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長老達の意識改革

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「……エルフの中でも長く生きていて、知識が豊富だから長老と言われて敬われていたのだと思ったが……勘違いだったのだろうな」
「勘違いしていたのは、長老達だけでなく俺達もって事だろう。これまでの集落を作ってきたのは間違いないが、だからといって絶対的に偉いと言う事はないんだ。まぁ、森の外側に出て今のように建物を作り、暮らしていくという意見には反対していたのだから、その時点で気付くべきだったな」
「あの時森の外へ出なければ、エルフの数はもっと少なくなっていただろうしな。最悪を考えれば、リクが助けに来る前に全滅していただろう」

 長老達がどうこう、というのは置いておいて……エルフがまだ森の中だけで暮らしていた場合、ウッドイーターにツリーハウスを食い荒らされていた可能性がある。
 以前は結構な怪我人を出してはいたけど、なんとか俺達が集落に来るまで持ちこたえていたのが、エルフの数が少なければそれもできなかった、という感じかな。

「というわけで、長老達は今頃集落の外を走っている頃だな。日が暮れる前には、広場に来てリクさんを称えるように叫び始めるが……見たいか?」
「……見たい気もするが、見てはいけない気もしてしまうな。なんというか、今まで人間とは交流しないと固持してきた価値観はなんだったのかと、落ち込みそうだ。いや、俺は人間との交流には賛成派だったが、どうやって意固地な長老達を説得しようかと悩んでいたのが、意味のないもののように思えてな。他のエルフ達や集落に来ている人間達は、どういう反応なんだ?」
「エルフ達は、最初は見てはいけない物を見た……という反応だったが、最近は慣れたもので微笑ましく見ているくらいだな。人間や獣人のように、外から来た者達は我々に歓迎されていると感じているようだ。特に、リクさんを称えているのがいい方向へ働いているみたいだ」
「俺ですか? というか、別に称えられなくてもいいんですけど……」

 エヴァルトさんに、長老達の現在の様子を見たいか尋ねられたアルネは、眉根を寄せて難しい表情をさせながら見ない方がいいとの意見。
 他の人達がどういう反応なのかと聞き返すと、エルフさん達は慣れて今では特に気にしていないようで、外から集落に来た人たちに関してはむしろ、喜んでいるらしい。
 ……俺を勝手に称えないで欲しいけど……これもなんというか、今更なんだろうな。

「まぁ、そう言わないで下さい。おかげで、長老達も最近は意識が変わって来たようです。俺が言った事以外にも、自分から人間や獣人とすれ違ったらにこやかに挨拶するようになりました。今では積極的に外から来た人が滞在できるように、宿の建設を急がせているくらいです」
「そんなに変わったんですね……以前話した時の様子を知っていれば、驚きです」
「これまでのプライドが、粉々に砕け散ったんだろうな。そうして、新しく考え直した時に集落の流れに置いて行かれないよう、必死なのだろう。おそらく、この先人間達を拒絶する事はできないが、逆に受け入れる側になる事で今後の発言権を衰えさせない、とか考えてもいそうだ」
「……広場でのあれを見たら、本当に発言権が確保できるとは思えないだろうが……まぁそんなところだろうな。あと、リクさんを怒らせた留飲を下げると考えてもいるようだから、拒絶もできないのだろう。全ての長老がそうなっているわけではないが、ほとんどが今では人間達を受け入れようとしている」

 集落へと来た人間達は俺の噂もあっての事だろうから、称えるのはともかくエルフが快く受け入れてくれると感じているんだろう。
 そうして、今までの凝り固まった考えやら何やらが跡形もなく崩れたおかげで、新しい考えで受け入れようと考えたのかもしれない。
 そんなにすぐ変われるかな? とも思うけど、実際に見下していた相手に挨拶をしたり、羞恥に耐えて広場で叫んでいたら意識は変わるのか……精神的には、再起不能なくらいダメージを受けたのかも。
 プライドが高かったからこそ、そういうのにも耐えられずに迎合する方を選んだんだろうと思う。

「というわけで、長老達の方は何も心配しなくても大丈夫です。あー、向こうからの接触はあるかもしれませんが、適当にあしらって下されば問題ないでしょう」
「適当って……まぁ、前みたいに高圧的だったり、他を見下していないようなので、確かに大丈夫そうですけど……」
「はい。と、長老達の話はこれくらいにして、リクさん達はどうしてまたここへ? いえ、エルフ一同も、集落の外から来た人間もリクさんの噂を知っているので、歓迎いたしますし、もちろんただ様子を見に来ただけでも喜ばしい事です。我々は、リクさん達に心の底から感謝しています」
「そういえば、まだ目的を話していませんでしたね……」
「エヴァルト、俺がここに戻って来た理由は……」

 長老達の事が衝撃的で、本来の目的を話すのを忘れていた。
 エヴァルトさんを始め、エルフさん達は歓迎してくれるようだけど、本来の目的を果たさないといけない。
 アルネと俺で、エヴァルトさんに集落へ来た目的を説明する……ハウス栽培の事はともかく、温度管理をする魔法具が必要な事や、クォンツァイタの事も伝えた。

「ふむ、成る程。エルフのしている魔法研究が必要なのですか……」
「はい。……やっぱり、研究を外へ持ち出して利用するのは、難しいですか?」

 俺達の話を聞いて、腕を組みながら考え込むエヴァルトさん。
 エヴァルトさん自身は人間との交流賛成派だから、特に反対されないだろうと軽く考えていたけど、さすがにエルフが研究している技術を、というのは虫が良すぎたかもしれない。
 エルフがこれまで心血注いで魔法研究しているのを、横から来て提供して欲しいと言っているようなものだからね。
 しかも、使う目的の全容を明かしていないのだから、特にだろう……一応、国全体の生産性を上げるためとは伝えているけど。

「いえ、リクさんが拘わっている事であれば、我々エルフは助力を惜しみません。リクさん達のおかげで、我々は今こうして生活できているのですから。ですが……」
「エヴァルト、やはりあいつか?」
「あぁ、そうだ。……アルネは知っていますが、先程伝えられた温度管理をするための研究。空間を暖める魔法具と、冷やす魔法具……それぞれ別の研究なのですが、そのうち温める魔法具を研究している奴が、結構な偏屈でして」

 俺の心配を余所に、エヴァルトさんはすんなりと提供してくれる姿勢らしい。
 それだけ、エルフの集落を助けた事を恩に思ってくれているんだろう。
 だけど、アルネも知っている研究者のうち、片方のエルフがどうやら気難しいとかそういう話のようだ……やっぱり、人間にはエルフの技術を伝えたくない! と言うような人なんだろうか?

「偏屈、というのはどれくらい……ですか? 長老達のように、人間を嫌っているとか?」
「いえ、人間を嫌っているわけではありませんし、技術提供するのも恐らく問題ないでしょう。ですが……」

 エヴァルトさんが言葉を止め、アルネが引き継いで偏屈と言われる理由を説明してくれた――。


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