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ヘルサルの衛兵さんとの会話

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 逃げている男達を昏倒させ、駆けて来る女性を止めて落ち着いてもらう。
 実は、男達が駆けて来る直前に俺達は裏道のさらに裏道……というか横道にそれぞれ隠れており、俺は後を追いかけて来るはずの女性を担当。
 フィネさんとアルネは、それぞれ逃げる男達を担当すると決めていた。

 ただ、声だけでははっきりとした状況がわからなかったので、本当に手を出すかはその時決まっていなかったんだけど、横道に身を潜めた俺の近くを通り過ぎる時に、わざわざ悪さをした事を話してくれていたからね。
 黒だと判断したので、手を上げて隠れながらこちらを窺っていた二人に合図を送って、手を出す事にした。

 ちなみに、片方の男がぶち当たった斧は、横から飛び出したフィネさんが飛び上がりながら、フルスイングしたもので、相当な威力がったはずだ。
 アルネは風の魔法で顔面スライディングをさせた後、背中に全体重を乗せて両足踏みつけたから、こちらもかなり痛そうだ……二人共容赦ないなぁ。
 まぁ、斧は刃の部分を使っていないし、風の魔法も斬り裂くようなものじゃないだけ、加減しているんだろう。

「えーと……え? あれ?」
「リク、これがあいつらが奪い取った物だ」
「リク様、手応えがなさすぎますけど、こんなものでしょうか?」
「うん、ありがとう。――フィネさんにとって手応えがある相手だったら、こんなあからさまにお金を奪ったりはしないんじゃないですか? おっと……はい、奪われた荷物です」
「あ、はい……ありがとう……ございます」

 未だ状況がわかっていないのか、女性がポカンとしている中、倒れた男達から奪われた荷物を取り返して、アルネが届けてくれる。
 フィネさんが肩を回しながら、もう少し何か手応えが欲しかったように言うけど、Bランク冒険者のフィネさんが手応えを感じる相手だったら、こんなせこい事はしないと思う。
 ともあれ、アルネから受け取ったずっしりと重みを感じる荷物……両手で持つくらいの大きさの財布とみられる、それなりの重さがある革袋をそれを女性に返す。
 受け取った女性は、よくわからないながらも戻ってきた革袋を抱き締めながら、絞り出すように感謝の言葉を発した。

「リク様、街の治安維持のご協力、ありがとうございました!」
「いえ、偶然通りがかっただけですから」

 少し後、騒ぎを聞きつけたのか誰かが呼んでくれたのか、街の衛兵さんが数人駆け付けてきたので、男二人を引き渡す。
 まぁ、気を失っていたり鼻血が止まらなかったりしていたけど、そこは悪い事をした罰って事で。
 革袋が戻ってきた女性は、衛兵さん達が駆け付けて来る前に落ち着いたようで、俺の頭にくっ付いたままのエルサを見て、俺の事に気付いたようだ。
 女性はヘルサルに最近来たばかりらしいけど、俺の噂自体は聞いていて、この街に来てからも色々と話を聞いていたらしい……主に、目印として白い毛玉……もとい、エルサをくっつけているって話らしいけど。
 ……目印のためにエルサを頭にくっ付けているわけじゃないんだけどなぁ。

「大丈夫ですか?」
「はい、ありがとうございます。おかげで大事なお金を取り戻す事ができました!」

 衛兵さんに男達を引き渡している間、女性はフィネさんに声をかけてもらっている。
 もうかなり落ち着いた様子だけど、男達に襲われた状況だから、こういう時は同じ女性が話し相手になった方がいいだろうからね。

「隊長、やはり……」
「そうか、わかった」
「……何か、あったんですか?」

 男達を縛ったり調べたりしていた衛兵さんのうち一人が、俺と話していた衛兵さん……隊長さんらしいけど、その人に近付いて耳打ちで何やら報告をしていた。
 なんとなく気になったので、首を傾げながら聞いてみる。
 もしかしたら衛兵さん達だけの秘密というか、外に漏らせない事もあるかもしれないけど、教えてもらえる事なら聞いておきたい。

「いえ……リク様になら問題ないでしょう。その、最近はヘルサルに多くの人が集まっているのはご存じでしょうか?」
「農園……農場で働く人が集まっている、というのは聞いています」
「はい。それに伴って、他の仕事も増えているので、外から多くの人間が集まっています。まぁ、ある程度は街に入る際に身分などの確認はするのですが、全てを管理するわけにもいかず……早い話が、治安が少々悪くなっている部分もあるんです」
「ならず者も流れてきている、って事ですか?」
「はっきりそうとは言えない部分もあるのですが……確実に仕事は増えているので、人手が必要な状況は続いているのですが、やはりどこでもあぶれた者と言うのは出てくるのです。そうして、日銭すら稼げなくなった者が、今回のようにお金を求めてという事件が頻発しています」

 元々ラクトスは人口の多い街だったから、それなりに悪い事をする人はいたけど、それが増えているって事か……まぁ街の方も全員を管理するのは不可能だし、人が急激に増えればこういう事だって起こるよね。

「そして先程確認したのですが……多くの事件を起こす者達はそれぞれ、一つの共通した特徴を持っているのです」
「特徴、ですか?」

 色んな場所から集まって来ている人達の中で、あぶれた人が犯罪を犯すのだとしたら、共通点がある事の方がおかしい気がするけど……。
 さすがに、男だからという共通点ではないだろうし……。

「全員が、口の中に何かを仕込んでいた跡があるのです。中には、はっきりと毒物が仕込まれていたり、我々が捕まえた者が、その毒を使って自死を計った事もあります。……一瞬の事だったので、止められませんでした」
「口の中にある跡と、毒……ですか……」

 なんというか、聞いた事があるどころか、最近よく関わっている事との繋がりがあるような気がしてならない……というか絶対あるよね、これ。
 隊長さんは、毒を使って自死をした人を見たのだろう、悔しそうにしている……いくら犯罪者だとしても、目の前で人が服毒で自死をするのは衝撃的だろうしなぁ。

「その、口の中にある跡というのは、どういうものなんですか?」
「毒が仕込まれているのが、歯であり、強く噛む事で毒を染み出させてという仕組みになっているようで、跡はその歯を無理やり引っこ抜いた形跡が見られるという事ですね。リク様達が昏倒させた男二人にも、その跡があったようです」
「歯を無理矢理……」

 ツヴァイとかを捕まえた時、話を聞くために歯を……というのがあったから、それと同じような事だろう。
 口をかみ合わせないようにはできるけど、それじゃ話もできないし、尋問というか取り調べをするにはそういった処置が必要だった。
 つまり、その跡があると言う事は既に一度捕まって、歯を抜かれた事がある、という事かな?……いや、そもそも口の中に毒を仕込んでいるという事自体が、ツヴァイやイオスの事があってからで、ヴェンツェルさん達も知らなかったはずだから、他で何かをして捕まったからって、対策として抜かれるなんて事はないか……。
 今のヘルサルの隊長さんのように、捕まえた人が毒で自死する場面を見ているとかでない限りね――。


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