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暇を見つけて冒険者ギルドへ
しおりを挟む俺が部屋でのんびりお茶を飲んでいるのとは別に、姉さんはエフライムと一緒に昼食や夕食を俺の部屋で食べる以外、昨日の俺からの報告やクラウリアさんの事で忙しそうにしていた。
姉さんとエフライム、最近はよく一緒に行動する事が多いなぁ。
エフライムは、次期子爵家の当主として政治に関して勉強するためらしいけど。
さらにその翌日、俺が王都に戻ったと聞きつけたエアラハールさんが訪ねて来る。
今日になったのは、モニカさん達が城下町でエアラハールさんと会って、話したかららしい。
「さて、しばらく見ない間になまっていないか、見ておこうかの」
「よろしくお願いします」
モニカさん達も集まって、エアラハールさんの指導。
半月以上、王城を離れていたから久しぶりだなんて考えながら、剣を振る。
ヴェンツェルさんの指示なのか、いつもより兵士さんの数が多いように思える訓練場で、素振りや模擬戦をこなす。
なんとなく、こちらを見ている目が多いなぁと思いつつ、エアラハールさんに集中しろと激を飛ばされたりもした。
一応、ヘルサルに行っている時もエルフ村に行っている時も、夜などの空いた時間に素振りは最低限やっていたから、なまってはいない……良かった。
ただ、何本か持たされたボロボロの剣を使う機会がなかったので、エアラハールさんにもっと積極的に魔物へ突撃しろと言われたりしたんだけど。
のんびりする目的もあってヘルサルに行ったんだし、依頼を受けたわけでもないし、そんな好戦的な日常を過ごしてはいないと思いたいので、苦笑しながら機会があれば、とだけ言っておいた――。
――さらに翌日、研究に没頭してほとんど顔を見せないアルネやフィリーナの安否をヒルダさんに確かめてもらいつつ、エアラハールさんの指導を受けた後、昼過ぎに城下町へ。
……なんだか、昨日よりも兵士さんが訓練場に多くて、さらによく見られていた気がするけど……隠すような事じゃないから別にいいか。
「マティルデさんの用ってなんなんだろうね?」
「さぁ……私にはわからないけど、緊急じゃないのだから大した事はないのかもしれないわね」
「とはいえ統括ギルドマスターだからな。用があると言付かっておきながら、話を聞きに行かないというわけにはいかないだろうな」
頭にくっ付いたエルサを撫でつつ、冒険者ギルドに向かいながらモニカさんやソフィーと話す。
訓練後にエアラハールさんは、俺の部屋でのんびりお茶を啜っていて、ユノは外に出て来ないアルネ達の所へ突撃するとか言っていた。
エアラハールさんはともかく、研究の邪魔をしないようによかやり過ぎないようにとユノには注意しておいたけど……まぁ、ヒルダさんやフィネさんとか、他の人達もいるから大丈夫か
あと、ユノが昨日からエアラハールさんの訓練を受ける俺達や、訓練場にいる兵士さん達を見て、何やら考えている様子だった。
そっちは、訓練が終わったらすぐいつもの様子に戻ったから、そのうち話してくれるだろう。
「依頼はしばらく受けずに、のんびりするとは言ってあるから、別の事だとは思うんだけど……まぁ、行ってみればわかるか」
マティルデさんが、俺のいない間に王城へと尋ねて来た際に、何か用があるようだったので改めてこうして聞きに行こうとしているところだ。
依頼とは別の事かな? とも思うけど、冒険者ギルドが冒険者に用があるって大体依頼に関してだとも思ったり、よくわからないけどとにかく話を聞けばわかるかと、マティルデさんがいる中央ギルドへと向かった。
ギルドの建物の中へ入ると、以前来た時より人の数が増えているような、こちらを見る人が多いような気がしながら、変に絡まれたりしないようさっさと受付へ。
受付の女性、もとい副ギルドマスターのミルダさんがカウンターの内側にいたので、挨拶をしつつマティルデさんがいる奥の部屋へ案内してもらう。
途中、ロ―タ君の事を聞かれたけど……あれ以来オシグ村には行っていないから、特に話せる事はなくてミルダさんがしょんぼりしていた。
……エフライムに、子爵領の近況として話を聞けば、少しは何か聞けるかな? クレメン子爵がロ―タ君を見込んでいたし。
「失礼します、ギルドマスター、リク様達がいらっしゃいました」
「マティルデさん、お久しぶりです」
「おぉ、リク君! 私に会いに来てくれたのね!」
「……いえ、マティルデさんが俺に用があると聞いたので……」
「相変わらずつれないねぇ。まぁ、とにかく座ってちょうだい」
「はぁ……」
ミルダさんに案内されたいつも通される部屋……多分、ギルドマスターの執務室で、相変わらずの年齢不詳さで色気を振りまくマティルデさんに歓迎される。
隣にいるモニカさんがクラウリアさんを相手にする時に近いくらいの、不穏な気配を出していたけど……。
とりあえず、促されるままマティルデさんの向かい側へと並んで座る。
「リク君、単刀直入に聞くけど……クランを作る気はない?」
「クラン、ですか?――あ、ありがとうございます」
「いえ……ギルドマスター、それは率直過ぎます。それでは伝わらないかと。特に、アテトリア王国の冒険者には」
座ってすぐ、マティルデさんから用件を切り出される。
ただ、クランを作ると言われても、それが一体何なのかがわからない。
お茶を用意してくれたミルダさんにお礼を言いながら、両隣のモニカさんやソフィーを見ても、二人共首を傾げているのでよくわからないようだ。
「……そうね。ちょっと焦り過ぎたわ。――クランというのはね、早い話が冒険者が集まった集団の事よ。ギルドとは別……というか、一応冒険者であり冒険者ギルドには所属しているのだけど、一つの組織になった集団の事をクランと言うわ」
「組織、集団……」
「まぁ、今はパーティがあるでしょ? そのパーティをもっと大きくした感じかしら。複数のパーティを集めて、一つの集団や組織にしてしまうの。大規模な討伐依頼とか、複数の依頼を同時にこなす目的で作る事が多いわね」
「それは……作る必要があるんでしょうか?」
冒険者ギルドの下位組織と言えるのだろうか。
複数の冒険者、パーティが協力する事での利点は確かにあると思うけど、今のところそれが必要な程の大規模な依頼というのもないし、必要なのかよくわからない。
「アテトリア王国は、全体的に温和で平和。国とギルドとも相互協力されているから、大規模な討伐依頼が少なくて、クランというものもほぼ存在しないわ。だから、色んな街のギルドに行っても、王国内であればクランと聞く事は基本的にないわね」
「大規模な討伐に対しては、複数の冒険者パーティにギルドからの依頼、そして国の兵士が協力できるので、この国の中ではあまり必要性はないんです。……今までは」
「今まではって事は、これからは違うんですか?」
「どうかしら……その辺りは預言者でもないからわからないわ。ただね、リク君が今までしてきた事。ヘルサルのゴブリン、王都への魔物、ルジナウム……ブハギムノングでもそうね。まぁ、王都への魔物は突発的だったから、事後処理として依頼にするくらいしかできなかったけど」
王都というか、王城へ突然魔物が殺到してきたから、指名にしろなんにしろ依頼を出したり受けたりする暇はなかったのは確かだ。
あの時は、魔物と戦った冒険者に後々、緊急討伐依頼に対応したとして報酬が出ていた。
マティルデさんも言っているように、事後処理だね。
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