上 下
1,034 / 1,903

突撃に備える

しおりを挟む


「六の矢準備……五の矢撃てぇ!! 右翼はそのまま前進、六の矢が放たれたと同時に突撃せよっ!!」
「「「おぉぉぉぉ!!」」」
「突撃か、さすがにいつまでもこのままじゃいられないよね。迎え撃つには……」

 兵士さん達の方を見据えながら、大隊長さんの号令を聞く。
 前進し始めた部隊がいるためか、先程までよりも降り注ぐ矢の数が減って来ている……とは言っても、さすがにまだ動けないけど。
 こちらに前進する兵士さん達は、降り注ぐ矢の隙間からなんとなく見える。
 速度は速くないから、大隊長さんの言う通り六の矢が撃たれるのを待っているんだろう……って、馬に乗ってる!?

「騎馬かぁ……これは、思ったよりも速く俺の所まで来そうだ。さすがに次は隠れて過ごさず、迎え撃つ準備をしないといけないかな」

 当然ながら、馬は人間が走るより速い。
 次の矢が撃たれて突撃されたら、矢をやり過ごしている間に到達されて、向こうに有利になるだろう……しゃがみ込んでいるから、咄嗟に動くのは難しい。
 なら、やる事は一つ……騎馬が六の矢のすぐ後に来るのを迎え撃つために、降り注ぐ矢をなんとかしないと。

「右翼前進!! 騎馬の突撃に備えろ!! 左翼後列、遅れるな!!」

 遠くから聞こえる、大隊長さんの叫び声。
 ……魔法で被害を与えて視界を奪い、その間に矢を放ってさらなる被害と相手の釘付け……その後騎馬で突撃、さらに他の兵士さん達も動かすと。
 準備が万全で向き合って、合図で戦闘開始という条件というのもあるけど、休む暇もない戦闘になるのが、集団戦なのかもしれないな。

「なんとなく、模擬戦の延長のような気がしていたけど、全然違うんだな」

 頭の中では、突撃してきた兵士さんと戦い続ける……みたいなイメージだったから、タイミングを見計らないながら、模擬戦との違いを実感しつつ呟く。

「六の矢、撃てぇ!! 続いて騎馬隊突撃!! 右翼、騎馬隊に続け!!」
「おっと、そろそろだね。よし……」

 六の矢と騎馬隊の突撃の号令が下された。
 次の弓矢準備の指示は出ていなかったようだから、やっぱり味方が突撃する際に弓矢を撃つ事はしないようだ。
 味方に当たっちゃいけないから、当然だろうけど。
 ともかく、騎馬隊が来る前に先に降り注ぐ矢を何とか凌いで、備えなくちゃね。

「前の矢が終わって数秒程度で次の矢が来る……ここだ!」

 五の矢が終わってから、六の矢が放たれて俺に届くまで、これまでを考えれば大体数秒程度ある。
 その隙に立ち上がり、砂煙を上げて突撃して来る騎馬隊を見据えながら、山なりに騎馬を飛び越えて飛来する六の矢に対応。

「くっ! この! いててて……でも、備えていたらなんとか……っ!」

 来るのを待つだけでなく、最初の爆発の矢で散乱した木剣を一つ拾い、両手にそれぞれ一つずつ持って降り注ぐ矢を叩き落す。
 俺の正面には結界が張られているので、その結界に守られていない部分に当たりそうなのを狙ってだ。
 とはいえ、魔法じゃないため探知魔法が役に立たないので、目で見て判断する必要がある……矢が降り注ぐ速度が速すぎるため、さすがに全てを叩き落すのは不可能だけど、いくつかは防げた。
 まぁ、足に当たったりして突き刺さりはしないまでも、結構痛みを感じているんだけど。

「つぅ……結構当たっちゃったなぁ。爆発の矢よりも、密集しているから隙間を縫えないし……そもそも速度が速くて目で見るだけだから、避けにくい……」

 木剣を振っている腕や足などに、それなりの数の矢が当たってしまっていた。
 痛いだけで済んでいるのは、魔力のおかげだろう……勢いや深々と地面に突き刺さっているのを見るに、通常なら貫通してもおかしくないくらいだっただろう。
 改めて、自分が普通の人間と同じ規格で考えない方がいいんだと自覚……でも、人間だという主張は捨てないでおこう。
 さすがに、漫画やアニメのように自分に降り注ぐ矢を、全て叩き落すなんて事ができないのを歯がゆく思いながら、それでも数を減らすために木剣を使って痛みに耐えながら、数を減らし続ける。

 ……最初から、ずっとこうしていたら疲労もそれなりにしただろうし、痛みで根を上げる事はなくとも、怪我をしたり続く兵士さん達の突撃には耐えられなかったかもしれない。
 大隊長さん、結構やる事がエグイ。
 でも……それももう終わり……だ!

「っと! よし、次は……」
「「「おぉぉぉぉぉ!!」」」

 降り注ぐ全ての矢をしのいで、気勢をあげる騎馬隊の突撃。
 遠くから攻撃されたら、魔法が限定されている俺はただ耐えるしかないけど、直接戦闘になれば話は別。
 ここからは、俺の反撃……。

「リク、お馬さんは狙わないの! 乗っている人間を狙うの!」
「うぇ!?」

 近づく騎馬隊を見据え、まずは機動性を奪うために馬を狙って……なんて考えつつ、左手の木剣を地面に捨てて、右手に持った木剣を構えていると、穴の中にいたはずのユノから止められる。
 急に静止がかかったので、驚いて声を上げてしまった。

「お馬さんにリクの攻撃が当たったら、可哀そうなの!」
「いやまぁ、それは確かにそうだけど……俺だけ、気を付けなきゃいけない事が多過ぎない!?」

 一部以外の魔法の使用禁止、結界の限定使用、さらに兵士さんと戦う時も命を取ってはいけないので、全力で戦ってはいけないなどなど……加減をしなければいけない事が多過ぎる。
 ……そりゃ、例えこれが実戦であっても、相手の命を奪うくらい全力で戦いたくはないけど。
 そこからさらに、馬も狙っちゃだめだなんてなぁ……。

「お馬さん、防具を付けていないの。きっとリクの攻撃を受けたら、痛い痛いなの!」
「はぁ……わかったよ。というかユノ、喋り方が本当に幼い女の子みたいになっているぞ?」
「気のせいなの!」

 確かに、向かって来る騎馬隊の、乗っている人達は完全武装だけど、馬には鞍や鐙が付けられているだけだ。
 軍馬には金属製の専用武具を取り付ける事がある、と聞いたから、あれらは間に合わせとかなんだろう……それとも、そういった軍馬は一部にしかないのかもしれない。
 ともかく、そんな馬が俺の振る木剣に当たったら……突撃して来る勢いもあるし、良くて骨折、悪ければ……まぁ、そういった事をユノは心配しているんだろう。
 俺の心配よりも、馬の心配かと思わなくもないけど。

「……狙うのは騎乗している人間、狙うのは騎乗している人間」

 仕方なく、馬を狙わないように兵士さんだけを狙うよう、自分に言い聞かせるために小さく呟く。

「リク様、ご覚悟!!」
「……覚悟するのは、貴方の方ですよ! はぁっ」
「っ!? ぐあ!!」

 真っ先に突撃してきた一騎、その人が正面から俺に向かいながら、槍を突き出す。
 馬の上だから、剣よりも槍の方がリーチが長くて使いやすいんだろう……模擬戦で何人かの兵士さんが使っていた槍よりも、さらに長いから馬上槍とかそういう物かな?
 ともかく、俺を狙ったその突きは、前もって備えていたので簡単に避けられる。
 真っ直ぐ突撃する騎馬兵を、体を横に動かして避けると同時、軽くジャンプして木剣を振るって腹部に当てた――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

処理中です...