859 / 1,903
ヘルサルの衛兵さんとの会話
しおりを挟む逃げている男達を昏倒させ、駆けて来る女性を止めて落ち着いてもらう。
実は、男達が駆けて来る直前に俺達は裏道のさらに裏道……というか横道にそれぞれ隠れており、俺は後を追いかけて来るはずの女性を担当。
フィネさんとアルネは、それぞれ逃げる男達を担当すると決めていた。
ただ、声だけでははっきりとした状況がわからなかったので、本当に手を出すかはその時決まっていなかったんだけど、横道に身を潜めた俺の近くを通り過ぎる時に、わざわざ悪さをした事を話してくれていたからね。
黒だと判断したので、手を上げて隠れながらこちらを窺っていた二人に合図を送って、手を出す事にした。
ちなみに、片方の男がぶち当たった斧は、横から飛び出したフィネさんが飛び上がりながら、フルスイングしたもので、相当な威力がったはずだ。
アルネは風の魔法で顔面スライディングをさせた後、背中に全体重を乗せて両足踏みつけたから、こちらもかなり痛そうだ……二人共容赦ないなぁ。
まぁ、斧は刃の部分を使っていないし、風の魔法も斬り裂くようなものじゃないだけ、加減しているんだろう。
「えーと……え? あれ?」
「リク、これがあいつらが奪い取った物だ」
「リク様、手応えがなさすぎますけど、こんなものでしょうか?」
「うん、ありがとう。――フィネさんにとって手応えがある相手だったら、こんなあからさまにお金を奪ったりはしないんじゃないですか? おっと……はい、奪われた荷物です」
「あ、はい……ありがとう……ございます」
未だ状況がわかっていないのか、女性がポカンとしている中、倒れた男達から奪われた荷物を取り返して、アルネが届けてくれる。
フィネさんが肩を回しながら、もう少し何か手応えが欲しかったように言うけど、Bランク冒険者のフィネさんが手応えを感じる相手だったら、こんなせこい事はしないと思う。
ともあれ、アルネから受け取ったずっしりと重みを感じる荷物……両手で持つくらいの大きさの財布とみられる、それなりの重さがある革袋をそれを女性に返す。
受け取った女性は、よくわからないながらも戻ってきた革袋を抱き締めながら、絞り出すように感謝の言葉を発した。
「リク様、街の治安維持のご協力、ありがとうございました!」
「いえ、偶然通りがかっただけですから」
少し後、騒ぎを聞きつけたのか誰かが呼んでくれたのか、街の衛兵さんが数人駆け付けてきたので、男二人を引き渡す。
まぁ、気を失っていたり鼻血が止まらなかったりしていたけど、そこは悪い事をした罰って事で。
革袋が戻ってきた女性は、衛兵さん達が駆け付けて来る前に落ち着いたようで、俺の頭にくっ付いたままのエルサを見て、俺の事に気付いたようだ。
女性はヘルサルに最近来たばかりらしいけど、俺の噂自体は聞いていて、この街に来てからも色々と話を聞いていたらしい……主に、目印として白い毛玉……もとい、エルサをくっつけているって話らしいけど。
……目印のためにエルサを頭にくっ付けているわけじゃないんだけどなぁ。
「大丈夫ですか?」
「はい、ありがとうございます。おかげで大事なお金を取り戻す事ができました!」
衛兵さんに男達を引き渡している間、女性はフィネさんに声をかけてもらっている。
もうかなり落ち着いた様子だけど、男達に襲われた状況だから、こういう時は同じ女性が話し相手になった方がいいだろうからね。
「隊長、やはり……」
「そうか、わかった」
「……何か、あったんですか?」
男達を縛ったり調べたりしていた衛兵さんのうち一人が、俺と話していた衛兵さん……隊長さんらしいけど、その人に近付いて耳打ちで何やら報告をしていた。
なんとなく気になったので、首を傾げながら聞いてみる。
もしかしたら衛兵さん達だけの秘密というか、外に漏らせない事もあるかもしれないけど、教えてもらえる事なら聞いておきたい。
「いえ……リク様になら問題ないでしょう。その、最近はヘルサルに多くの人が集まっているのはご存じでしょうか?」
「農園……農場で働く人が集まっている、というのは聞いています」
「はい。それに伴って、他の仕事も増えているので、外から多くの人間が集まっています。まぁ、ある程度は街に入る際に身分などの確認はするのですが、全てを管理するわけにもいかず……早い話が、治安が少々悪くなっている部分もあるんです」
「ならず者も流れてきている、って事ですか?」
「はっきりそうとは言えない部分もあるのですが……確実に仕事は増えているので、人手が必要な状況は続いているのですが、やはりどこでもあぶれた者と言うのは出てくるのです。そうして、日銭すら稼げなくなった者が、今回のようにお金を求めてという事件が頻発しています」
元々ラクトスは人口の多い街だったから、それなりに悪い事をする人はいたけど、それが増えているって事か……まぁ街の方も全員を管理するのは不可能だし、人が急激に増えればこういう事だって起こるよね。
「そして先程確認したのですが……多くの事件を起こす者達はそれぞれ、一つの共通した特徴を持っているのです」
「特徴、ですか?」
色んな場所から集まって来ている人達の中で、あぶれた人が犯罪を犯すのだとしたら、共通点がある事の方がおかしい気がするけど……。
さすがに、男だからという共通点ではないだろうし……。
「全員が、口の中に何かを仕込んでいた跡があるのです。中には、はっきりと毒物が仕込まれていたり、我々が捕まえた者が、その毒を使って自死を計った事もあります。……一瞬の事だったので、止められませんでした」
「口の中にある跡と、毒……ですか……」
なんというか、聞いた事があるどころか、最近よく関わっている事との繋がりがあるような気がしてならない……というか絶対あるよね、これ。
隊長さんは、毒を使って自死をした人を見たのだろう、悔しそうにしている……いくら犯罪者だとしても、目の前で人が服毒で自死をするのは衝撃的だろうしなぁ。
「その、口の中にある跡というのは、どういうものなんですか?」
「毒が仕込まれているのが、歯であり、強く噛む事で毒を染み出させてという仕組みになっているようで、跡はその歯を無理やり引っこ抜いた形跡が見られるという事ですね。リク様達が昏倒させた男二人にも、その跡があったようです」
「歯を無理矢理……」
ツヴァイとかを捕まえた時、話を聞くために歯を……というのがあったから、それと同じような事だろう。
口をかみ合わせないようにはできるけど、それじゃ話もできないし、尋問というか取り調べをするにはそういった処置が必要だった。
つまり、その跡があると言う事は既に一度捕まって、歯を抜かれた事がある、という事かな?……いや、そもそも口の中に毒を仕込んでいるという事自体が、ツヴァイやイオスの事があってからで、ヴェンツェルさん達も知らなかったはずだから、他で何かをして捕まったからって、対策として抜かれるなんて事はないか……。
今のヘルサルの隊長さんのように、捕まえた人が毒で自死する場面を見ているとかでない限りね――。
0
お気に入りに追加
2,153
あなたにおすすめの小説
森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ どこーーーー
ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど
安全が確保されてたらの話だよそれは
犬のお散歩してたはずなのに
何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。
何だか10歳になったっぽいし
あらら
初めて書くので拙いですがよろしくお願いします
あと、こうだったら良いなー
だらけなので、ご都合主義でしかありません。。
転生最強ゴリラの異世界生活 娘も出来て子育てに忙しいです
ライカ
ファンタジー
高校生の青年は三年の始業式に遅刻し、慌てて通学路を走っているとフラフラと女性が赤信号の交差点に侵入するのが見え、慌てて女性を突き飛ばしたがトラックが青年に追突した
しかし青年が気がつけば周りは森、そして自分はゴリラ!?
この物語は不運にも異世界に転生した青年が何故かゴリラになり、そして娘も出来て子育てに忙しいが異世界を充実に過ごす物語である
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる