上 下
919 / 1,903

表向きは冒険者ギルドを装う裏ギルド

しおりを挟む


「裏ギルド……中々、根が深そうですね……」

 表立っては、通常の冒険者ギルドとして動いているのだから、何も知らない人やそこらの冒険者が調べようとしても調べられないだろう。
 しかも、元々冒険者ギルドとして機能していた支部がとなれば、装うどころか表向きはちゃんとした冒険者ギルドなのだから、外側からは調べようがない。

「はい。もしそのような事に手を出していると怪しまれた場合、本部から監査の者が送られてくるのです」
「それじゃあ、帝国の冒険者ギルドには、その監査をする人が?」
「いえ……まだ噂の域を出ないので、送られていません。まぁ、時間の問題だとは思いますが……その組織や帝国との拘わりがあるとしたら、隠蔽される可能性も……最悪の場合、監査の者が取り込まれる恐れすらあります」
「結局、冒険者ギルド側から調べるだけでなくて、大元の組織の方を潰さないと、って事ですね」
「そうなります。とはいえ、全く効果がないとは言えないので、私から本部や帝国のギルド支部には働きかけてみます。もしかしたら、ほんの少しでも情報が得られるかもしれませんし……各方面から調べるべき事でしょう」
「そうですね……お願いします」

 監査をするための人が取り込まれたら、ヤンさんの言う通り本当に最悪だ。
 その場合、何もなかったと報告されるだろうし、疑ったこちらが怪しいとも言われるかもしれない。
 ともあれ、様々な方面から調べたりつつく事で、多少なりとも情報が得られる可能性もあるし、向こうが焦って馬脚を現したら儲けもの………。
 とりあえず、冒険者ギルド本部などには、ヤンさんの権限が及ぶ範囲で働きかけてくれるようなので、ありがたい。

 本来は一介の冒険者であるはずの俺が、ありがたく思ったり、こういう事をお願いするのはおかしな話でもあるけどね。
 ……冒険者というだけでなく、アテトリア王国の深くまで拘わっちゃったから、この国の人達が脅かされる事柄は手の届く範囲で対処したい。

「はい。何かわかれば……えっと、リクさんはしばらくヘルサルに?」
「あ、いえ。王都に戻ろうと思います。今回の話もそうですけど、エルフの集落での事もありますから。それに、クラウリアさんを王城に引き渡すように頼まれましたから」

 今日中にというわけではないけど、できるだけ早くクラウリアさんを王城に引き渡さないといけないからね。
 一日や二日くらいなら、多分ヘルサルにいられるけど、しばらくと言える程は滞在できないと思う。

「それでしたら、王都の統括ギルドの方へ連絡をする事にします」
「よろしくお願いします」

 ヤンさんの方で何かわかれば、統括ギルド……マティルデさんの所に連絡をすると約束してくれる。
 また、こちらの方でわかった事があれば、ヤンさんにも教えると約束……ただし、姉さんというか国との関係もあるから、教えられる範囲でだけど。
 何も言っていないけど、この辺りはヤンさんもわかってくれているようで、教えられる範囲でと言ってくれた。

「あ、話は変わりますけど……ユノが壊した部分の修理費用は……」
「あぁ、それでしたらお気になさらず。こちらで対処しておきます。爆破をしようとした者を阻止するためですからね、やりすぎとは思っても、ユノさんやリクさんを責める事はありません」
「そうですか……良かった」

 修理費用くらいならなんとかなるけど、皆のために動いたユノが責められるのはちょっとな。
 まぁ、本人はあまり気にしそうにないし、アルネから注意という名のお願いをされただけだけども。

「そういえば、ユノではないですが、いくつかの家が壊されていたようです。そちらは? 冒険者ギルドの役割とは違うでしょうけど……あぁ、片付けなどの依頼は来そうですね」
「まぁ、そういった依頼が来たら、各冒険者に受けさせます。ですけど、特に被害といった被害はないようですね……先程指示をしている際に、確認に走らせた者からの報告を受けました」

 ソフィーからの問いに答えるヤンさん。
 確かに、冒険者ギルド近くでは何軒かの家が壊されていて、そこに住んでいた人達が大きな被害を受けたんじゃないか、と気になっていた。

「被害はない、というのはどういう? 実際に建物がほとんど倒壊しているようなのも、ここに来るまでに見ましたけど」
「全てではありませんが、爆破を受けた建物のほとんどが、元々人の住んでいない建物だったようです。本来家に住んでいた者が、新しい家に建て替えようとしていたりとか、事情があって別の場所に移り住んでいた、とかですね」
「つまり、本来壊されるのを待つばかりの建物だった、というわけですか?」
「そのようです。どうしてそういう建物を狙ったのか……偶然にしてはでき過ぎな気もしますが」

 もしかしたら、これはクラウリアさんが部下に人への被害を出さないように……と命令したからだろうか?
 人が住んでおらず、壊されるのを待つばかりの建物であれば、爆破をしても人的被害はさらに少なくなる。
 というより、壊され待ちの建物だからむしろ手間が省けるだけだ……まぁ、取り壊しにも順序があるから、迷惑と言えば迷惑なんだろうけど。

「もしかしたら……」
「ふむ、成る程。人的被害は減らすようにとの命令ですか……」
「それは、信じられるのか?」
「心から信じるられるかは断言できないけど、これだけ人に対して被害が出ていないのを見ると、本当の事だと思うよ、ソフィー」

 クラウリアさんが部下に対して出した命令の話を伝え、頷くヤンさんに懐疑的な様子のソフィー。
 でも、ここまで多少怪我をした人がいる、とは聞いても重傷を負ったり死んでしまった人の話を聞かないので、信憑性はあると思っている。
 もしかしたら、一番重傷を負ったのはユノにやられた工作員なのかもしれない。
 あと、俺が言ったら魔法で合図をして、本当に各地の爆破工作が収まったからね……おっと、その事も二人に伝えないと。

「命令系統はしっかり機能していたという事ですね。ある程度は信用してもいいのかもしれません」
「まぁ、今はモニカさんに怒られている最中なので、嘘を言っていても、本当の事を話す気になるかもしれません。とにかく、クラウリアさんが話した事の真偽は、王城に引き渡してから確認でしょうけど」
「そうですね。マリーさん譲りであれば、相当な説教が行われていそうです。……魔力を与えられ、異常な魔力量を持ち強力な魔法を扱う。冒険者ギルドでも押さえるのは苦労しそうですから、リクさんが連れて行くのが一番でしょう」
「あはは、そうですね……」

 獅子亭を出る前のモニカさんは、マリーさん以上の迫力を感じたけど……それでクラウリアさんが嘘を言っていたりしても、心が折れて正直に話すかもしれない。
 あくまでこれまでの中で嘘を言っていたらだし、話された事が本当か嘘かは、俺じゃなく王城で判断してもらう方がいいだろうけどね。
 俺も話を聞くけど、相手が相手なので油断せず、信用し過ぎないように気を付けるくらいかな――。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ  どこーーーー

ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど 安全が確保されてたらの話だよそれは 犬のお散歩してたはずなのに 何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。 何だか10歳になったっぽいし あらら 初めて書くので拙いですがよろしくお願いします あと、こうだったら良いなー だらけなので、ご都合主義でしかありません。。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...