793 / 1,903
ドラゴンも小遣いが欲しい
しおりを挟む小遣いを要求するエルサは、いつも俺と一緒にいる事が多いから、何か欲しい物があればエルサがお金を出す必要はないんだけど……最近人間に興味を持ち始めたらしく、その真似をしてみたいんだろうと思っておく。
使い道があるかはわからないけど、空の移動を含めて助けてもらっているし、お金に困っているわけじゃないから問題はない。
ただ、財布とかお金の入れ物はどうしようか……大きくなった状態ならともかく、手のひらサイズの饅頭を両手で持ってもくもくと食べる、今のサイズだとあまり大きな物は持てないだろうしなぁ。
まぁ、困ったら俺が代わりに持っておく、とかでもいいか。
なんて、お小遣いをもらえると喜ぶエルサとユノを見ながら考えた。
「ドラゴンにお小遣いをあげる……さすが英雄……」
「大きくなったエルサちゃんはともかく、今の大きさだと、間違いではないように思えるから不思議ね」
「私達を乗せる時のエルサであれば、小遣いという響きは違和感しかないがな」
フィネさんを始め、モニカさんとソフィーの呟きだけど、エルサが特別なだけでお小遣いをあげる事に英雄とかは関係ないと思います……。
大きくなったエルサが欲しがると、ソフィーの言う通り確かに違和感しかないけど……むしろ、欲しい物は力づくで奪い取る! とか言う方が似合っているような気もする……エルサはそんな事しないけど。
小さい時のエルサならまぁ、見た目に可愛げがあるから違和感は消えるけどね。
……モフモフなドラゴンがお小遣いをもらえると喜ぶ違和感は、考えないようにしておこう。
――――――――――――――
「よし、準備はできたから行ってみよう!」
「行くのだわー!」
翌日、冒険者ギルドにいくために、簡単な準備を終わらせる。
意気込んでいる俺に呼応して、声を上げるエルサもテンションは高めだ。
理由は、小遣いがもらえるからだろうけど。
昨日は、モニカさん達が持って来てくれたお菓子を食べてのんびりした後、フィネさんも混じって王城の訓練場の片隅を借りて、無理はしないよう素振りをするくらいで訓練は済ませていた。
その後も休日としてゆっくり休ませてもらう。
とはいえ、フィネさんが王城にある訓練場にやたらと緊張していたり、姉さんが俺の顔を模した饅頭を見て爆笑したりと、何もなかったわけじゃないんだけどね。
まぁ、フィネさんはフランク子爵付きで王城に来た事はあっても、冒険者が王城の訓練場を使う事は本来ないので、仕方ないか。
姉さんに関しては、爆笑した後「りっくんの顔美味しいわぁ」とか連呼しながら食べていて、かなり微妙な気分になったけど。
とりあえず、王都の名産品としてお土産用に国を挙げて、作った店を保護しようと言い出したのは、全力で止めておいた。
美化されて、似ているとほぼ言えない自分の顔とされる物が名産品になるなんて、どんな悪夢かと……。
なんか、近い事が前にもあったような気がするけど、覚えておいても仕方ないので、記憶から消去したい……というか消去しよう、前回もきっと消去して覚えていないだけだね、うん。
「お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「はい。行ってきます」
「行って来るのだわー」
ヒルダさんに言葉をかけられながら、部屋を出て王城内を歩き、外を目指す。
モニカさん達とは城門を抜けた先で合流する予定にしてあるし、ハーロルトさんにも確認して、今ならあまり目立った事をしなければ、城下町も普通に歩けるだろうと言われたので、久しぶりの町散策を楽しもう。
マックスさん達と見て回ったりした頃以来だからなぁ……。
荷物も遠くへ行くわけではないので、剣を持っている以外はお金や冒険者カードくらいで、身軽でいい。
「お疲れ様です。……それは?」
「はっ! ハーロルト様に申し付けられ、捕獲して連行しています!」
王城を歩いている途中、すれ違う兵士さん達の中に、見覚えのある巨体を二人がかりで引きずっているのを見かけて声をかける。
引きずられているのは、情けないその姿を見慣れてしまった感のある、ヴェンツェルさんだ。
「……ハーロルトより、私の方が立場は上なはずなのだがな」
「また逃げ出したんですか?」
「まぁ、少々体を動かしたいと思ってな。例の、油断をしていた兵士の再訓練もしようと考えていたのだが……」
「ハーロルト様だけでなく、陛下よりヴェンツェル様を見つけ次第、連行するようにと仰せつかっております!」
「ははは、ハーロルトさんだけでなく陛下も加わっているんじゃ、仕方ないですね」
「むぅ……」
油断していた兵士というのは、おそらく研究施設で眠らされたり、鎧を盗まれた兵士さん達の事だろう。
戻ったら厳しく訓練を、とか言っていたからそれなんだろうけど……ヴェンツェルさんには他にもやる事があるから、姉さんもハーロルトさんに協力したんだろう。
連行してきた研究者達や、ツヴァイの事もあるからなぁ……それに、王都を離れていた間の書類仕事とかもありそうかな。
かなり重要な役職なんだから、逃げずにちゃんと仕事をして欲しいと思う反面、体を動かしたくなる気持ちというのも少しはわかるので、同情はしておく……するだけだけども。
不満気な声を漏らして、二人がかりで引きずられて行くヴェンツェルさんを苦笑で見送り、気を取り直して城の外へ歩いて行った――。
「あ、リクさん、エルサちゃん。こっちこっち!」
「こっちのなのー!」
「モニカさん。ユノとソフィーにフィネさんと……フィリーナ?」
「私がいちゃいけない?」
「いや、いけないわけじゃないけど、アルネと研究に忙しいと思っていたからね」
王城を囲む堀にかかる橋を渡り、城門を出たところでモニカさんとユノに声をかけられる。
そこには、昨日話していたモニカさん達だけでなく、フィリーナも一緒にいた。
ユノは昨日、モニカさん達の宿に行ったから、一緒にいるのはわかるんだけど……。
「まだ、王都へ帰ってくる時の光景が、頭にこびりついて離れないのよ。アルネに言って、今日ものんびり過ごさせてもらうようにしているわ」
離れない光景というのは、連行途中の男が死んでしまった時の事だろう。
さっき見かけたヴェンツェルさんは、結構平気そうだったんだけど……まぁ、フィリーナの方が繊細そうだし、それも仕方ない事かな。
「俺達は冒険者ギルドに行く事が目的だけど、それでもいいの?」
「私は冒険者じゃないけど、それでもいいわよ。とりあえず、何も考えずに適当に過ごしたいだけだからね」
「わかった。それじゃ、一緒に行こう」
町の喧騒に紛れて、凄惨な光景を忘れたいんだろう……特に目的はないみたいだし、フィリーナのためにも冒険者ギルドに行った後は、城下町観光をして気を紛らわせるのもいいかなと思う。
俺も、久しぶりに見て回りたいし、まだ見ていない場所とかもあるから。
「そういえば、エアラハールさんはどうしているんだろう?」
「エアラハールさんなら、今日はまだのんびりお酒でも飲むと言っていたわ。近いうちに、また訓練を再開させるとも言っていたけど」
「成る程、わかった。それじゃ、それまでこっちものんびり過ごさせてもらおう。……お酒を飲んで、トラブルを起こさないといいけど」
「まぁ、リクとは違って飲み慣れているからな。大丈夫だろう」
0
お気に入りに追加
2,153
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~
暇人太一
ファンタジー
大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。
白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。
勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。
転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。
それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。
魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。
小説家になろう様でも投稿始めました。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる