1,009 / 1,903
事後処理を終えて中央管理棟へ
しおりを挟むさすがに、ヒミズデマモグを逃さないために作った土の壁を、そのままにはできないからと、すぐに元に戻すよう動き出す。
壁そのものはまだしも、円形に深い溝ができてしまっているし、人が落ちたら危ない……幅は狭いから、下まで一気に落ちる事はないけど、足を取られたり危険なのは間違いないからね。
何もないはずの場所を囲むように、急に円形の溝があったら東村の人達も困るだろうし。
アマリーラさん達に言って、ヒミズデマモグの片付けを任せて俺は土の壁と溝の処理を担当。
とは言っても、固めた土に触れて別の魔法で上書き、固まらずに元の状態と変わらない、周辺の土と同じようにするだけなんだけどね。
イメージと最初の発動場所から移動しているから、全体に魔力を行き渡らせるのに、少し時間がかかるくらいか。
兵士さん達を呼んで、ヒミズデマモグの解体を始めたアマリーラさん達を眺めながら、のんびりと処理させてもらった。
急にできた溝を兵士さん達が飛び越えるのを見た時は、やっぱり迷惑をかけてしまったなぁと思う。
とりあえず、溝ができた事に関しての説明は、アマリーラさん達に任せておこう……まともに説明していないから、伝えられるかわからないけど。
そうして、大きいヒミズデマモグは兵士さん達の協力の下、テキパキと片付けられる。
あちらが終わる頃には俺の方も、溝と壁の処理も終わっていた……掘り返したような、見るとはっきり何かの跡だってわかる感じになっちゃったけど、特に問題はなさそうだ。
念のため探知魔法で調べてみても、二度魔力を伝わせて魔法を使っても変に魔力をため込んでいる様子はなかったし、その後の影響はないはず。
ヒミズデマモグの処理後、その場を兵士さん達に任せて俺とアマリーラさん達は、農地の結界内へ。
「リク様、おそらくアダンラダもそうですが、ヒミズデマモグの討伐報酬も、センテの冒険者ギルドで処理させて頂きたいと思います」
「え? でも討伐証明部位とか、取っていませんし……」
シュットラウルさんが待っているはずの、中央棟へ行く途中にアマリーラさんから言われる。
確かに倒したけど、両方ともその後の処理は任せたし、俺一人で倒したわけじゃない。
それに、その魔物特有の素材か討伐証明部位がないと、本当に討伐したと認められないので、冒険者ギルドに行っても報酬はもらえないはず……嘘ついて倒したって人がいたからいけないからね。
そもそも、報酬が欲しくて倒したわけじゃないし……。
「問題ありません。ルーゼンライハ侯爵様が保証してくれますし、私達も。リク様がいて下さらなければ、ある程度の被害が兵士に出ていた可能性もあります」
「リク様のおかげで~、誰も怪我をしなかったんだから当然もらう権利はありますよ~」
「うーん、そうですか。報酬のためにやったわけじゃありませんけど……ありがたくもらっておきます」
あんまり遠慮するのも失礼だと思うし、ここはありがたくもらっておこう。
もしクランを作るとしたら、運営資金も必要らしいし……これまでの報酬や褒賞やらで、それなりのお金を持っているけど、あって困る物でもないだろうから。
ちなみに、ヒミズデマモグは触角と土を掘る爪、硬い毛と柔らかい毛が混合している体毛が、それなりの値で取引される素材らしい。
処理はアマリーラさん達に任せたので、そちらの素材もどうするかはお任せすると、歩きながら話していたんだけど、報酬に上乗せしてくれるとか。
シュットラウルさんではなく、アマリーラさん達がそれを決めていいのか、と少しだけ気になったけど……俺に同行する前にシュットラウルさんから、報酬に関しての話をされていたらしい。
本当に魔物がいたら討伐後に、いなければアダンラダの討伐報酬を、戻ってきた時にシュットラウルさんから伝えられる予定だったのだとか。
報酬は最初から決まっていた事だったのか……まぁ、ありがたくもらっておこう。
アマリーラさん達と中央棟付近に戻ると、少し離れた畑区画の中にいるシュットラウルさんから声をかけられる。
「おぉ、リク殿。戻ったか。やはりリク殿の言っていた通り、魔物がいたのだな。しかもヒミズデマモグ……中々厄介な魔物だったようだが」
「シュットラウルさん……なんで外で寛いでいるんですか……?」
ヒミズデマモグの事は、アマリーラさんが兵士さんに伝令をさせていたので、知っていても不思議じゃないけど……なんでわざわざ外なのか。
中央棟は管理棟の役目もあるので、それなりのスペースがあるからそっちで寛げばいいのに。
畑区画の中と言っても、まだ耕されてすらない予定地なので、そこにいるのは問題ないとは思うけど。
「いやなに、建物の中というのは少々息が詰まるのでな。普段、部屋のこもっている事が多いのもあって、こうして外の空気を感じているのだ。まぁ、風がほとんどないのが残念だが……」
「結界で覆っていますからね。完全には塞いでいないので空気は入れ替わりますけど、さすがに風はここまで届かないでしょう」
空気の流れ自体は、それなりにある。
一応これまでの事を考えて、ドーム状に農地を覆う結界に空気穴のような物もあけてあるから、酸素が足りなくなる事はない。
作物を作り始めれば、植物が一斉に育つからそこまで考えなくていいのかもしれないけど。
とは言っても、温度管理が難しくなるので空気穴も針を通すくらいの大きさをイメージしたし、出入り口も遠いので、中央までは風が届かないのは当然の事。
「だがしかし、こうしてここでお茶を飲みながら、広い農地を見渡すのもまた、良いものだ。できれば酒が良かったのだがな」
「シュットラウル様、さすがに外でお酒を出すわけには参りません。持って来てもおりませんから」
見渡して見えるのは、耕され始めた畑や中央棟くらいなものなので、景色がいいとまでは言えないけど見晴らしはいい。
こういう所でのんびりとお茶を飲むのも、美味しく頂けるのかもしれないね……確かにこれなら、風も少しあった方が気持ち良かったかもしれないと、シュットラウルさんの気持ちを少しだけ理解。
ただ、お酒が欲しいと漏らすシュットラウルさんには、隣でお茶の入ったポットらしき物をもって待機している、執事さんに注意されていたけど。
そういえば、さらに離れた場所で焚き火をしている様子が見えた……そこでお湯を沸かしたりしているんだろう。
焚き火後の灰とかは、肥料になるだろうからまだ種すら飢えていない畑区画であれば、自由に使い放題ってわけかな。
「わかっておるよ。おっと……リク殿。立ち話もなんだから、座って寛ぎながら話そうではないか。結界の境目の確認も済んでおらんし、フィリーナ殿もまだ戻っておらんからな。そういえば、リク殿は酒もいけるくちか?」
「いえ、お酒はちょっと……そうですね、立派なセットがあるのでせっかくですし、寛がせてもらいます」
お酒にはいい思い出がないからね……この世界に来るまで飲んだ事がなかったし、今のところ特に飲みたいとは感じないため、断りながらシュットラウルさんの向かいに座る。
アマリーラさん達は同じ席に付かず、近くで待機するようだ――。
0
お気に入りに追加
2,153
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
目覚めれば異世界!ところ変われば!
秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。
ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま!
目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。
公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。
命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。
身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~
暇人太一
ファンタジー
大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。
白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。
勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。
転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。
それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。
魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。
小説家になろう様でも投稿始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる