上 下
915 / 1,903

怒れるモニカさん

しおりを挟む


「まぁ色々事情はわかったわ。通常ではあり得ない魔力量を持っていて、強力な魔法を使い、以前は帝国の組織にいたって事。そして、今回の街での騒動の原因というか仕掛けた本人で、捕まえたはいいけど、街側で安全に捕まえておく事が難しいから、リクさんが王都へ連れて行く事になったってわけね」
「随分説明口調だけど……そうだね」

 モニカさんがクラウリアさんの事をまとめて、説明と共に理解を示す。
 ただ、その雰囲気は何かを我慢するというか、爆発する寸前みたいな、危うい雰囲気が……。

「でも、でもね……」
「モ、モニカさん?」
「……何この人。プルプル震えていますよ?」
「っ! どうして! どうしてさっきから、リクさんにまとわりつこうとしているのかしら!?」
「……う、うぅむ……」

 何かに耐えるように、両手で拳を作ってテーブルに置き、俯いてプルプル震えるモニカさん。
 そんな中、クラウリアさんが震えているのをキョトンとして、俺に報告と疑問を投げかけた瞬間、爆発した。
 モニカさんが、両手の拳をテーブルに打ち付け、ドンッ! という音と共に立ち上がって叫ぶ!
 獅子亭のテーブルは、荒い客が来る事もあって丈夫な物なので壊れなくて良かったけど、一瞬だけ大きくゆがんだように見えたのは俺の気のせいなのか……。

 いや、壊れなくて安心している場合じゃないな。
 マックスさんは腕を組んで目を閉じ、小さく唸ってこめかみから汗を流し、フィネさんは何も言わずススス……と椅子を話して距離を取った。

「モ、モニカさん落ちつ……」
「落ち着いてなんていられないわよ! 今はリクさんから距離を離しているけど、さっき! 座る前! 横から全力で抱き着いていたわよね!?」
「ま、まぁそうなんだけどね……」

 そうなのだ、説明している間も少し不穏な雰囲気にはなっていたんだけど、その原因は皆でテーブルに着く時の事。
 俺が油断してしまった瞬間……というか座ろうとした瞬間、手探りで結界の大きさを把握したクラウリアさんが、体を迂回させて俺へと勢いよく抱き着いたのだ。
 気を付けていれば、ここに来るまでもそうだったんだけど、結界を動かして防いだんだけど……マックスさんやモニカさんの無事を確認して、気が抜けてしまっていたらしい。

 その場はすぐに引き離し、改めて結界で阻んでおいて、さらに椅子へ縛り付けているため、先に事情の説明ができたわけだけど……。
 それでも俺へ近寄ろうとするクラウリアさんの様子や、とどめに空気の読めない一言……耐えていたモニカさんをこの人扱いした事などが原因で、噴火してしまったのだと思う。

「英雄様の忠実なしもべなの、くっ付くのも当たり前ですよ?」
「しもべ……リクさん……一体どういう事かしらぁ?」
「え、ええっと……とりあえず捕まえようと思って、戦意喪失して欲しくて魔法を使ったんだけどね……」

 何がどうしてそうなったのか、俺のしもべだとかのたまうクラウリアさん……空気読んで! というか口を閉じてて!。
 立ち上がったまま、目を見開いて座っている俺を見下ろし、ゆらりと首を傾げるモニカさんの迫力は、マリーさんが怒ったり誰かを鍛える時以上だ。
 いや、ルジナウムで群れとなして迫って来ていた魔物の大群よりも、恐ろしいかもしれない……。

「まぁ、リクさんはいいわ。事態に対処しようとしてやった事みたいだから。……リクさん優しいから、人が相手だとできるだけ傷付けないようにしていもの。野盗相手だって、動けなくするくらいだし……ツヴァイの時だって……あれは、事情を引き出すためだったかしら?」
「えぇっと……とりあえずクラウリアさん?」
「はい、なんでしょうか? 二人でどこか遠くへの逃避行ですか? もちろん、私は英雄様と一緒であれば、どこへなりとも行きますよ!」
「いや、そうじゃなくて……」

 モニカさんに、クラウリアさんを捕まえた時の状況などを説明すると、なんとか納得してくれた様子……まだ、眉根を寄せてブツブツ呟いているけど。
 ともあれ、マックスさんは目を閉じて汗を流すだけで助けてくれなさそうだし、このままで収まるかわからなかったので、クラウリアさんを差し出す事に決めた。
 名前を呼ぶと、飛躍した返答をされる……モニカさんの様子も気にしていないようだけど、少しくらいは空気を読んで欲しいかなぁ……。
 
「モニカさん、どうぞ。存分に、なんでも聞いて」
「え? お? あれぇ?」

 クラウリアさんと俺の間にある結界を操作し、新たに作ったりもして、クラウリアさんの全身を包み、モニカさんの前へと差し出す。
 強制的に体を動かされたクラウリアさんは、戸惑う声を出すだけだけど……貴女の行動や言動が原因なのだから、なんとかして欲しいところだ。

「ふふふふ……」
「何、この迫力!?」
「生贄、か……」
「マックスさん、変な事言わないで下さい。モニカさんが怒っているのは、クラウリアさん相手ですから。それなら、じっくり話した方がいいと思っただけです」

 モニカさんが何やら陽炎のような、怒りのオーラみたいなものがゆらゆらと出しながら、差し出したクラウリアさんの両肩をガシッと掴む。
 まぁ、陽炎のようなのは幻覚なんだろうけど。
 ともかく、それを見てポツリとマックスさんが呟く。
 けどさすがに、本人に反省や弁解してもらいたいから差し出しただけであって、そんな生贄なんて……。

「物は言いようだが……しかし、先程からの言動を考えると悪手に思えるぞ? そもそもリク、なんでモニカが怒っているのか、わかっていないだろう?」
「え? クラウリアさんが、今回の騒動を起こした張本人なのに、気にせず反省した様子がないから……ですよね?」
「……はぁ……」
「え?」

 さらにマックスさんから、今回モニカさんが怒っている理由を聞かれて考えている事を答えたら、溜め息を吐かれた。
 さらに何やら、モニカさんの方から陽炎のような何かが、さらに強まった気がする……。
 あれ、違うの?

「あのー、英雄様? わ、私どうなっちゃうんでしょうか?」
「今回の事を反省して、モニカさんにしっかり謝る事。……マックスさん、俺は冒険者ギルドの方に向かったソフィー達が気になるから、様子を見てきます。あちらにも話しておいた方がいいでしょうから」
「まぁ、そうなんだが……逃げるのか?」
「逃げるのだわ? でも、ここはその方が良さそうなのだわ」
「……クラウリアさん、もし魔法を使ったりとか、変な事をしようとしたら……わかっていますね?」

 マックスさんに溜め息の理由を聞きたかったけど、モニカさんに捕まれているクラウリアさんが情けない声を出しているので、そちらの対応。
 ついでに、冒険者ギルドの方を任せたソフィー達の事を思い出したので、そちらに行く事も決める……忘れてはいなかったよ、うん。
 ヤンさん含めて、あちらでも色々説明しておかないといけないだろうし。

 モニカさんを落ち着かせるのは、俺には難しそうなので、マックスさんやエルサが呟いた言葉は聞かなかった事にして……念のため魔力を滲み出させて、脅しをかけておく。
 大丈夫だと思いたいけど、俺が離れた際にクラウリアさんが無暗に魔法を使ったら、獅子亭やマックスさん達が大変な事になるからね。

「ぴぃ! は、はい! わかりました!……前面には何やら恐ろしい迫力、後ろからは英雄様の魔力……どうしてこんな事に……」

 どうしたこうなったかは、クラウリアさん本人が一番わかっているはずだけど……。


しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...