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表向きは冒険者ギルドを装う裏ギルド
しおりを挟む「裏ギルド……中々、根が深そうですね……」
表立っては、通常の冒険者ギルドとして動いているのだから、何も知らない人やそこらの冒険者が調べようとしても調べられないだろう。
しかも、元々冒険者ギルドとして機能していた支部がとなれば、装うどころか表向きはちゃんとした冒険者ギルドなのだから、外側からは調べようがない。
「はい。もしそのような事に手を出していると怪しまれた場合、本部から監査の者が送られてくるのです」
「それじゃあ、帝国の冒険者ギルドには、その監査をする人が?」
「いえ……まだ噂の域を出ないので、送られていません。まぁ、時間の問題だとは思いますが……その組織や帝国との拘わりがあるとしたら、隠蔽される可能性も……最悪の場合、監査の者が取り込まれる恐れすらあります」
「結局、冒険者ギルド側から調べるだけでなくて、大元の組織の方を潰さないと、って事ですね」
「そうなります。とはいえ、全く効果がないとは言えないので、私から本部や帝国のギルド支部には働きかけてみます。もしかしたら、ほんの少しでも情報が得られるかもしれませんし……各方面から調べるべき事でしょう」
「そうですね……お願いします」
監査をするための人が取り込まれたら、ヤンさんの言う通り本当に最悪だ。
その場合、何もなかったと報告されるだろうし、疑ったこちらが怪しいとも言われるかもしれない。
ともあれ、様々な方面から調べたりつつく事で、多少なりとも情報が得られる可能性もあるし、向こうが焦って馬脚を現したら儲けもの………。
とりあえず、冒険者ギルド本部などには、ヤンさんの権限が及ぶ範囲で働きかけてくれるようなので、ありがたい。
本来は一介の冒険者であるはずの俺が、ありがたく思ったり、こういう事をお願いするのはおかしな話でもあるけどね。
……冒険者というだけでなく、アテトリア王国の深くまで拘わっちゃったから、この国の人達が脅かされる事柄は手の届く範囲で対処したい。
「はい。何かわかれば……えっと、リクさんはしばらくヘルサルに?」
「あ、いえ。王都に戻ろうと思います。今回の話もそうですけど、エルフの集落での事もありますから。それに、クラウリアさんを王城に引き渡すように頼まれましたから」
今日中にというわけではないけど、できるだけ早くクラウリアさんを王城に引き渡さないといけないからね。
一日や二日くらいなら、多分ヘルサルにいられるけど、しばらくと言える程は滞在できないと思う。
「それでしたら、王都の統括ギルドの方へ連絡をする事にします」
「よろしくお願いします」
ヤンさんの方で何かわかれば、統括ギルド……マティルデさんの所に連絡をすると約束してくれる。
また、こちらの方でわかった事があれば、ヤンさんにも教えると約束……ただし、姉さんというか国との関係もあるから、教えられる範囲でだけど。
何も言っていないけど、この辺りはヤンさんもわかってくれているようで、教えられる範囲でと言ってくれた。
「あ、話は変わりますけど……ユノが壊した部分の修理費用は……」
「あぁ、それでしたらお気になさらず。こちらで対処しておきます。爆破をしようとした者を阻止するためですからね、やりすぎとは思っても、ユノさんやリクさんを責める事はありません」
「そうですか……良かった」
修理費用くらいならなんとかなるけど、皆のために動いたユノが責められるのはちょっとな。
まぁ、本人はあまり気にしそうにないし、アルネから注意という名のお願いをされただけだけども。
「そういえば、ユノではないですが、いくつかの家が壊されていたようです。そちらは? 冒険者ギルドの役割とは違うでしょうけど……あぁ、片付けなどの依頼は来そうですね」
「まぁ、そういった依頼が来たら、各冒険者に受けさせます。ですけど、特に被害といった被害はないようですね……先程指示をしている際に、確認に走らせた者からの報告を受けました」
ソフィーからの問いに答えるヤンさん。
確かに、冒険者ギルド近くでは何軒かの家が壊されていて、そこに住んでいた人達が大きな被害を受けたんじゃないか、と気になっていた。
「被害はない、というのはどういう? 実際に建物がほとんど倒壊しているようなのも、ここに来るまでに見ましたけど」
「全てではありませんが、爆破を受けた建物のほとんどが、元々人の住んでいない建物だったようです。本来家に住んでいた者が、新しい家に建て替えようとしていたりとか、事情があって別の場所に移り住んでいた、とかですね」
「つまり、本来壊されるのを待つばかりの建物だった、というわけですか?」
「そのようです。どうしてそういう建物を狙ったのか……偶然にしてはでき過ぎな気もしますが」
もしかしたら、これはクラウリアさんが部下に人への被害を出さないように……と命令したからだろうか?
人が住んでおらず、壊されるのを待つばかりの建物であれば、爆破をしても人的被害はさらに少なくなる。
というより、壊され待ちの建物だからむしろ手間が省けるだけだ……まぁ、取り壊しにも順序があるから、迷惑と言えば迷惑なんだろうけど。
「もしかしたら……」
「ふむ、成る程。人的被害は減らすようにとの命令ですか……」
「それは、信じられるのか?」
「心から信じるられるかは断言できないけど、これだけ人に対して被害が出ていないのを見ると、本当の事だと思うよ、ソフィー」
クラウリアさんが部下に対して出した命令の話を伝え、頷くヤンさんに懐疑的な様子のソフィー。
でも、ここまで多少怪我をした人がいる、とは聞いても重傷を負ったり死んでしまった人の話を聞かないので、信憑性はあると思っている。
もしかしたら、一番重傷を負ったのはユノにやられた工作員なのかもしれない。
あと、俺が言ったら魔法で合図をして、本当に各地の爆破工作が収まったからね……おっと、その事も二人に伝えないと。
「命令系統はしっかり機能していたという事ですね。ある程度は信用してもいいのかもしれません」
「まぁ、今はモニカさんに怒られている最中なので、嘘を言っていても、本当の事を話す気になるかもしれません。とにかく、クラウリアさんが話した事の真偽は、王城に引き渡してから確認でしょうけど」
「そうですね。マリーさん譲りであれば、相当な説教が行われていそうです。……魔力を与えられ、異常な魔力量を持ち強力な魔法を扱う。冒険者ギルドでも押さえるのは苦労しそうですから、リクさんが連れて行くのが一番でしょう」
「あはは、そうですね……」
獅子亭を出る前のモニカさんは、マリーさん以上の迫力を感じたけど……それでクラウリアさんが嘘を言っていたりしても、心が折れて正直に話すかもしれない。
あくまでこれまでの中で嘘を言っていたらだし、話された事が本当か嘘かは、俺じゃなく王城で判断してもらう方がいいだろうけどね。
俺も話を聞くけど、相手が相手なので油断せず、信用し過ぎないように気を付けるくらいかな――。
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