788 / 1,903
命を弄ぶ行為は禁止
しおりを挟む魔力を大量に持っているうえで、分け与える際に繊細な制御が必要になるらしいから、俺がやると酷い事になりかねない……というか、なる想像しかできない。
できるのなら、誰かをツヴァイのように強力な魔法を使うようにできるのかもしれないけど、失敗する確率が高すぎるし、人の命をそんな実験に使いたくないからね。
ちなみにだけど、ユノやエルサに確認したところ、魔力を与えてもその与えた分の魔力を使い終わったら、通常に戻るんじゃないかと思ったんだけど、どうやら違うみたいだ。
なんでも、本来の魔力を包んで与えられた魔力がその人に根付くため、与えられた側が持っている魔力として総量が上がる……という事らしく、無理矢理魔力の入る器を大きくした状態になると言っていた。
そりゃ、無理矢理広げた器だと、何かの拍子にこぼれてしまう事も考えられるから、暴走したら悲惨な事になるのは当然の事のように思えるね。
本来あるはずがない魔力を与えられて、自分の魔力と反発する事だって考えられるし、危険な要素が多過ぎてちょっと試す……なんて、気軽にやっていい事じゃない。
ツヴァイの場合、エルフだから元々の総量というか器が大きい事や、多くの魔力を制御するのに長けていた事が幸いして、暴走はしないのかもしれない。
「ともあれだ、人を実験に使うのは我が許さぬ。リクの魔力を他人に与えるというのは、許可できんな。もちろん、魔物の研究もだ……観察しての研究であればともかく、命を徒に弄ぶ行為は今後も禁止する。良いな?」
「「「「はっ!」」」」
女王様モードの姉さんが、強めの口調で禁止する旨を徹底させるように通達する。
ヴェンツェルさん、ハーロルトさん、エフライムと宰相さんの四人が短く返事をして頭を下げ、俺やフィリーナ、アルネは黙って頷く。
この場では、国に直接所属している人が女王である姉さんの命令に従い、俺やアルネ達エルフは、国民ではあっても直属というわけではないから、恭しくする態度で示すだけなのが好ましいと教わったからね。
一応、この場は畏まった会議で公式の場ではあるけど、参加人数が多いわけでもないし、ひとまず報告を聞いて話し合うだけなので、気軽に練習をさせてもらっている。
大体は、姉さんとヒルダさんにそうしたらと提案された事だけどね。
「さて、では次にだが……報告では帝国が拘わっている可能性があると聞いた」
「はっ。先程話した、死んだ男から得た情報や他の情報を考えると、帝国が関与している可能性はかなり高いと思われます」
「……そうですな。私は直に見ておりませんが、今回突入した建物の規模はかなり大きかったと聞きます。それに、ルジナウム、ブハギムノングでの事にも拘っているとなると、個人やちょっとした組織ができる事ではないと考えます」
「うむ。……帝国が関与していると見せかけている、という事はないか?」
次の議題というか話し合う事は、俺がヴェンツェルさんと一緒に男から聞き出した情報……帝国が拘わっている可能性があるという部分だ。
正確には、帝国がというよりも、帝国に近い場所でツヴァイによって連れ去られた事、使っていた馬車などから帝国に拘わる事柄が多いからの推測ではあるけどね。
とはいえ、ツヴァイはフィリーナが知らないエルフで、この国のエルフではない事や、アテトリア王国に対して何かしらの行動を起こそうとしているのだから、帝国しかあり得ないだろうとも考えられる。
「そこまでははっきりと言えませんが……あれだけの規模を、国が拘わらずに行う事は不可能でしょう。もちろん、我が国にいる良からぬ事を考えている者の可能性も考えましたが……」
「その先は私が。国内の情報を集積していると、不穏な者達の情報も集まります。ですが、バルテルの凶行に端を発し、そういった者達は縮小を余儀なくされている傾向でもあるのです。そして、残った者達では、同じ規模で何かを行う……といった事は不可能と考えられます」
ヴェンツェルさんの言葉を継ぎ、ハーロルトさんが情報部隊からの観点を報告。
ルジナウムでは魔物を集めるための道具……これはクォンツァイタを使った物だったけど、それとブハギムノングを繋ぐための仕掛けを使っていた……こんな事、個人でやるには大規模すぎる。
さらに、ブハギムノングの鉱山ではモリーツさんが隠れてエクスブロジオンオーガの研究をしていたけど、研究に使う試験管のようなガラスなどを、作ったり運び込むにしても、小さい組織ではできない事だね。
そのうえ、ツヴァイ達がいた地下研究施設とカモフラージュの建物……建物だけならなんとでもなるだろうけど、地下にあれだけの施設を作るのに、それなりの組織が拘わっていたとしてもできるとは思えない。
「つまり、国に寄らない組織や個人では不可能なために、帝国が関与しているという事だな」
「はっ、必ずしも帝国そのものが拘わっているという、証拠はありませんが……状況を考えれば間違いないかと存じます。帝国に関係しそうな状況や物が、多く見つけられましたので」
「そうか。宰相はどう思う?」
「陛下……これは我が国への明確な攻撃意思とも取れます。報告によれば、ツヴァイなる者は魔物を使って戦争をとも言っておったとか。帝国が我が国を使った実験をし、国力を削ぐとともに侵攻する前段階なのではないかと」
「確かに、そうとも考えられるな。バルテルの凶行があった際には、軍事行動を起こそうとしていた……いや、起こしていたと言うべきか。そうだな、ハーロルト?」
「はっ! 国境では、帝国側に軍が集結していたのは確実です。バルテルの凶行を、リク殿が早々に収めて下さらなければ、我が国は侵攻されていたでしょう」
帝国がアテトリア王国に対して、攻撃する意思があるのは以前からわかっていた。
バルテルの事が収まってからは、残党のような奴らがエフライムやレナを捕まえたままにしていたくらいで、明確な何かがあったわけではないけど……今回判明した事を含めて考えると、まだ諦めているわけではなく、虎視眈々とその機会を狙っているように感じるね。
「そうだな……あの時はさらに魔物の襲撃もあったからな。リクがいなければ我が国は帝国によって蹂躙されていた可能性も高いだろう」
「お爺様の子爵領も、私を人質にして動ける状態ではありませんでした。そして、魔物が王城に襲撃した際に大打撃を受けてしまっていれば……」
「その先は言わなくてもわかる。最悪、開戦から短期間で王城陥落すらあり得ただろうな」
「はっ……」
姉さんにエフライムがクレメン子爵領の事も付け加える……その表情は、自分が人質にされたうえ、レナも巻き込まれているからか、悔しそうだ。
自分では何もできなかったからだろう……妹思いというか、シスコンの気があるから尚更かな。
こうして考えると、結構綱渡りというか、帝国の術中にはまりそうでなんとか事前に防げているから、侵攻されずにすんでいるという感じだね――。
0
お気に入りに追加
2,153
あなたにおすすめの小説
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~
暇人太一
ファンタジー
大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。
白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。
勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。
転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。
それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。
魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。
小説家になろう様でも投稿始めました。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる