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合流して獅子亭へ

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「リクさん、何か面白い物は見つかった?」
「イルミナさんの店に行っただけだから、面白い物は……あったにはあったけど、まぁ、それなりってとこかな?」
「リク―、お婆ちゃんに食べ物もらったのー!」
「お、そうか。ちゃんとお礼は言ったか?」
「うん、もちろんなの!」
「そうか。それじゃ、夕食の時にでもデザートで食べるといいぞ」
「……ユノちゃん、本当に無邪気ではしゃいでいますけど、これでリク様にも簡単に剣で勝つんですよね……」
「まぁ、そこは私達も驚いた事だが、もうそういうものと考えて慣れた方がいいと思うぞ?」
「見た目で判断できないのは、エルフだけだと思っていたが……初めて会った時は、俺も驚いたからなぁ」

 ユノを抑えながら、はぐれないようにゆっくり歩いて近付いてきたモニカさん達と合流して、それぞれで話す。
 モニカさんは、イルミナさんの店で俺達が何かを見つける事をちょっと期待していたようだ……ある意味面白い物というのはあったけどね。
 ユノはがま口財布を売っていたお婆さんに会ったんだろう、甘そうな果物をリュックから取り出して、自慢してきたので、夕食のデザートで食べるよう促す……俺も、保護者っぽい事を言っているな。
 フィネさんはユノに振り回されたらしく、少し疲れた笑顔ながらもそれなりに楽しめたようではあるけど、やっぱりユノに戸惑いを感じるらしい。
 ソフィーとアルネが、労うようにしながら声をかけているから、大丈夫だろうな。

「リク、お腹が空いたのだわ! 早く行くのだわー!」
「はいはい、わかってるよ。それじゃモニカさん、皆?」
「えぇ、獅子亭に行きましょう」

 イルミナさんの店では、一度目を覚ましたけど興味なさそうにすぐ爆睡をしていたエルサが、お腹が減ったと主張を始めた。
 獅子亭の料理は美味しいから、エルサも気に入っているようだし、待ちきれないんだろう……一番はキューらしいけど。
 苦笑しながらエルサに答え、皆に声をかけて頷いたのを見て、獅子亭へ向かった。
 考えてみれば、大通りの真ん中で合流していたから行き交う人の邪魔になりそうだし、早く移動した方がいいよね。


「あら?」
「んー?」
「どうされたんですか?」

 大通りから横道に入り、獅子亭へ向かってそろそろ建物が見えるだろう頃、モニカさんと一緒に首を傾げた。
 フィネさんは、そんな俺達を見て不思議そうにしている。

「いえ……このくらいなら、もう閉店に近いはずなんですけど……」
「そうよね……日も完全に沈んで暗くなってからそれなりに経っているし……私達がいた頃なら、一部の常連さん以外いなくなっている頃よ」
「ふむ、獅子亭の方……いや、獅子亭の前か……数人が並んでいるように見えるな?」
「何か、問題でもあったのでしょうか?」
「問題があったなら、マックスさんやマリーさんが解決しそうだけど……」
「そうよね。荒くれ者がいたとしても、父さんや母さんが叩き出すだろうし……今はルギネさん達もいるはずだから……」
「考えてみれば、元とはいえ現役でも通用するBランク冒険者の二人に、Cランク冒険者のパーティが働いているんだ、よっぽどの事以外はなんとでもできそうだな」

 俺達が向かう先……獅子亭の建物の前には、数人が入り口に並んでいるのが見えて、フィネさんに説明して皆で立ち止まる。
 並んでいる数人は、知り合い同士ではなさそうだ。
 この頃なら、俺達がいた頃は新しいお客さんもほとんど入って来ないし、来ても並ぶ必要もないはずなんだけど……。

 問題というなら、マックスさん達やルギネさん達がいるんだから、それこそ簡単に対処できそうだ。
 モニカさんやソフィーが言っているように、お酒を飲んだり喧嘩して暴れるようなのがいても、マックスさんが簡単につまみ出すだろうしなぁ……実際に、そういった場面を見た事もある。

「ここでこうしてても仕方ないし、入ってみる?」
「そうだね……これ以上待っているのは……」

 様子を見るだけでこの場に留まる理由もないので、モニカさんの言葉に頷きながらエルサを窺うと……。

「お腹が減ったのだわぁ……キュー食べるのだわぁ……」
「エルサが耐えられそうにないからね……」
「そのようね……」
「フィネさんとか、落ち着いて紹介したかったけど、仕方ないか……すみません、フィネさん」
「いえ、私の事は気になさらず」

 力ない声を出しながらブツブツ言っていた……よっぽどお腹が空いたらしい。
 夕食前だから、リュックにあるキューも食べないように言っているから、仕方ないか。
 お客さんが多いなら落ち着いて話せそうにないから、フィネさんの紹介がおざなりになってしまいそうなので謝っておく。
 首を振るフィネさんに苦笑しながら、改めて獅子亭へと再び向かった――。


「……これは」
「大盛況……かな?」
「いつもの獅子亭、という感じではあるが……私も知っているが、この頃までこの状態というのはなかったな……」
「人気のお店なんですねー」
「少々、熱気にあてられる気もするな……」

 獅子亭の、店側の出入り口は数人が並んでいたので、モニカさんのように関係者が入れる裏口……早い話が住居側の入り口から入って、店の方へ来てみると……大盛況という言葉が似合う状態で、お客さんに満たされている状況だった。
 夕食時とか昼食時の、ピーク時にならよく見る光景だけど、それからもズレているのにこの盛況っぷりは一体……。

「こっち、おかわりお願い!」
「こちらもだ!」
「俺は、追加の料理を頼む!」
「酒も追加でー!」

 等々、お客さんの叫び声が聞こえて、まだまだこの盛況状態が解消されそうにない様子だ。
 あ、料理をお客さんに運んでいるのは、アンリさんだな……緑色の髪やスタイルが際立っていてよく目立つ。
 ゆっくりした動きに見えるのに、優雅さも感じて人の多い店内を悠々と移動しているのはさすがだなぁ。
 お、あっちの厨房入り口で料理のつまみ食いをして怒られているのは、ミームさんか……青色の髪で目立つけど、マックスさんの目の前で肉を食べたら見つかるのは当然だと思う。

 ルギネさんは……手に一杯の樽ジョッキを持ってお酒を運んでいるのか……相変わらず燃えるような赤色の髪が目立つのですぐに見つけられたけど、大変そうだ。
 他にカテリーネさんやマリーさんも、店内を動き回っててきぱきと配膳したり注文を聞いたりしている……ルディさんとマックスさんは厨房の奥にいるだろうから、姿は見えないけど声は聞こえるね、ミームさんを叱る声とか。
 一番意外だったのは、ルギネさん以外に突っかかっている事が多かった黄色髪のグリンデさん。
 リリーフラワーでも一番の小柄な体を、実際に跳ねてはいないけど、跳ねるように動かして店内を動き回っていた……店全体を行ったり来たりして、一番多くの物を運んでいる。
 ……というか、俺が知っている獅子亭で働いている人総動員じゃないか。

「うぅん……忙しそうだ。フィネさんを紹介できる雰囲気じゃないね……手伝おうにも、声をかけるのも躊躇うよ」
「そうね……とりあえずちょっと離れていた方が……」
「あ!」
「「あ……」」

 店内の様子を見て、声をかけるのもはばかられそうな程なので、モニカさんと顔を合わせて相談。
 モニカさんが、ひとまずここから離れよう……と提案した瞬間、別の方向から大きな声。
 そちらを見ると、ルギネさんが俺達を見つけて大きな声でこちらを指さしていた……ついでに、持っていた樽ジョッキを一つ落とした。
 俺とモニカさんが思わず上げた声は、見つかった事ではなく、樽ジョッキが落ちたからだね……スローモーションで物が落ちる瞬間が見える事って、あるんだなぁ――。


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