない。まぁ、冒険者だし怪我くらいはするけど、俺が加減もせずに皆に剣を振るうのだけは、嫌だ」

 訓練とかで、模擬戦をする事はある。
 けどそうじゃなく、明確な敵意というか、倒すと言う意思を持って剣を振るうのはそれとは違う……はず。
 そうなったら、モニカさん達は……いや、モニカさんは俺をどんな目で見るのだろうか?
 想像しかできないけど、それは嫌だなと思う。

「……なんだか、姉さんと再会するまで見ていた、夢を見た後みたいな感覚だ」

 狂戦士化? バーサーカーモード? とにかく、あんな風になる原因というか流れみたいなのは、少しわかる。
 ルジナウムの時も、今回も、戦闘に集中……没頭して動きの最適化。
 とにかく頭の中はクリアにして、冷静さを常に保とうとする意識からだと思う。

「一種のトランス状態とか? あの時、異様に周囲の状況がよくわかったし、本当に冷静なのかは怪しいけど……そういえば……」

 冷静さとかとはかけ離れているけど、自分で制御できないというか……制御するという意識が抜け落ちている状況が、他にもあったっけ。
 ヘルサルと、エルフの集落の時だ。
 あの時は確か、マックスさんが俺の事を庇ってくれたり、エルフの姉弟が怪我をしたりとかだったはず。
 あちらは頭に血が上った状態に近かったっけ……まぁ、エルフの集落の時は湧き上がる感情任せじゃないけどね。

「でも、ヘルサルの時は」

 ギリギリで、エルサ達に街中へ逃げるように言う事はできたけど……もしそれすらも意識からなくなって、周囲に皆がいるのに魔法を使っていたら。
 ヘルサルの外壁が溶けてしまう程、自分でも思い出して馬鹿らしいとすら感じる超高熱の魔法を使ったため、ちょっとした影響という言い方じゃ生温い被害が出ていたはず。

「そう考えると、結構ギリギリで一線を越えないと言えるのかも。うーん……だからと言って、自分に過剰な信頼をするのもなぁ」

 それぞれ状況が違い、冷静さでもって剣を振るうか、激情で魔法を使うか、という違いはあるけど……それが妙に合わさった時、俺にとって耐えがたい結果になる可能性だってある。
 自分に自信がないとか、そういうのとは別に、制御できない何かを抱えているような気がして、どうも気が晴れない。

「はぁ……とにかく、なんとなくでもバーサーカーモードみたいになる原因がわかっているから、気を付けよう」

 溜め息を吐いて、わからない事は後回しにし、とにかくあの状態にならないように意識する事が大事と考える。
 集中し過ぎないようにする事、激情に駆られないように気を付ける事、そして戦闘に没頭しないようにする事を肝に銘じておこう。
 自分でもわからない事が多いから、誰かに相談する事もできないし……今は気を付けるしかできないから。
 ……ユノかエルサくらいには、余裕がある時に相談した方がいいかもしれない、俺のあの状態を見ているわけだか、傍から見て何か気付いた事もあるかもしれないからね。

 そうして、モヤモヤとしたものが解消されないまま、今更に重くなった体をベッドに沈ませた。
 緊張状態が解けたから、今更ながらに演習の疲れとかが出ているのかもしれない。
 夕食まで、少し休もう――。


「リ……さんっ! リクさ……!」
「んん……?」

 何か、叫ばれている気がする。
 大きな声……聞き覚えのある声だ。
 あれ、俺寝ていたのか。
 少し休んでおくだけだったのに、熟睡していたのは少し恥ずかしいな。

「んー……」
「リクさん!」
「あれ、モニカさん?」

 声を漏らしながら目を開けると、覗き込むようにしているモニカさんがいた。
 目を潤ませ、俺が目を開けた事でもう一度大きく声を出す。
 どうしてここにモニカさんがいるんだろう? 確か俺は、夕食を待って休んでいただけで……あぁ、戻って来ていたのか。
 という事は、そろそろ夕食も……。

「ごめん、ちょっと寝ていたみたいで。えっと、夕食のために呼びに来てくれたんだよね?」

 俺が体を起こすのに合わせて、モニカさんも離れ、ベッドの横に立つ。
 寝起きでまだぼんやりする頭を整理しながら、モニカさんに謝った。
 ……あれ? 俺いつの間にベッドの中で寝ていたんだろう? 休む前は、足はベッドの外に出していたのに。

「夕食どころじゃないわよ、リクさん! はぁ……良かった……」
「まぁ、起きてくれて何よりだな」
「だから大丈夫だって言ったのだわ。リクの魔力に異常はなかったし、ただ寝ているだけだったのだわ」
「まぁまぁエルサ様。それでも、声をかけても起きず、ずっと寝たままだったのは心配になりますよ」
「そうなの、エルサはもう少し人が心配になる気持ちをわかった方がいいの」
「……ユノも、私に同意していたのに、なぜかいつの間にか悪者なのだわ」
「……モニカさんだけじゃなくて、皆も? えーっと……?」

 俺の質問に再び大きな声を出すモニカさんだけど、すぐに体の力を抜いて溜め息を吐く。
 モニカさんが近かったので気付かなかったけど、部屋にはソフィーやフィネさん、エルサやユノも揃っていた。
 なんとなく、安心したような雰囲気を出して話しているけど、皆俺の部屋に集まってどうしたんだろう。

「リクさん、多分わかっていないんだろうけど……もう朝、じゃないわね。昼に近いのよ?」
「えぇ!?」

 モニカさんの言葉に、驚いてベッドから飛び起きる……いや、体は起こしていたけどベッドから出たって事だ。
 部屋の中は明るく、木の戸が開かれている窓からは日の光が入って来ていた。

「明るい……って事は本当に?」
「えぇ。私達が戻って来た時、リクさんはもう寝ていたの。まぁ、訓練で疲れたんだと思って、そのままにしていたのだけど……」
「朝になっても起きないからな。さすがにおかしいと思って、皆こうしてここにいるわけだ」
「あ、リク様がちゃんと休めるように、体を動かしたのは使用人さん達です」
「リク、体を動かしても全然起きなかったの」
「まったく、私をお風呂に入れるのを忘れて寝ているなんてだわ」

 最後のエルサはともかく、朝になっても起きない俺を心配してくれていたのか。
 いや、さっきのエルサの言葉が本当なら、ユノもあまり心配していなかったみたいだけど。
 寝るつもりはなかったんだけど、いつの間にか寝落ちしていたらしい……ちょっと申し訳ない気持ちだ。

「では、リク様も起きられたので、私は侯爵様に報告を。侯爵様も心配……はい、心配していましたので」
「エルサやユノと話して、笑っていたが……報告は必要だな。私も、宿の者達に言って来る。食べ物は口に入りそうか?」
「あ、はい、お願いしますフィネさん。えーと……お腹は空いているから、入るよ」
「わかった。何か食べる物を用意してもらおう。私達はリクが寝ている間に、朝食を済ませてしまっていたからな」
「うん、ありがとう」

 シュットラウルさんが本当に心配していたのか、フィネさんの言い方だと微妙なところだけど……ともかく、フィネさんは報告に、ソフィーは食べ物を頼みに部屋を出て行った――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ  どこーーーー

ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど 安全が確保されてたらの話だよそれは 犬のお散歩してたはずなのに 何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。 何だか10歳になったっぽいし あらら 初めて書くので拙いですがよろしくお願いします あと、こうだったら良いなー だらけなので、ご都合主義でしかありません。。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~

中島健一
ファンタジー
[ルールその1]喜んだら最初に召喚されたところまで戻る [ルールその2]レベルとステータス、習得したスキル・魔法、アイテムは引き継いだ状態で戻る [ルールその3]一度経験した喜びをもう一度経験しても戻ることはない 17歳高校生の南野ハルは突然、異世界へと召喚されてしまった。 剣と魔法のファンタジーが広がる世界 そこで懸命に生きようとするも喜びを満たすことで、初めに召喚された場所に戻ってしまう…レベルとステータスはそのままに そんな中、敵対する勢力の魔の手がハルを襲う。力を持たなかったハルは次第に魔法やスキルを習得しレベルを上げ始める。初めは倒せなかった相手を前回の世界線で得た知識と魔法で倒していく。 すると世界は新たな顔を覗かせる。 この世界は何なのか、何故ステータスウィンドウがあるのか、何故自分は喜ぶと戻ってしまうのか、神ディータとは、或いは自分自身とは何者なのか。 これは主人公、南野ハルが自分自身を見つけ、どうすれば人は成長していくのか、どうすれば今の自分を越えることができるのかを学んでいく物語である。 なろうとカクヨムでも掲載してまぁす

処理中です...