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特別な素材を使っている

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「どういった部分が特別なんですか? 確かに見た目は他とちょっと違いましたけど……あと、値段も特別でしたよね?」

 商売関係だからか、少し鋭い目をさせて尋ねるモニカさん。
 獅子亭は飲食店だから、鞄屋さんとは違うけど商売をしているという部分で、モニカさんも真剣にならざるを得ないのかもしれない。
 値切り交渉というわけじゃないけど、旅の準備をする時とか、安く食料を買ってくれたりして助かっている。
 そんなモニカさんが、真剣な様子で店主と思われる男性に問いかけるのは、ぼったくりみたいな商売をしていないか見抜くためとかだろうか?

 店主さんの見た目や喋り方に怯まないのは、単純に凄いと思う。
 アメリさんやフィネさんも、特に気にしていない様子だど……唯一、ソフィーは苦い表情で少し離れていたけども。
 ……あぁいう人の相手をするの、苦手なんだろうか?

「値段は、使われている素材のせいね。元々は冒険者ギルドからもたらされた素材で、武具に使う物なんだけど……その端切れというか、余った部分を買い取ったの。貴重な物だから、それを使った物は当然高くなるのよ」
「成る程……高い素材を使えば、そのもの自体が高くなる……それは納得です。では、その素材というのはなんなんですか? あれだけの値段になるというのは、かなり限られた高級な素材だと思いますけど……」
「まぁ、素材だけじゃなくて、デザインも値段に加算されているからあの値段になったのだけどね。素材は、ワイバーンの素材よ。少し前に、大量に冒険者ギルドへ持ち込まれたらしいの。そのほんの一部を買い取って、鞄に使ったってわけ。ワイバーンの素材は簡単には燃えないし、そこらの鎧より優れているから、最悪の場合は盾にもなるわよぉ? だから、あの値段になったってわけ」
「ワイバーンの素材……」
「だから、あの鞄は青かったのか……鞄に色を付けるのは特に珍しいと思っていたが……」

 男性の説明を聞いて、俺の方へ視線を向けるモニカさん。
 離れた場所でソフィーも呟いているけど、確かにがま口リュックは青かったから、ワイバーンの素材を使っていると言われたら納得だね。
 鞄は無地の物が多く、デザイン性やオシャレな色合いなんかは考えられない……ほとんど、黒や茶色が多いかな。
 だから、青色になっていたのも珍しい要因だったんだけど、ワイバーンの素材の影響だったのか……兵士さん達が身に着けていた鎧とかも、青くなっていたから素材を使った時の特性なんだろう。

 ワイバーンの素材が、どれくらいの量でどれくらいの値段がするのかまで、俺は知らないけど……高級素材というのは聞いていたし、依頼を受けて素材というか、皮を持ち帰った時の報酬もそれなりだった。
 そもそもに、ワイバーンが空を飛ぶ事もあって容易に倒せる魔物ではないため、ランクの高い依頼だったのも理由だろうけど。
 そして、そのワイバーンから大量に素材を持ち帰って、冒険者ギルドに納品したから……あのリュックに使われている素材もその時の物だろう。

「結構な量、ワイバーンの素材を買い取ったのね? このお店の中にもいくつか、それらしい物があるけど……」
「そうなのよ! なんでも、あの英雄リク様が大量に持ち帰ったらしくてね! だから少し値段も安かったし、端切れと言ってもそれなりの量を買えたのよ! そこで、目玉商品としていくつかの鞄に使っているわ! まぁ、おかげで値段もそれなりに目玉が出る程になっているけどねぇ……」
「まぁ、そこらの人が買える値段じゃないのは確かね……」

 入ったお店の中、店内に置かれている鞄を見ると、青色の鞄が幾つか見られた。
 よく見てみると、値段が金貨単位な鞄のようだから、間違いなくワイバーンの素材が使われているんだろう、というのがわかる。
 まぁでも、さすがに素材が足りなかったからなのかなんなのか、青色に塗ってあるだけでワイバーンの素材を使っていないと思われる鞄もあったのは、多分見た目をそれらしく見せるための物と考えればいいんだろうか?
 そちらは値段が通常の鞄と変わらず、銀貨や銅貨で買える程度だったので、素材を使っていないとわかったんだけども。

「もう、英雄リク様には感謝しかないわよ! 魔物に襲われた町を救ってくれただけでなく、貴重な素材まで大盤振る舞いで! あぁ、素敵な英雄様……一度会ってみたいわぁ」

 興奮した様子で、男性が夢見る乙女的な表情をさせながら、大きな声で英雄に焦がれているけど、こっちとしては微妙な気分。
 いやまぁ、感謝される事が嫌というわけじゃないんだけどね……あと、素が出ているのか、野太い声になっていたりするのも微妙な気分の要因かもしれない。
 とりあえず、さっきのレストランでもそうだけど、王都の人たちの多くは俺というか……英雄が救った事として皆感謝しているようなのはよくわかった。
 俺一人で全てをやったわけじゃないんだけどなぁ。

「……そんなに会いたいのなら、目の前に憧れの英雄様がいますよ? ほら」
「ちょ、アメリさん!?」
「ほぇ?」
「うふふ、大きな事を成して多くの人を助けたんだから、もっといっぱい感謝されなきゃね?」

 突然アメリさんが、俺の後ろに回って背中を押しながら男性の方に伝える。
 できるだけ離れてあまり目立たないようにしていたんだけど、それが無駄になってしまった……。
 男性は、いきなりの事で何を言われたのかわからず、変な声を出して俺を凝視。
 背中を押した格好のままのアメリさんに振り返ると、お茶目に笑ってウィンク。

 なんだか、本当にアメリさんの弟になった気分に一瞬だけなったけど……姉さんが、厳しくも面倒見のいい姉だとしたら、アメリさんはからかうのが好きな姉って感じだ。
 どちらも逆らえないと思うのは、俺が弟気質になってしまっているからだろうか……。

「……な、何を言っているのかしら? 英雄様は、もっと美形で凛々しいはずよ?」
「それ、饅頭の形から見た顔でしょ?」
「え、えぇ。だって、あれが英雄リク様だって……って、頭に白くてふわふわな毛玉……確かリク様は、常にその頭にドラゴン様を乗せているとか……」
「毛玉じゃないのだわ! れっきとしたドラゴンなのだわ!」
「っ!? 喋った、という事は……本当に?」

 パレードとかをやりはしたけど、目の前の男性はその時俺の事を見れなかったのか、ちゃんとした俺の顔は知らなかったらしい。
 饅頭を見て、かなり美化された俺の顔を想像していたんだろう……自覚はあるけど、目の前にいる本物の俺はあれに比べたらかなり貧相だからね……ソフィー、ユノ、俺から顔を背けて笑うんじゃない。
 アメリさんから、それは饅頭だと指摘された男性は俺の頭にくっ付いている毛玉……もといエルサに注目。
 どうやら噂が原因で、エルサがくっ付いている事は知られていたらしい。

 まぁ、俺が兜をかぶって顔を隠しても、エルサでバレたくらいだからそれも当然か。
 毛玉と言われて、我関せずだったエルサが講義するように声を上げると、そこで初めてドラゴンだと認識した様子で、男性はモニカさんやアメリさんに問いかけた。
 喋る毛玉なんて通常あるわけないから、エルサがくっ付いていてさらに喋る事が証明になるのかぁ――。


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