上 下
777 / 1,897

王城への帰還

しおりを挟む


「降りるのだわー」

 王都上空を、少しだけ高度を上げて通過し、王城の中庭の直上で停止。
 ゆっくりと高度を下げて、地面に降りたら王城に到着だ……日が暮れる前には到着できたから、予想より少し早いね。

「お帰りなさいませ、リク様。他の皆様も」
「ただいま戻りました、ヒルダさん」

 着地したエルサから降り、小さくなって俺の頭にドッキングするのを受け止めていると、ヒルダさんが王城の中から出て来て迎えてくれた。
 エルサは目立つから、俺が戻って来たとわかってすぐに来てくれたんだろう、ありがたい。

「そちらの方は?」
「あぁ、こちらはフィネさんで……」

 見慣れないフィネさんに気付いたヒルダさんに紹介しつつ、王城の中へ入って宛がわれている部屋へと向かう。
 なんというか、最初は緊張したり不慣れだったけど、もう勝手知ったるとまで行かなくとも、かなり王城に慣れたもんだなぁ。
 王族どころか貴族でもないし、城勤めでもないのに王城に慣れる冒険者って……とは思わなくもない。
 あと、アメリさんの時と同じく、フィネさんも王城に直接エルサで降りる事に対して、驚くかと思ったけどそうでもなかったみたいだ。
 フランクさんが知っていたし、王都にいる時何度かエルサが飛ぶのを見かけていたからだそうだ……もう少し、高く飛んで見られないように気を付けた方がいいのかも?


「どうぞ……」
「ありがとうございます。……やっぱり、ヒルダさんの淹れてくれたお茶は、落ち着くなぁ」
「私はリクさんが淹れてくれたお茶も好きよ? もちろん、このお茶も美味しくて好きだけどね」
「ありがとうございます、恐縮です」

 部屋に戻った後は、皆でソファーに腰かけてヒルダさんの出してくれたお茶を飲んで一息。
 モニカさんは俺の淹れたお茶も好きだと言ってくれるけど、ヒルダさんの淹れてくれたのと比べると雲泥の差だと思う。
 一応、聞きかじった知識で基礎的な部分は、少しできているとは思うけど……根本的にヒルダさんのとは味や香りだけじゃなく深みが違う……ような気がする。
 お茶に関して詳しくないからわかんないけど、茶葉が違うのかな?
 まぁ、人気とはいえ街の飲食店にあるお茶と、王城で出すお茶の茶葉が同じなわけないか……俺が淹れるお茶は、マリーさんが買っていた物だし。

「ヒルダさん、姉さんは……まだ仕事中ですよね?」
「はい、執務中となっております。リク様がお戻りになられた事は、伝えるようにしております。何か伝える事がございましたか?」

 まだ夕食にも早い頃合いだから、仕事をしているのは当然か……女王様だし、やる事多くて大変だろうからね。
 特に急いで話さないといけないわけでもないから、伝言を頼まなくても大丈夫。

「あーいえ、戻って来たなら報告をと思ったくらいです。急ぐわけじゃないので、また後でも構いません。……どうせ、夕食の時にでも来るんでしょうし」
「リク様が戻って来られるのを、心待ちにしておりましたから」
「ははは、どうせまたこの部屋に入り込んでぐで~っとしながら、だったんでしょう?」
「さすがリク様。陛下の事をよくご存じで」

 ヒルダさんに褒められるけど、あまり嬉しくないなぁ……昔はよく見ていた光景だし、女王様になってからもそれは変わらなかったから。
 とそこで、フィネさんが不思議そうにしながら首を傾げているのを見つけた。
 どうしたんだろう?

「……リク様には、姉上がいらっしゃったのですか? 子爵様からもそうですが、噂でもそういう話は聞きませんでしたけど……でも、ヒルダさんが陛下って……」
「あ」
「リクさん、油断したわね……」
「時折、言い間違えそうになっていたくらいだからな。まぁ、戻って来て気が抜けたのだろう」
「……申し訳ありません、リク様。フィネ様がいらっしゃられるのに、私が思わず陛下と言ったばかりに……」

 フィネさんが気になっていたのは、俺が姉さんと呼んだ相手の事……近しい一部の人にしか、姉さんの事は教えていないのに、部屋に戻って緩んだ傍から出てしまった。
 これまでは言い間違えそうになっても、なんとか誤魔化せてたのになぁ……モニカさんからの言葉で、あまり上手くは誤魔化せてなかったようにも思えるけど、それは気にしない。
 ヒルダさんが頭を下げて謝るが、悪いのは油断した俺で、ヒルダさんが責められる事じゃない。
 姉さんの話をヒルダさんに振ったんだから、向こうは陛下と言うしかないからね。

「ほっほ、常に気を張り詰めておるよりは、いい事じゃ。張り詰めるだけじゃと、いつか切れてしまうからの。……さて、ワシはもう出るとするか。リク達と違って、常に宿が用意されているわけでもないからの。酒でも飲んでのんびり探すわい」
「お爺ちゃん、私も行くの」
「大丈夫じゃ、心配されるような事はせんよ。……たまには、ワシだって一人でゆっくり過ごしたん事もあるんじゃ」
「あ、エアラハールさん、トラブルには気を付けて下さい。それと、今回の同行ありがとうございました!」
「うむ。それぞれいい経験になったようじゃの……また近いうちに見てやるわい。まぁ、数日は休んでのんびりしておく事じゃの。自己鍛錬は、欠かすでないぞ」

 ヒルダさんへのフォローと、フィネさんにどう説明しようか悩んでいると、エアラハールさんが立ちあがって部屋を出ようとする。
 ユノが追いかけようとしたけど、さすがに王都でも常に一緒にいるのは嫌なようで、トラブルを起こさないと約束して出て行った。
 まぁ、見た目が小さい女の子なユノを連れて、お酒を飲みに行く事も難しいか……ブハギムノングなら、酒場くらいしか食事処がないから仕方ないけど。
 宿を探すと言うのも、早くお酒を飲むための方便な気がする。
 ともあれ、エアラハールさんはトラブルを起こさないと信じる事にして、まずはフィネさんに姉さんの事をどう説明するかなんとか誤魔化すか……なんて考えていたら……。

「りっくーん! お帰り! りっくんが帰ってきたって聞いたから、急いで仕事を片付けて来たわ!」
「……りっくん?」

 こんな風に、姉さんが部屋に飛び込んできたもんだから、説明せざるを得なくなってしまった、というのもある……はぁ……。


「な、成る程……つまりリク様はこの国の王子様でもある……と?」
「いや、そういうんじゃなくて……なんというか……」

 フィネさんは直接会った事はなくとも、姉さんの顔を知っているので、部屋に飛び込んできた姉さんが女王陛下だというのはすぐに気付かれた。
 当然ながら、もう誤魔化す事はできないので説明しなければいけないんだけど、一応別の世界からという話はせず、姉弟だっていう話をしたんだけど……死に別れとか魂が世界間を移動してとか、そういう部分を一切言わないようにすると、説明が難し過ぎる。
 これまで一緒に行動して、フィネさんは信用できる人だというのは皆同一の意見なんだけど……異世界がどうのという話は、あまり多くの人が知らない方がいいとなって、その部分を省いて説明するのに四苦八苦する事となった――。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす

こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

なんだって? 俺を追放したSS級パーティーが落ちぶれたと思ったら、拾ってくれたパーティーが超有名になったって?

名無し
ファンタジー
「ラウル、追放だ。今すぐ出ていけ!」 「えっ? ちょっと待ってくれ。理由を教えてくれないか?」 「それは貴様が無能だからだ!」 「そ、そんな。俺が無能だなんて。こんなに頑張ってるのに」 「黙れ、とっととここから消えるがいい!」  それは突然の出来事だった。  SSパーティーから総スカンに遭い、追放されてしまった治癒使いのラウル。  そんな彼だったが、とあるパーティーに拾われ、そこで認められることになる。 「治癒魔法でモンスターの群れを殲滅だと!?」 「え、嘘!? こんなものまで回復できるの!?」 「この男を追放したパーティー、いくらなんでも見る目がなさすぎだろう!」  ラウルの神がかった治癒力に驚愕するパーティーの面々。  その凄さに気が付かないのは本人のみなのであった。 「えっ? 俺の治癒魔法が凄いって? おいおい、冗談だろ。こんなの普段から当たり前にやってることなのに……」

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

処理中です...