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国内視察に出る幼い次期女王陛下
しおりを挟むシュットラウルさんの言う姉さんが聡明とかって話は、前世の日本にいた頃の知識があったからだろうと思う。
早い話、姉さんは十歳にもならない頃すでに、日本で二十年近く生きた頃の知識と記憶があるわけだ。
三十年近く生きているとも言えるわけだから、大人を唸らせる事が出来てもおかしくはない。
「聡明な陛下は、国内の事をよく知るために国中を見て回る事を考えられたのだが……まだ幼い方にそのような事が許可されるはずもない。当時の陛下はもちろん反対、一部の貴族も反対したな。まぁ、即位してからの方が、王都を離れられなくなるので、今思うとあの時だからこそできたのだろうと思えるが」
「確かに、護衛とかも必要ですし、魔物と遭遇する事もありますからね。比較的安全な街道だけを進むとしても、幼い女の子が国中を見て回るのは、難しいです」
「うむ」
国王の娘、国の最重要人物だ。
当然ながら不届きな事を考える輩がいる可能性もあるし、そもそも魔物に襲われる危険だってある。
父親である前国王様でなくても、反対するのは当然だろう。
「その時の反対した一部の貴族は、今はもういないのだがな。結果を見ると、あの時現陛下が国を見て回るという判断は正しかったのだろう」
「一部の貴族がいないっていうのは、どうしてですか?」
「それはだな……」
反対した一部の貴族は、不正をしていたり民を虐げて私腹を肥やしている貴族もいたらしい。
次期女王陛下、国王陛下の娘が領地まで見に来られたら、隠していた事もバレてしまう恐れがあるため、反対したのだとか。
まぁ、結果的に姉さんの視察の旅は実現して、それらの貴族の不正などが暴かれて爵位剥奪や、処罰される事になったのだとか。
ちなみに、不正していた貴族の中でさらに一部、隠し通せたのもいたらしいけど、それはバルテルと繋がっていて王城での凶行が行われた後、処罰されたらしい。
だから、今国内に現存している貴族は、不正を嫌い、民に慕われるような領地運営をしている人達ばかりが残った……という事だ。
姉さんに聞かないと真意はわからないけど、その行動が国全体の健全化につながったとして、現在も女王陛下を慕う人が多い理由の一つになっているのだとか。
「私は国の東にある領地、王都以上に距離がある貴族領地に対しては何もできん。噂程度なら聞いていたのだが……良い機会だと思ってな。私も含め、いくつかの貴族は現陛下の案に賛成した」
「それで、視察が実現したのですか?」
「いや、さすがに当時の陛下が反対していたからな。貴族同士で反対だ賛成だと言っていても、どちらかに傾く事はない。最終的には、現陛下本人が説き伏せたのだよ」
「本人が……」
姉さんならあり得るか……日本では政治に興味を持っていたし、実は弁論大会とかにも出ていた事もあった。
無理無茶無謀を我が儘で通すわけではないし、できる限り安全の旅になるように考えながら、反対している相手を説得する事だってできそうだ。
「前陛下は渋々だったがな。まぁ、その時最後まで強硬に反対していた貴族を怪しんで、積極的に調べたところ、不正などが見つかったわけだが……あれは、時勢を見ずに自分の事しか考えられなかった者の末路だな」
「自分の事しか考えていないから、領民を虐げたり不正をして私腹を肥やそうとする物でしょうけどね、ははは……」
面白そうに笑いながら話すシュットラウルさん。
まぁ、領民を虐げていたり、不正を働いていた貴族が暴かれていい気味……と言ったところだろう。
「その時、現陛下が視察の安全を確保するために、冒険者を重宝したのが、今国と冒険者ギルドの良好な関係に繋がっているのだ」
「そうなんですか?」
「その頃は、今ほど冒険者と協力する事が少なくてな。魔物の討伐でも、国の正規兵と冒険者がにらみ合う事だってあった。協力とは言い難い状態だったのだ」
「へぇ~」
今は、冒険者が魔物を討伐して、兵士さん達は人の住む場所を守る……といった住み分けみたいな事ができている。
街や村にまで魔物が来たら、兵士さんも戦うけど。
協力関係にあるからこそ、ヘルサルにゴブリンが押し寄せて来た時、一緒に戦う事もできたからね。
「視察団、まぁ王家の娘が旅に出るのだ、護衛を含めて大きな一団になるのは仕方ない。その時に、私も一部同行し、兵士を連れて護衛させて頂いたがな。ともかく、現陛下は冒険者との協力関係を強化する方法を考えた。早い話が、依頼と報酬を用意したわけだな」
「冒険者は、基本的に依頼を受けて、報酬をもらうために働きますからね」
「うむ、その通りだ。冒険者からも一部依頼を出して護衛に加わらせ、その際に兵士へ魔物の知識などを教えてもらう……という個人的とも言える依頼も出したのだ。結果は、兵士と冒険者の間で魔物に対する知識が共有されて、スムーズに討伐する事が可能になる」
協力関係と言えないそれまでだったら、兵士さん達は知っていても冒険者さん達は知らない知識があったんだろう……逆もしかりだ。
情報を共有する事で、協力して魔物の討伐をするようにもなり、良好な関係にというわけだろうね。
「まぁ、かなり話が逸れてしまったが……私が陛下のためにと思う理由だな」
「そういえばそうですね」
シュットラウルさんが姉さんのために、と思う理由を聞いたのに、冒険者と国の関係改善について話していた。
まぁ、俺は話が聞けて楽しかったけど。
「あれは、そうだな……陛下が国の南側へ視察に行った時の事だったか。私も兵を連れて同行していたのだが、その時に魔物の襲撃にあった村があってな」
「魔物の……その村はどうなったんですか?」
南側という事は、南西にあるクレメン子爵領の隣かな。
そういえば、前に戦争に関して姉さんと話していた時に、それっぽい話を少しだけ聞いたっけ。
「我々が到着した時には既に壊滅、数百人いたはずの村も生残りは数人だった……」
「……」
被害数に関しては、俺が拘わった魔物の大群から想定されるだろう、被害の数より少ない。
けど、それでも数百人がたった数人になると聞いただけで、言葉を失ってしまう俺。
「その村は、比較的魔物が少ない地域にあったため、戦える者が少ない村でな。魔物がいないわけではないが、時折領主から派遣される兵士の見回りや、近くの街にある冒険者ギルドに依頼を出して、魔物の討伐をしていたのだ。だが……」
話している途中、一旦言葉を切って苦虫を噛みつぶしたような表情になるシュットラウルさん。
きっと、その時見た状況を思い出しているんだろう。
ロ―タ君の村と状況が似ているなと、俺は以前の事を思い出した。
あの時、ロ―タ君とその父親が命を懸けて王都の冒険者ギルドへ、そして俺達と会っていなかったら、同じ事になっていたのかもしれない。
グリーンタートルはまだしも、リザードマンやビッグフロッグがあれだけいたら、村一つくらいひとたまりもなかっただろう。
戦える人がほとんどいない村でもあったわけだし――。
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