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ソフィーは騎士のような癖のない戦い方
しおりを挟む「……私は、リクのように力任せに相手を叩き伏せる事はできません。なので、鋭く素早く動こうと考えてはいるのですが……」
「その考え自体は間違っておらん。リクはともかくとしてじゃ、相手を剣で叩き伏せるのなら、それこそもっと重い剣を持つべきじゃろうからの。ワシが見る限りでは、ソフィー嬢ちゃんがいつも使っている剣は合っていいるようじゃから、後は戦い方じゃの。他は日々の反復した鍛錬で向上して行くじゃろう」
「戦い方……間違った戦い方をしていたのでしょうか?」
「そうは言っておらん。むしろ、戦い方という意味では手本になるくらいじゃの。じゃが、もう少しずる賢く……そうじゃのう……わかりやすく言えば、相手の意表を突く、全力を出させる前に倒す、とかかの? ソフィー嬢ちゃんもある程度はやり始めているがの。極端な事を言えば、相手に気取られずに後ろから斬りかかると言うのもありじゃな」
「それは……卑怯な戦い方、とも取られるのでは?」
「魔物相手に、卑怯も何もないわい。人間相手の模擬戦などのように、正面からやり合うわけではないのじゃからの。やるかやられるかなのじゃから、卑怯などと考えず、どうやったら一番危険が少なく倒せるのか、どうすれば相手に剣を届かせられるのか、を考えるべきじゃ」
エアラハールさんの言う通り、魔物との戦いはやるかやられるか……マックスさんにも以前言われたけけど、卑怯だとか相手がかわいそうとかは考えず、とにかく相手を打ち倒す事を考えるのがいいんだろう。
ある程度ルールが決まっていたり、正々堂々と……といった戦いができる相手ではないのは確かだから。
まぁ、そうは言われてもこちらは感情を持った人間だし、殺し屋なわけでもない……魔物討伐を請け負う仕事の冒険者ではあるけどね。
ともあれ、ソフィーの戦い方は基本が正面から相手へと駆けこんで切り伏せる、という真っ正直な物だから、相手は構えやすいというのもあるんだろう……それが、騎士っぽい戦い方にも繋がているんだろうけど。
さっきエアラハールさんが言っていたずる賢さというのは、こういう事かぁ。
「まぁ、ソフィー嬢ちゃんの性格や考え方にも繋がる事じゃからの、無理に変えろとは言わん。じゃが、今まで以上に強い魔物と戦う際には、必要な事でもある。魔物は、単純な身体能力なら人間などものともせんからの。それを、魔法も含めて知恵や技術、道具を使って倒すのが冒険者なのじゃ」
「私自身も、なんとなく思っていたように上達しないと感じていたのは、そのせいかもしれません。利用できる物は、なんでも利用して戦えという事ですか……」
「まぁ、ワシの教えは一つの道筋を示すのみじゃ、強制はせん。ソフィー嬢ちゃんはソフィー嬢ちゃん自身で考えて、思う方向へ突き抜けるのも良いかもしれんの。険しい道ではあるが、突き抜ける事ができれば、誰にも追随を許さない実力者になる事も可能じゃ。もちろん、それはモニカ嬢ちゃんにも言える事じゃぞ? 先程は言わなかったがの、一撃の威力は上がらずとも、決して隙を見せぬ戦い方というのを突き詰めるのも良いじゃろう」
「……はい」
「思う方向へ突き抜ける……ですか」
あくまで、エアラハールさんは方向性の一つとして助言しているという事だろう。
だからこそ、ヴェンツェルさんやマックスさんのような筋肉を求めるような人が、指導している中で現れたのかもね……あの二人は極端な気もするけど。
ともかく、あぁしろこうしろと向かう方向性を決めるのではなく、今より良くなるであろうという部分を指摘するだけで、結局どうするのかは自分で決めろという事だ。
自分で考えながら鍛錬をする必要があるため、ある意味道筋を決められるよりも厳しいと言えるかもしれない……決めてくれたら、それに従っているだけでいいからね。
「突き抜けると言っても、リクのようにではないぞ? ある意味突き抜けているのじゃが……特殊過ぎるからの」
「それは……はい、わかっています」
「えっと、俺ってそんなに変な方向へ突き抜けていますかね?」
エアラハールさんが俺の方を見ながら、溜め息を吐きながらソフィー達に言う。
モニカさんは苦笑し、フィネさんはキョトンとしているのはともかく……ソフィーが深く頷くとは……いや、自分が普通の人と同じだとまでは、もう考えていないけどね……。
「技術も何もなく、ただ単に力だけで魔物の体を斬り裂くなんぞ、特殊な突き抜け方じゃ。聞いておるぞ? 魔物の持つ武器も含めて斬り裂くのは、技術でどうこうという問題じゃないからの」
「あー……まぁ、それは……あはははは……」
「今の剣は魔法具で丈夫だからいいけど、その前に使っていた剣はすぐにボロボロになっちゃったものね……折れなかったのが不思議だわ」
「それなりにしっかりした物ではあるが、なんの変哲もない剣で魔物を一撃で胴体から真っ二つなんて、私には到底不可能だな」
「リク様は、そんな事もできるのですね……」
誰かに聞いたのか、エアラハールさんには以前の戦い方が知られていたようで、その時の事について謂れ、ソフィーやモニカさんにも同意される。
これに関しては、まだあまり加減の仕方を知らなかった頃でもあるし、本当に力任せで剣を振るっていたから、笑って誤魔化すしかできない。
おかげで、鉱山でエクスブロジオンオーガに対して使っていたボロボロの剣程ではないけど、エルフの集落へ行く前に買った剣は、刃こぼれして使い潰したのと同じようにしてしまった。
買う時、数年は買い替えなくていいくらいの剣と言われた物なのに……。
フィネさんがなぜか尊敬した目で見ているけど……そんな目で見ないで……ただ単純に考えずに剣を振るっていただけだから……。
下手をしたら、力に溺れるようになっていたかもしれないし、今ではエアラハールさんの教えを受けて加減もできるようになったんだからね。
「リクはまぁ、特殊な例としてじゃ。そうじゃのう……もしソフィー嬢ちゃんが、先程言ったワシの指摘から戦い方を考えるのであれば、参考にするべきはそこの……フィネと言ったかの? そのおなごの戦い方を参考にするのも良いじゃろうの」
「え、わ、私ですか!?」
急にエアラハールさんから名前を出されて、フィネさんが驚いて自分で自分に指を刺した。
「確かに、Bランク冒険者でもあり、実力は間違いなく私より上ではありますが……あちらは斧、こちらは剣で使っている武器が違うのですが……」
「武器が違っても、参考になる戦いというのはあるものじゃ。フィネ嬢ちゃん……でいいかの?」
「あ、は、はい!」
呼び方を確認されたフィネさんは、直立したまま頷く。
自分に話が振られるとは思っていなかったので、まだ驚きが勝っているようだ。
「フィネ嬢ちゃんは斧の扱いに慣れているのは当然じゃが、その戦い方は相手の意表を突く事に終始しておった。正反対という程ではないが、ある意味ソフィー嬢ちゃんとは対極と言える戦い方じゃろう」
「確かに、フィネは私より戦い慣れているのもあって、相手の隙を作らせるのが上手いと感じました……」
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