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変化していく集落

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「えーと、何から話したものか……そうだな、少し前にフィリーナが手紙を寄こしただろう?」
「あぁ、スイカを作物として栽培するのに、作っている村に助言をもらうためですね」
「そうです、リクさん。その際に、人間の村と交流を盛んにする機会だとも考え、集落でも人間を受け入れ始めたのです。最初は、旅人が訪ねて来るくらいだったのですが、そのうち先の村の人間もこちらへ来るようになって……」
「多くの人間や獣人が、この村に訪れるようになった、というわけか?」
「だな。まぁ、元々アルネやフィリーナが王都へ向かった後も、人間との交流をするよう進めていたんだが、あれがきっかけで一気に進んだ形だ。まぁ、とは言ってもさすがにまだ人間が住み付くとまで入っていないが」

 ヘルサルでスイカを作るため、スイカを作っている村に栽培法なんかを聞こうと思って、エルフの集落へ連絡したのは覚えている。
 実際、そこからヘルサルへ村の人が来てくれて、順調に育てられているからね。
 それがきっかけになって、その村との交流が深まり、さらにエルフの集落が人間を歓迎しているというような噂が広まって、さっきのように多くの人間が来ているという事か。
 まぁ、とは言ってもまだ数カ月たっているかどうか程度なので、こちらに住むと言う人まではいないみたいだけど。

「今は、集落の外側に滞在用の宿屋を作っています。このまま住む人間や滞在する人間が増えれば、規模を少し広げなくてはならないので、その話し合いをしていたところに……」
「ちょうど俺達が来たってわけですね」
「はい」

 人が増えているので、先の事を考えると集落を広げないといけないんだろう。
 広場を除けば、内側は建物が乱立してごちゃごちゃしているから、新しく宿屋を建てられないし、外側に作るにも限度がある。
 ましてや、住む人が増えればもっと建物が必要になって来るからね……賑やかだったのは人が増えた事と、建物を建設中だったからか。
 さっきは、その話をしていたからエヴァルトさんが、入り口付近にいてくれたのか……タイミングがいいというかなんというか、だ。

「だが、きっかけが他の村との交流があったとはいっても、あんなにすぐ人間が集まるのか? ここに来る間に見た限りだし、さすがにまだエルフの方が多く見られたが、人間や獣人も相当な数がいたぞ?」
「それなんだが、集落の者達も予想外の事があってな……」

 きっかけがあったとしても、それで大量の人間がすぐにエルフの集落へ来るというのは、考えづらい。
 でも、俺もここに来るまでに確認したけど、かなり人間の数が多かったように見えた。
 さすがに街程ではないけど、オシグ村より人が多くいた気すらするくらいだ。
 きっかけはともかく、他にも人間が集まる理由があると、アルネもそうだけど俺も思う。

「リクさんの噂を聞きつけたらしくてですね……以前、魔物から襲われた際に、この集落を魔物の手から救ったのがリクさんだと。そこで、リクさんが救った場所を見ようと、多くの人が来ているみたいなんです。皆、口々にリクさんがここで活躍したんだ……なんて言っていますよ」
「あー、えっと……なんというか、すみません」
「いえ、理由はどうあれ今まで閉塞的だった集落に、人が集まっているんです。歓迎こそすれ迷惑だと思ったりはしませんよ。それに、リクさんには我々も感謝しています」

 なんというか、ここでも俺の噂が原因になっていたんだ……ある意味慣れて来ていて驚きはしないけど、そのせいで忙しくさせてしまっているようで、申し訳ない気分だ。
 モニカさんやソフィー、フィネさんやユノは、生暖かい目で俺を見ている……俺が狙ってやっているわけじゃないんだからね!

「しかし、急激に集落へ人間が訪れる……だけでなく滞在するとなると、長老たちがうるさいのではないか? 以前も、集落が存続できなくなる可能性がありながら、人間に助けを求めるのに反対していたのだ。それに、人間が訪れる事があっても、早々に追い返す事だってあっただろう?」

 アルネの懸念はもっともで、以前会ったエルフの長老達は人間を嫌悪すらしているようにも感じた。
 まぁ、同じエルフでも下に見ているような発言をしていたから、人間とか関係なく自分達が上に立つ者だという特権意識みたいなものに凝り固まっていたんだと思うけど。
 それでいて人間である俺を誘うのは、今考えるとちょっと可笑しく思えるけど……エルサがくっ付いている事以外は、人間なんだけどなぁ、俺。

 自分達の立場を強固とするために、という考えからだったのかもしれないけど。
 ともあれ、あの長老達が集落に多くの人間や獣人がいる状況になって、黙っているわけがないと思う。

「まぁ、以前と変わらないならな。なんというか……これまでの長老達を見ていると、信じられない状況になっている。……これも、リクさんのおかげなんだがな」
「俺の、ですか?」

 エヴァルトさんは言いづらそうというより、どう話したものかと困っている様子に見えるけど……またここでも俺が関係しているの?
 そりゃ、誘われた時に自分達以外を見下しているような言動に腹が立って、俺としてはわりときつく怒ったりもしたけど……。

「もしかして、以前リクが怒った事と関係あるのか?」
「まぁ、なきにしもあらずと言ったところだな。アルネも知っていると思うが、あれからしばらく長老達は引きこもって外に出て来なかった」
「そうだな」

 エヴァルトさんの言葉に、アルネが頷く。
 確か、アルネやフィリーナが俺の勲章授与式のために、王都へ来てくれた時くらいにそんな事を聞いたかな?
 特に何もないのに、ないかに怯えるようにして引きこもって、外へ出る事がなくなったとかなんとか……。

「長老たちは、リクさんを怒らせてしまった事で、自分達が攻撃対象になるのではないか、と考えていたようだ……最近本人達から聞いた話だがな」
「……俺、別に長老達を攻撃するつもりなんて、ありませんでしたけど?」
「確かにリクさんは怒ったが、そういう意思がない事は俺達もわかっています。ですが、自分が気に食わない者は排除し、自分達が上にいるのだという自尊心の塊のような長老達にとって、相手も同じようにするものだと考えている事が多いようです」
「だからって、外に出なければ解決するわけでもないんだがな……それがわかるようなら、最初からリクを怒らせるような事はなかったか」

 俺自身がそうするつもりがあるのかに拘わらず、長老達からすると、気分を害したりした相手は排除対象となるんだろう。
 だから、自分達がどうにもできない相手とわかっている俺を怒らせた事で、自然と自分達が排除される側になる……と思い込んでしまうのか。

「そうだな。それにあの時リクさん以外にも、同胞である我々エルフからの反感も買っていたからな。リクさんに否定されて、自分達が下に見ていた他のエルフ側に付いたとでも考えたんだろう。外に出れば、当然他のエルフ達がいるからな。そこからリクさんに繋がったり、何を言われるかやられるかと、本人達は真剣に怯えていたようだぞ?」


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