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暖房魔法具メタルワーム
しおりを挟む「これは仮説だが、自然魔力というものがあるだろう? 我々は当然のように使っている、魔法を使うために集めている魔力だ。それらは空気に溶け込んで、我々がこうしている周囲にも満たされている」
「うむ。……自然魔力が関係して、空気というものが色々な働きを見せているのだと? いやしかし、魔力は消費されるものだ。魔力が多く必要な魔法を使えば使う程、周囲の魔力は希薄になる。だがしかし、空気も我々が呼吸をする事で消費されるのだとしたら……?」
「ふっ……」
あ、アルネがこれはもらった! と言わんばかりに笑っている。
さっきまで、暖房魔法具の研究を教えるのを渋っていたはずのエクスさんは、今空気に関しての考えに没頭しているようで、傍から見ても確実に興味を示しているとわかる状態だ。
「魔法と魔力は切っても切り離せない。そして、空気と魔力もだ。我々エルフだけでなく、人間や獣人までも必要としている空気の存在……気にならないか?」
「……成る程な。空気の研究、確かに果てしなく雲を掴むような、どう考えればいいかすら想像が付かない事だが……」
「だからこそ、やりがいがある……違うか?」
「その通りだ……」
あ、これは完全にアルネの術中にはまったね。
まぁ、エクスさんが誰も解き明かしていない事柄に興味を持ちそうだから、最初からこうなる事は必然だったのかもしれない。
あと、こっそりアルネがエクスさんから見えないように、右手を握ったのが見えた……ガッツポーズかな、多分勝利を確信したからだろう。
……勝負ではないと思うけど。
「どうだ? 研究する気になったか?」
「……暖かい空気が上へ行くのであれば、その時上にあった空気は下に下がるという事か? ふむ、空気の循環とはそうして行われるとも言えるのかもしれないな……だが、これに関しては本当に暖かいのか冷たいのかを判断する必要がある。体感なぞ、不確定な感覚を元にしていては、照明する事すら難しいだろう。だが……いや、あれを使えば? しかし……」
「はぁ……すっかり取りつかれたようになってしまったな」
「みたいだね……」
改めてアルネが問いかけるけど、エクスさんの耳には入らないようで、ブツブツと呟きながら温度差による空気の上下に対する考えに没頭していた。
溜め息を吐くアルネに同意して、気に入ってくれたというか興味を持ってくれたなら、暖房魔法具の研究への興味が薄れてくれているだろうと思う。
とりあえず、温度を測る何かについても考えているようだから、温度計についても教えた方がいいかな? と思ったけどやめておいた。
デジタルは当然無理だし、水銀があるかどうかもわからないしな……そもそも、全て自分で研究していかなければ気が済まないようにも見えるので、余計な助言は必要ないだろう。
俺自身、水銀を使って……というのを聞いた事があるだけで、簡単な仕組みらしいけど実際の温度計の作り方は知らないからね。
受け入れてくれるかもあるけど、変に助言をして惑わしてしまってはいけないし、エクスさんは何やら思い当たる物があるみたいというのもある。
「しかし、さすがにずっとこのままというのはな。目的はエクスに新しい研究をさせるためではないのだから」
「そうだね。でも、聞いてくれるかな? 自分の考えに没頭して、俺達の事は完全に忘れているみたいだけど?」
「なに、こうすればいい。マスウィンド!」
「そうだな、あれを試してみ……ごふっ!」
「あ、アルネ?」
「大丈夫だ。魔法で空気の塊をぶつけただけだから、怪我はない」
「いや、怪我はないだろうけど……エクスさん、盛大に痛がっているんだけど……」
声をかけても気付かない状態だから、本来の目的をどうしようかと考えていたら、突然アルネが魔法を使ってエクスさんを攻撃。
いつも魔物相手に使っている、風の刃とかではなく、塊をぶつけて衝撃を与えるだけみたいだけど、それでも結構痛そうな声を漏らしていた。
エクスさん、吹っ飛んだり座り込んだりはしていないけど、お腹を押さえて痛みで悶絶しているし……これで怒られて暖房魔法具の事は教えないって言われたらどうしよう?
「ゴホッゴホッ……はぁ……アルネ、何を……」
「エクスが俺達を放っておいて、没頭しているからだ。……同じ事が、以前から何度もあったが、相変わらずだな」
「むぅ……確かに、面白そうな研究だからついつい考え込んでしまっていたのは認めるが……」
「……同じような事が、何度もあったんだね」
咳き込んで、ようやく声を出せるようになったエクスさんが抗議するが、アルネは意に介さない様子。
というか、こんな事が何回もあったんだ……。
アルネも苦労しているなぁと思うべきか、エクスさんは研究ばかりなのに丈夫だなぁと感心するべきか……ある意味、二人のコミュニケーションなのかもしれない、と無理矢理考えておこう。
「それで、先程頼んだ魔法具の事だが……」
「あ、あぁ。そちらは勝手に使ってくれ。今の私は、空気というものに魅せられた愚かな研究者だ……」
あっさりと、暖房魔法具の研究を手放す事を承諾するエクスさん……それでいいんだ。
実際に魔法具を研究して完成と言えないまでも、実現させているんだから愚かな研究者とまではいわなくていいと思うけど、何やらエクスさんは新しい興味と研究を得た事に浸っているので、ただ言いたいだけなのかもしれない。
……ちゅう……いや、やめておこう……別に腕がうずく的な事を言い出しているわけでもないから。
「早く研究せよと、私の右腕がうずいて仕方ないんだ!」
うずくって言っちゃった!
「エクスの右腕はどうでもいいが、まずは魔法具をだな……忘れるなよ? 研究を欲しているのは集落を救ったリク。そして先程伝えた内容もリクからなんだ」
「あ、あぁ……リク様には、なんと感謝を申し上げればよいのか……」
「いや、魔法具さえあれば大丈夫なので、あはは……」
エクスさんがやっかいな症状を持っている事はともかく、ようやく暖房魔法具の研究について話せるようになった。
ちょっと集中力に欠いたエクスさんが、ツリーハウスの二階部分に行って、円形の板を持って来る。
「これが……空気を暖めるための魔法具、ですか?」
「はい、そうです。これはメタルワームと言って……」
円形の板は金属製で、鎧とかに使われる物とは違う素材のように見えた……何かの希少な金属なのだろうか? と思ったけど、実際は脆いだけで鎧などの素材に使われないだけで、ありふれた物だそうだ。
金属板は縦横一メートル程度の大きさで、上下に同じ金属で棒状の物が取り付けられているんだけど、それは持つためだったり、片方を地面に埋めて立たせるためらしい。
その金属板の内部に、魔力蓄積できる素材が混ざっており、魔力を注ぐことによって発動。
試してみてくれたが、赤く赤熱している金属板は触ったら簡単に火傷しそうな程熱そうで、安全性はいまいちっぽい。
さらに、そこから風も発生するようになっており、温風が吹いて空気の循環と共に室内を暖めてくれるようだ。
クールフトよりは効率が悪そうではあるけど、数個設置すれば広い場所でも暖める事はできそうだね。
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