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王都は人や物が集まる場所
しおりを挟む従業員からお客さんにまで頭を下げられる……なんて事がありつつ、過剰に感謝されたような気がするけど、とりあえず美味しい料理やデザートを食べて満足し、お店を後にする。
料金は、ちょっとした割引どころか半額以下になっていたけど、これ以上固辞しようとすると、またオーナーさんとのいやいやいえいえ合戦が再び勃発しそうだったし、さらにまた感謝をとか大袈裟に語られそうだったので、何も言わずに支払っておいた。
また今度、正規の料金でまた食べに来る事で、ちゃんとお店の利益が出るようにしようと思う。
「いやぁ、それにしても驚いたわ。リク君といると面白い事があるのねぇ……」
「リクさんといると、あぁいう事がよくありますよ。もう慣れましたけど」
「そうなのね。飽きなくて楽しそうだわ。まぁ、私も一緒に、とまでは言えないけど……はぁ、ハーロルトが村を出て行ってから、つまらない毎日だったわ」
「飽きないというより、対応に困ったりもしますけどね。でも、ハーロルトさんがいなくても、村でのんびり過ごせたんじゃないですか?」
お店を出た後、歩きながら呟くアメリさん。
モニカさん達も、俺と一緒にいる事でよく巻き込んでいるけど……慣れたようで何よりだね。
……慣れさせてしまったとか、そういうことは考えないようにする。
俺はどちらかというと、慣れては来ているんだろうけど、毎回どう反応したらいいのか困ったりもしていて、悪気があってやっているわけじゃないのはわかるんだけど、大袈裟に言われる事が多いからなぁ。
ともあれ、そんな事よりもアメリさんだ。
田舎暮らし……というとアメリさんやハーロルトさんのいた村に対して、失礼かもしれないけど……ロータ君のいたオシグ村とか、最初に行った時は魔物が畑にいたり俺がAランクだとか、ロ―タの父親が……とかで騒がしかったけど、魔物を討伐した後はのんびりとした雰囲気だった。
まぁ、クレメン子爵が訪れた時は、色々慌ててたりもしていたけど……それでも、全体的には時間がゆっくりと流れるような、のどかな村だったのを覚えている。
アメリさんの村がどれだけの規模かはわからないけど、似たような感じなら、のんびり過ごせて良さそうだなと思うんだけど……。
「まぁ、確かにのんびりはできるわね。村の皆は大体、畑仕事に精を出して……時折魔物が出たら騒いでといったくらいかしら? 毎日が同じ事の繰り返しで、それはそれでいいんだけど……退屈なのには変わりないわ」
「魔物が出たら、退屈だとかは言っていられないんでしょうけど……それって、ハーロルトさんがいないからですか?」
「そうねぇ……ハーロルトとは、子供の頃によく村の中や畑を走りまわっていたけど、それもなくなったからね」
ハーロルトさんが村を出てから、アメリさんは遊び相手がいなくなったという感覚だったのかもしれない。
もしくは、姉さんのように邪推をするなら……気になる相手が近くにいなくなったために、寂しくなったとかで、それが退屈に繋がっているとかだろうか?
「刺激が足りないのは、村であれば仕方ない事だけどね。でも、王都に久しぶりに来たら、珍しい物や目新しい物ばかりで、毎日楽しいわ! それに何より、行き交う人が多いのがすごいわね!」
「ははは、まぁ国の中心になっている場所ですからね。人や物が集中するんでしょう。……俺は、まだあんまり王都の町を見ていませんけど」
王都は広いし、人や物も多い……当然建物も多いんだけど、村で育ったアメリさんにとっては見るもの全てが真新しく見えて刺激的なのかもしれない。
俺も近い感覚はあるけど、ほとんどが自分の知らない世界の知らない文化、という驚きの方が多いかな……エルフはともかく、獣人とかが歩いてたりするからね……モフモフしている尻尾を見て、触りたい衝動をエルサで誤魔化しているけど。
いきなり触ったりしたら、それこそエアラハールさんと変わらなくなってしまうし。
まぁ、俺の場合は、日本の街並みを知っているから、王都以上の人並みや大きな建物を見ていたりもするからだけど。
「それに、リク君みたいな可愛い子がいないのも、村が退屈な理由よねぇ」
「なっ!?」
「可愛いって……初めて……じゃないですけど、あまり言われ慣れませんね……」
「あら、可愛いよりも、格好良いっていう方が良かったかしら? まぁ、男の子はそうよねぇ……ハーロルトもそうだったし」
可愛い子、とニコニコして俺を見ながら言うアメリさんだけど、そんな事を言われたのは初めてではなく、昔姉さんにはよく言われていた覚えがある。
まぁ、十歳にすらならない頃の話だけど……成長すると、男は可愛いと言われるのに反発したり、生意気になるからね……俺だけかもしれないけど。
ともあれ、アメリさんの言った可愛いの一言に、なぜかモニカさんが反応して驚きの声を上げる。
それに気付かない様子のアメリさんは、ハーロルトさんが村にいた頃の事を思い出しているのか、少々遠い目だ……って、アメリさんよりハーロルトさんの方が年上のような?
こういう感覚に、年齢はあまり関係ないのかもしれないけど。
「リク君みたいな子が村にいたら、一日中構ってしまいそうよね。ハーロルトはそういうのとは違うし、弟っていうのも欲しかったわ……」
「あ、成る程……そういう……」
「兄弟とか、姉妹っていないんですか?」
「上に兄が一人と、妹が五人いるわ。兄はハーロルトと同い年で、そこからよく兄について回っていた私とも遊ぶようになったの。妹達は可愛いと思うけど……やっぱり弟も欲しかったわ」
アメリさんにはお兄さんがいるのか……ハーロルトさんと親しくなるきっかけも、そのお兄さんかららしい。
妙な納得をして頷いているモニカさんはともかく、妹が五人という事は合計で七人兄妹かぁ……子沢山なんだなぁと、ちょっと感心してしまった。
ともあれ、弟が欲しかったというアメリさんは、お兄さんやハーロルトさんが近くにいても、妹さんが多いのもあって、姉さんに近い雰囲気というか……弟が逆らえない雰囲気というか………姉的な何かを感じるんだろうね。
姉さんよりは、無理を言ったりしない柔らかい印象だけど。
「だから、私もソフィーちゃん……か。なんとなく慣れないが、ちょっと新感覚ではあるな」
「妹さんが多いので、年下に対して姉に近い感覚になるんでしょうね。私も姉がいるので、なんとなくアメリさんの雰囲気がそうなのだとわかります」
後ろで、アメリさんの家庭環境を想像して、納得しているソフィーとフィネさん。
ちゃん付けで呼ばれ慣れていないソフィーはともかく、フィネさんにはお姉さんがいるのか……そういえば、そういった話は何も聞いていなかったっけ。
まぁ、無理に聞き出す事でもないけど。
「だから、リク君を見ているといろいろお世話をしたくなっちゃうわね……って、そういえばユノちゃんは?」
「お世話まではさすがに……美味しいお店を教えてくれただけで十分ですよ。……確かに、ユノがいませんね……?」
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