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冷やす魔法具研究をしているエルフ

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「なにも走りながら『リク様ーのためー!』とか言わなくていいんじゃないかな? そもそも、走る事がどうして俺に繋がるのかわからないし……」
「まぁ、それはそうなんだが……リクへの恭順の意思を強固にするため、とかだろう。いや、そう考えておかないと我々エルフが長年あの長老達に従って来ていた事すら、むなしくなるからな」
「……そうだね」

 叫んでいる内容はともかく、集団で走りながら声を揃えていたので、慣れるくらい何度もやっている事なんだろう。
 ともあれ、これまでの集落の歴史を考えてしまうようになるので、アルネのために別の話題にする事にした。


「ここかぁ。いたって普通の家に見えるけど?」
「リクは研究をするのに、特別な場所が必要だと考えていないか? まぁ、特殊な環境が必要な研究もあるだろうが、基本的にこの集落では魔法の応用が主体の研究だからな。全てではないが、なんの変哲もない家で研究をしている事が多いぞ」
「そうなんだね。まぁ、今まで見た研究室というか、研究していた環境が特殊だっただけか」

 人間とエルフが仲良く穏やかに過ごしている集落の中を歩き、一軒の家の前に辿り着く。
 その家は、他の家と外観的には変わりなく、単身用というよりは大きくファミリー用としては小さいくらいの平屋だ。
 一人で研究するには少し大きいのは、共同で研究するエルフさんも入れるようにと、単身者が生活するだけのスペースだと、研究するのには狭いからだろう。
 ともあれ、その家を見て研究所というには家感が強いなぁと思って聞いたら、アルネからはこんなものだという反応が返ってきた。

 確かに、今まで見た研究所はブハギムノングの鉱山内だったり、ツヴァイの外観は家を装っていても不審な点が幾つかあるような、人があまり来ない場所に建てられていたうえ、広い地下を利用してだったりと、特殊だった。
 研究内容もそうだけど、特殊な物を見てきたせいでそういう物だと思い込んでいたんだろう。
 大規模な実験をあまりせず、魔法を扱うために特殊な器具を必要としないから、特別な建物にする必要はないんだろう。

「それじゃ、入るぞ」
「うん」
「……失礼する。カイツはいるか?」
「おや、アルネではないですか。……そう言えば、昨日のうちに集落に戻ってきていると聞きましたね。今日はどうしたのですか? アルネがわざわざ私の所に来るのは珍しいですね」

 入り口のドアをノックし、中からの返答を待ってから家へと入る。
 玄関を入って声をかけたアルネに反応したのは、すぐ右手側の部屋にいた男性。
 その男性がカイツというエルフさんだろうか? 例に漏れず美形なのはともかくとして、アルネより少し若い印象だ。
 不思議そうにこちらを見ながら、カイツさんは優雅に椅子に座ってお茶を啜っている……取っ手のない湯飲みのような物を使っているから、ちょっとちぐはぐな雰囲気。

「相変わらず、研究熱心とは言いかねる様子だな。まぁ、だからこその発想もあるのだろうが」
「ガツガツと集中し続ければ、良い研究ができるとは思いませんからね。一日で一定以上は研究に集中しないと決めていますから。っと……そちらは?」
「あぁ、こちらはリクだ。カイツも知っているだろうが……」
「初めまして、リクで……」
「おぉぉぉぉ!! リク様! 気付かずに申し訳ございません! 以前お越しいただき集落を救って頂いた際にも、お姿は拝見しておりましたが……気付かずに失礼を!!」
「あ、いや、そこは気にしなくて大丈夫ですから、はい」

 優雅にお茶を啜る男性がカイツさんで間違いないようだけど、アルネのように研究に没頭するタイプではなく、計画的に進めるタイプのようだ。
 まぁ、落ち着いてゆっくり考える時間も必要だろうし、逆に集中して成果を求める事で得られる物だってあるだろうから、アルネとカイツさんのどちらが研究姿勢として正しいかは、俺にはわからないけど。
 ともかく、アルネの後ろにいる俺に気付いたカイツさんに、自己紹介を……と思ったら、急に立ち上がって勢いよく俺の前へと走り込んできた。
 いや、うん、前に来た時俺の事を見ていたのはともかく、気付かなかったから怒るとかはないから、もう少し落ち着いて欲しいかな。

「カイツ、落ち着け。リクはそういった事を気にするような人間ではない。とにかく、今日来たのは……」
「ふむ、成る程。私の研究目当てという事ですね。リク様に興味を持たれたと思っても?」
「あ、はい。とても興味がありますよ」
「おぉ、おぉ……まだまだ若いエルフだから、大した研究ができていないと言われてはや百年あまり……リク様に興味を持ってもらえるような研究がついに……うぅぅぅ……」
「何も泣かなくても……」
「冷めた態度を取って、研究にのめり込む様子はあまり見せないが、自分達がやっている研究を認められれば嬉しいものだからな。確かに泣くまでは大袈裟だが、気持ちはわかる」
「そんなもんなんだね……」

 俺に迫るカイツさんをアルネが押しとどめ、部屋を冷やす魔法具の研究が目的である事を伝える。
 さっきまで優雅にお茶をしていた様子はどこへ行ったのか、キラキラとした少年のような瞳で見つめられたので、興味があると頷いてみれば、いきなり泣き始めてしまった。
 というか、若いとかいろいろ言われるのが百年以上って……長寿なのは知っていたけど、やっぱり時間の感覚も人間とは違うだなぁ。
 最初の印象は冷静な人だったけど、やっぱりそんな人でも自分のやっている研究が認められれば、嬉しい物なんだねと、アルネに言われて納得する。

「それで、研究の内容だが……興味を持っただけでなく、人間と共同で運用したいと考えているんだ」
「ほぉ、人間と。リク様だけでなく、この集落には以前と比べて人間が増えた。今までのように閉鎖的ではなく、人間とも相互に協力関係を築かないといけないのだろうな」

 カイツさんは、若いエルフなだけあって人間との交流推進派のようだ……長老達がさっき見た状況だから、現在の集落で反対派がいるのかはわからないけど。
 ともあれ、アルネから簡単に事情を話し、国家事業としてカイツさんが研究しているクーラーの魔法具……話の中では、クールフトと呼んでいた研究成果が必要だと伝えた。
 自分の研究が認められた事や、人間との交流を進める事にも繋がるので、快く快諾してくれたカイツさん。
 いったん俺達から離れ、研究している部屋へと向かってその成果であるクールフトと呼ばれる魔法具を持って来てくれた。

「これがクールフト……ですか」
「はい。これ一つで、この家全体の空気を冷やす事ができます。広い場所で必要であれば、個数を増やす事でも対応可能です」
「……少々大きいか?」
「小型化はまだ研究中だな。魔力を蓄積する関係上、大きくなってしまうんだ。それに、小さくすると冷たい空気の循環が難しくてなぁ……」
「成る程な」

 クーラーの魔法具、もといクールフトは、金属製で横長の箱のような物だった――。


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