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ヘルサルの農場を実際に見学
しおりを挟む「これはクラウス様。そちらは……リク様! お目にかかれて光栄です。どうぞ、お通り下さい」
「ご苦労様です」
「ど、どうも」
ヘルサルの西門から出てすぐ、農場の入り口に到着する。
結界が張ってある外周部分は、確かにクラウスさんが言う通り人の身長程の木の柵が設置されていた。
出入口部分には、鉄の門が作られており厳重に守られている……けど、空気を通す事を以前に言ったからか、ぴっちり閉まるタイプではなく数センチくらいの隙間があるようだ。
結界が透明なので、急に策と門が作られているため、簡易的な街の外壁のようになっていた……それにしては、出入り口が厳重だけどね。
ともあれ、昼間は開け放たれているんだろう、数メートルはある頑丈そうな鉄の門の前まで行くと、武装して立っている衛兵さんに歓迎された。
街の外だから、魔物の事もあって警備してくれているんだろう。
ちなみに、出入り口の近くに農業用水を溜めるよう、結界を変形させた場所にも木が張ってあって、並々と水が入っていた。
「衛兵は出入り口の管理をして、人の出入りも見ています。とは言っても、街の者などは名前を名乗る程度の簡単な確認をするだけで入れます。魔物が中に入り込まないように見張っている、という意味合いが強いですな。そして、外周は冒険者ギルドに協力してもらい、冒険者が魔物が近付いていないかの見回りと討伐を担当しています」
「分担しているんですね」
「相互協力の形ですな。まぁ、広い場所なので相応の人員を使いますし、全てを衛兵で賄うのは難しいですから。ヘルサルの冒険者、特に低ランクの者達は安定した依頼として歓迎されているようです。もちろん、低ランクではどうにもならない魔物が出た際には、衛兵と協力したり、別の冒険者が派遣される手はずになっています」
「成る程……」
衛兵さんに会釈をして農場の入り口を通りながら、クラウスさんから警備について簡単に説明してもらう。
衛兵さんが出入口を、というのは街の人達をよく知っているからと、魔物だけでなく不届き者を入れないようにという事でもあるんだろう。
外周は冒険者と協力して見張っているようで、安定した依頼と収入源になっているらしく、相互協力の形ができ上っていて歓迎されているとの事。
これがあるから、ヤンさんが俺の名前を出さずにクラウスさんを呼んでも、すぐに来る事ができたんだろうな。
「ほ~……前は何もなかった見晴らしのいい場所だったのに、随分育っているようですね」
「ふむ、俯瞰して見た限りでは、植物の生育状態は良さそうだ」
「私もそうですが、作業者たちも驚いているようで……本来の倍以上の速度で成長している物もあるようです」
農場に入り、鉄門や柵に遮られていた視界が開けると、すぐに目に入って来る育った植物たちを見て、思わず声を漏らす。
隣にいるアルネも、農場の様子を見て簡単に植物の状態を確認していた……フィリーナ程詳しくないと言っていたけど、それなりに知識とかがありそうだね。
農場で栽培されている物は、人以上の高さまで育っている物もあれば、ハーブっぽい植物が小さく栽培されていたりと、様々だ。
区分けされているうえ、栽培している植物がそれぞれを阻害しないように考えられているらしく、場所によってがらりと見た目が変わるのが印象的だったりもする。
畑と畑の間には、人や馬が通れるように畑道が作ってあり、どこに何が栽培されているかもわかりやすく、行き来しやすいようになっている。
……通常の農場と違って、計画的に作った場所でもあるから整理されているんだろうな。
「ん? クラウスさん、あの黄色い花が咲いているのはなんでしょう?」
農場内を見渡しながら、畑道を通って栽培されている物を見ている中で、一区画だけ花が咲いている植物の区画があった。
実を付けそうな物はあったけど、花が咲いているのは他になかったのでちょっと気になるね。
花を付けている植物は、大体四メートル近くあってまっすぐ伸び、その途中途中でそれぞれ複数の花を付けている。
花自体は小ぶりで、なんとなく見た事のあるような気がするけど、その植物自体は見た事がなかった。
「あぁ、あれはキューですね。花が咲いていますので、もうすぐ実を付け始めるでしょう」
「え、あれがキューだったんですか?」
「キューなのだわ!?」
「ほぉ、知っているキューよりも少々背が低い気がするが、花の数は多いな。しっかりとしたキューを収穫できそうだ」
クラウスさんに黄色い花を付けた植物の事を聞いてみると、あれがキューだと教えられた。
キューという言葉に今まで身じろぎもしないくらい、動かなかったエルサが超反応……好物の事になったらこれだ。
アルネの方は、自分が知っている物よりも少し小さい代わりに、花が多くあるのを見て感心している。
あれ、キューの花だったんだ……通りで見た覚えがあるような気がしたわけだね……。
って、キュー……もといキュウリって蔦のような茎で、その茎を這わすように棒を設置したりとかしないといけないような物だったはず。
あと、マジマジと見た事はないけど、茎の高さも人の身長くらいだったような……まっすぐ伸びているからそれくらいの長さなのかもしれないけど……少なくとも日本では見た事がない。
うーん、味は俺が食べた事のあるキュウリとほぼ同じだったから、こちらの世界ではあれがキュウリという事なんだろう、不思議だ。
「キューは比較的栽培しやすい植物でしてな。成長速度を考えると、もう数日程で収穫ができるとの報告を伺っております。収穫後は、また新しいキューを栽培する予定のようです。通常よりもかなり速く収穫できるので、品薄になっても対応できるようになると思います」
「キューがいっぱいなのだわ!」
「エルサ落ち着いて。――そうですか……これなら、価格が上がってしまったキューも、すぐに落ち着きそうですね」
結界を張ってから、大体一カ月くらいしか経っていないのに、もう収穫時期が近いとは……魔力溜まりの成長速度おそるべし。
クラウスさんの代わりにトニさんが説明し、にわかに興奮し始めたエルサを抑えながら、俺自身噂が原因で価格が高騰してしまったキューも落ち着くだろうと一安心した……あれ、噂の原因はエルサがキューを食べるからだったっけ?
ともかく、味とかの確認はしないといけないだろうけど、この調子で栽培できれば近いうちにキューの価格も元通りになりそうだね。
もちろん、ヘルサルで作るキューだけで国全体の不足を賄う事はできないだろうけど、数が増えれば少しずつ落ち着いてくれるだろう。
まぁ、作物を育てるうえで、休耕させないいけないというのも聞いた事があるから、そこがどうなるかはこれから次第だろうけど。
キューの事に驚きつつも、まだ食べられないからとエルサを落ち着かせて、再び農場内を見て回る。
それぞれの畑では、今も作業している人達がいるので、通りがかる時にこちらからだったり向こうからも声を掛けて回っていた――。
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